自治体の「劣化」と行革推進法
「地方分権」「官から民」の名でおこなわれてきている公務の解体。「民」との共同というPFIがいかにいい加減なものだったか、明らかになったが・・・
求められる仕事は増えているのに、人が配置できなく、ケースワーカー不足、消防の人員不足、臨時教員・保育士の非常勤職員の増加、消費者相談のほとんどが非常勤など「人減らし」の数値目標を法で設定している「行革推進法」の矛盾が出ている。政府内の研究会でも明らかになっている。
その象徴的なことが、「精神及び行動の障害」による長期病休者率(10万人率)の急増である。
93年 200.9人から07年には1028.9人に5倍に急増している。特に、99年から07年では、272.1人から8年で756人と年95人増と、それまでの年約10人の増加から9倍に膨れあがっている。
この時に何があったか・・・
97年に制定された「地方行革」指針の素案が94年に発表されている。
96年に「財政構造改革白書」を発表され、大型事業乱発による国の財政危機を地方負担で乗り切る方向が示され、人員配置の抑制・効率化、給与水準の適正化、単独事業の見直し、上乗せ福祉の見直し、使用料・手数料などの確保などが謳われた。この時期は、「地方分権」推進がクローズアップされた時期でもある。
つまり国の財政運営の失敗を住民と地方におしつけ、国がナショナル・ミニマムを放棄するという小泉「改革」に続く流れが示された時である。
以下は資料で紹介されている「集中改革プランの取組に関する市区町村、都道府県市町村担当課の意見」である。
■部門ごとの増減傾向
○ 福祉部門
・福祉保健業務は増大の一途をたどっており、ケースワーカーの不足については、厚生労働省・県の監査による指摘もあるところである。加えて、国の緊急経済対策による定額給付金・子育て応援特別手当事業の実施にあたっては、新たな要員を確保しなければならなかったという事情もある。
・待機児童がいるにもかかわらず、定員管理計画上、保育士の増員が図れない。
・経済不況に伴い生活保護世帯が急増するなど、行政需要が高まっており、想定外の人員が必要となっている。○ 消防部門
・消防部門については、「消防力の整備指針」に基づいて体制を整備するため、一律に職員数を削減することは困難である。そのため、多くの団体では、一般行政等の別部門の職員を多く削減することで、定員純減の目標を達成している。
・消防職員について、緊急時の出動態勢に与える影響や、救急車の出動件数の増加を踏まえると、削減が困難である。○ 公営企業等会計部門(病院関係)
・集中改革プラン策定後に顕在化した地域医療問題や、診療報酬基準改正への対応のため、医師の確保や看護師の増員が必要となり、一般行政職に定員純減がしわ寄せされている。
・病院職員数は経営の状況、医療の提供のあり方等により決定するもので、一般行政職と同様の定員純減はできない。
・病院部門においては、必ずしも定員(医師・看護師数)の削減が業績の向上に繋がらない場合があるため、定員管理計画自体が流動的であり、国の制度改正並びに病院部門の経営方針の変更により一般行政を含めた内容での長期的な計画策定が難しいという問題がある。■個別団体ごとの事情
○ へき地、離島など地理的条件が不利な団体は、定員純減は厳しい状況
・離島にある保育所や診療所等については、地理的要因から民間委託等が困難であり、また、定期船といった他の団体にはない職員を必要とする部門がある。
・広大で急峻な地形に点在して生活する住民の高齢化が顕著であり、集落自治が機能しなくなる等の問題を抱えているため、専属の地域担当職員を配置するなど、中山間ならではの人員配置が必要である。○ 人口が増加傾向にある団体は、業務増に対応する定員の確保が必要
・区画整理等による急激な人口の増加に伴い、福祉、教育等の業務量が急増する中、事務事業の見直し等により定員管理を進めているが、これ以上の定員純減は、住民サービスの低下につながりかねない。
・住宅開発に伴い、平成17年度以降人口が急激に増加し、特に幼児を持つ世帯が増加していることから、子育て支援を中心とした行政対応が求められており、幼稚園教諭や保健師の確保が課題となっている。○ 合併団体は、今後も支所の統廃合等の見直しが課題
・人事・企画部門や各行政委員会等の合併前に重複していた事務部門の統廃合により数値目標を達成したが、合併した旧町村にそれぞれ支所が存続しており、統廃合を含め、支所機能の見直しが課題となっている。
・合併した自治体では、旧役場等が支所とされ、その維持のために人員が必要となる。地理的な問題や合併時の経緯等があるため、支所の閉鎖・統合はなかなか進められない状況にある。○ 財政状況が厳しい団体は、さらなる定員純減に向けた取組が必要
・今後も施設の統廃合や委託等を進めながら、緩やかに職員数の削減を行うが、財政的観点から言えば、それ以上に削減を行っていく必要があり、抜本的な取組が必要になると思われる。■組織への影響
○ 年齢層の偏在化が進んでいる
・退職不補充を続けた結果、一番若い職員が36歳、平均年齢52歳の団体もある。
・採用の抑制から若年層の職員が減少し、50代の職員が4割を占める一方で20代の職員が1割以下と少なく、世代間の職員数がアンバランスになっている。町全体で見た職員の年齢構成の偏りを検証し、長期的視点から職員採用を検討する必要がある。○ 行政ノウハウが次世代に継承されにくい
・早期退職者が退職者の約45%を占めており、経験豊富な職員の急速な減少により、若年層職員への負担が大きくなっている。(技術、経験等の次世代への継承ができないままに世代交代が行われている。)
・退職者の経験、知識をスムーズに在職者に引き継ぎ、業務に支障をきたさないような職員配置に苦慮している。団体によっては、全事務のマニュアルを作成し、対応しようとしているところもある。○ 職員の業務増、士気への影響が見られる
・超過勤務の増加や休暇取得状況の低下が顕著に表れており、職員の健康管理が心配される。
・1人あたり業務量の増を職員が感じており、余裕の無さから職場の円満なコミュニケーションが困難になりつつある。
・長期病気療養職員の増加等により、職員総数と実働職員数の差が開いている。○ 非常勤職員が増加している
・臨時・非常勤職員の採用が増え、行政サービスの低下にならない方策の工夫が必要となっている。
こうしたことが、昨日の「革新市政研究」で触れた自治体の力量の劣化の要因の1つである。
高知市は、人件費・物件費比率は全国的にも低い・・・それでも保育、給食調理、清掃業務で「民営化」「アウトソーシング」が出てくるのは、「定員管理」があるからである。
ワーキングプアの増加、少子化の進行、税・社会保障の負担増・・・一方で企業の内部留保は10年間で200兆円以上増加、大資産家優遇の税制改革。
巨大な階級間格差の進行の中で、住民の社会権を守る自治体行政をどう再構築するか、という課題だと思っている。
若者の就職難、地方からの若者の流出とを考える時、地域社会、経済の軸となるべき自治体へのキチンとした職員の配置、新規採用は極めて重要であり、地方財源の確保とともに、数値目標を規定している「行革推進法」の廃止は不可欠である。
以下は、「人減らし」の法律、通達
◆簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律/平成18年6月2日公布 (地方公務員の職員数の純減) 第55条 政府は、平成22年4月1日におけるすべての地方公共団体を通じた地方公務員の総数が平成17年4月1日における当該数からその1000分の46に相当する数以上の純減をさせたものとなるよう、地方公共団体に対し、職員数の厳格な管理を要請するとともに、必要な助言その他の協力を行うものとする。② 政府は、前項の規定の趣旨に照らして、地方公務員の配置に関し国が定める基準を見直すほか、地方公共団体の事務及び事業に係る施策については、地方公務員の増員をもたらすことのないよう努めるものとする。
③ 政府及び地方公共団体は、公立学校の教職員(公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律(昭和33年法律第116号)第2条第3項に規定する教職員及び公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律(昭和36年法律第188号)第2条第1項に規定する教職員をいう。)その他の職員の総数について、児童及び生徒の減少に見合う数を上回る数の純減をさせるため必要な措置を講ずるものとする。
④ 地方公共団体は、地方分権の進展に伴い、より自主的かつ主体的に行政改革を推進する必要があることに留意しつつ、その事務及び事業の必要性の有無及び実施主体の在り方について事務及び事業の内容及び性質に応じた分類、整理等の仕分けを踏まえた検討を行うとともに、職員数を厳格に管理するものとする。
⑤ 地方公共団体は、公立の大学及び地方公営企業について、組織形態の在り方を見直し、公立大学法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第68条第1項に規定する公立大学法人をいう。以下この項において同じ。)又は一般地方独立行政法人(同法第55条に規定する一般地方独立行政法人をいい、公立大学法人を除く。)その他の法人への移行を推進するものとする。
◆地方公共団体における行政改革の推進のための新たな指針(抄) 平成17年3月29日 総務事務次官通知 定員適正化計画の策定・見直しに当たっては、以下の点を踏まえて行うこと。 ア過去5年間の地方公共団体の総定員の状況は、各団体の努力により4.6%(平成11年から平成16年)純減している。今後は、市町村合併の進展、電子自治体や民間委託等の推進等を踏まえると、過去の実績を上回る総定員の純減を図る必要がある。各地方公共団体においては、このような観点からそれぞれの行財政運営の状況を踏まえ、明確な数値目標を設定すること。 イ将来的な職員の年齢構成や分野別職員数等について詳細に分析すること。
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