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保育改革 民主党の上半身と下半身 備忘論

 11月7日、高知自治労連の保育学校で、神戸大学の二宮厚美先生の「保育制度改革と保育の未来」と題する講演があった。
 当然、地方分権改革の問題点も語られると思い傍聴させてもらった。民主党について、自民党批判を吸収するために、国民の声に応える「上半身」と、新自由主義の「下半身」を持っていると述べ、その「上半身」をどう運動に活かすかで語られた。二宮氏の専門である「コミニュケーション労働」のところで話が膨らみ「下半身」部分はあまりふれられなかったが… 以下は、私のメモからの備忘録。

「保育制度改革と保育の未来」

◇はじめに 鳩山政権下の有利な状況
厚労省・社会保障審議会少子化対策特別部会が出した新しい保育制度改革案は大きな問題。どうたちむかっていくか。政治の世界では、政権交代で鳩山新政権が出来た。新政権は多面的な性格をもっている。それを確かめていく。
 新政権は、全体としては、保育、社会保障、福祉を小泉「構造改革」でメチャクチャにした国民の暮らしの矛盾を反映して、いわば国民に見えている上半身は、従来の構造改革を競い合った岡田、前原時代と変わっている。
 下半身の新自由主義はかわっていない部分があることも考慮しながら、上半身を活用していくことが必要。もう既に来年の参院選がはじまっている。それは、国民に対して、民主大勝、自民敗北を再現するには、上半身の政治を進めていく立場に立たざるを得ないことを意味する。

 厚労省の保育制度改革に歯止めをかける必要があるが、新政権のいい部分のどこを活用するか。3点ある。

①民主党は、障害者自立支援法の廃止することを明言している。通常国会で問題となる。障害者全体の願いを皆さん方も全力で応援する必要がある。なぜなら、この自立支援方の仕組みに、保育ももっていこうというのが保育制度改革。障害者自立支援方を廃止するなら、同じ仕組みの保育制度改革もやめなければならない。矛盾することを進めるのはもってのほか。「廃止する障害者自立支援法と中身の同じ保育制度改革ストップを」のたたかいをすめする。

②民主党は、「保育の質の向上」と「待機児童解消」の両方を言っている。この2つを同時にめざす。保育改革によって質の肥育保育を呼び起こすのは明らか。質の高い保育というなら、今の保育制度を守り、認可保育所を増やすのが当然のあり方。それが「質の向上」と「待機児童解消」方向。保育改革はそれに反する。

③脱官僚依存の立場。今回の保育改革は、前政権のもと官僚主導で進められたもの。脱官僚というなら、保育の分でもやめるのがスジである。

◇なぜ、保育改革をストップさせる運動を進めなくてはならないか。厚労省の「改革」案は、今までの保育制度を180度転換させる。公的保障としての保育を根本から転換するもの。この「改革」が実現すれば、5年以内に市町村保育は廃止になると断言できる。公立保育園は無用になるから。
 国、自治体は、なるべく保育を安上がりにしたいと考えている。保育の費用は、8割以上が人件費。安上がりにする仕組みに変える。それは公務員を民間の職員に切り替えることである。一気にやれる方法がある。国立大学、公立病院、研究所で導入された独立行政法人化である。おそらく保育所を一本にまとめて独立行政法人化する。そうすれば公務員を、民間の企業の職員に帰ることができる。身分を剥奪し、賃金も買える。わたしのいる国立大学も独法化された。神戸大学と高知大学はまったく独立した無関係な存在となった。1つ1つの企業が無関係のように。各大学で賃金も自由にきめてよい。授業料も勝手にきめることができる。保育制度を一気に民営化するのが最も大きな狙い。待機児童解消は口実でしかない。

◇.あたらしい制度の仕組み。そのためには現在の制度のポイントを押さえることが重要。
今の保育制度は、公立も民間もすべて認可保育所は、税金で運営されているというのが最大の特徴。民間保育園の利用者も、保育料は、直接園に払うのでなく役所に支払う。役所に支払うというのは、税金と同じく公的財源として、一般会計に組み入れられる。諸収入という項目に計上され、いわば税金の同じように扱われている。
 保育園は、国と自治体が2分の1ずつ負担をして運営している。民間も同じ。民間保育園運営負担金が入って使われている。だから民間保育園の保育士の賃金も税金から払われている。民間であっても、仕事は公共的性格を持ち、公務労働の性格を持つ。だから問題があれば自治体が指導にも入る。
 すべて公務労働として税金で運営されていることに、今の制度の最大の特徴がある。

 これを切り替える、とはどういうことか。税金でなく保育料で運営するようにすること。普通のサービス業とかわらないものにする。喫茶店が、コーヒーなどの売上げで運営するのと同じ。
しかし、保育料を直接、親の負担にすると高い負担になる。東京のあるところでは0歳児では20万円の負担となる。だから保護者に直接、補助金を出すので、足りない部分は自分で工面して払ってください、と変えていく。たとえば12万円補助金をだすので8万円は自分で工面して、直接、保育園に払う。保育園の料金で運営する。これも少子化対策特別委員会で議論されたことが明らかになっている。これからは、保育料をうけとって独立採算で運営するシステムにするというもの。これだと公立保育園である必要はない。公務員として働いてもらう必要はない。制度が根本から変わる。

◇ 改革で制度はどんな構図となるか。
①自治体の保育実施責任の解除。今は、民間保育園でも、自治体に実施責任があるので、代わりに実施してもらっているとして、税金を投入している。すべてが公務労働となっているが、システムがかわわると、市場で稼ぐ労働、市場労働に転換する。企業の仕事と同じになる。だから、公立保育園も民間保育園も共同して、今の制度を守り、企業化、労働の変質にストップをかける必要がある。

②保育の商品化。利用者が、サービスを補助金をもらって買う。普通の商品売買と同じになる。

③高い商品、安い商品の格差が当然発生する。
新システムでは、パートの人は、1日6時間の保育時間が認められ、その分の補助金が出る。11時間保育をしてもらいたいと思うと、プラス5時間は全額本人負担となる。別料金となる。
正職員なら11時間分の保育がみとめられ、その分の補助金が出る。そういう風に一人一人、自治体が利用時間を認定する。
 週3日の利用が認められた人が、5日見てもらおうとおもったら2日分は本人負担、日曜保育をしてもらいたいと思うと、別途契約して料金を払う。
 認められた保育時間を基本に、親毎にバラバラになる。
さらに規制緩和で基準がなくなり、床面積、園庭、調理室の必置義務とかがなくなり自由な運営がみとめられると、0歳児では、子ども3人に1人の保育士が今の基準だが、うちの園は、2人に保育士1人の手厚い配置をしてます、というところが生まれてくる。その園は一般より保育料が高くなる。基準を低めて、安い利用料の保育園も出てくる。
子どもごとに保育内容も保育料もばらつきがでる。一般の商品と同じ。格差が生まれる。子どもの差別が生まれる。
 自治体が認める保育時間を1階部分として、市場部分が2階部分となる。

④公立保育の運営の仕組みが不要となる。
公立保育園が残るとしたら重度の障害者、在日外国人の子どもなど保育に固有の問題がある対応。全体として安上がりの民間保育園となる。独立採算、自分で稼いで運営する。

◇ なにがおこるか
① 国と自治体は保育予算は圧縮する。
今は予め計算して、ゼロ歳児なら幾らという保育単価を計算し運営費を渡される。民間なら、いまなら11月1日の年齢別の在園数によって計算される。ところが親に出す補助金には基準がない。国、自治体のさじ加減で決まる。簡単に下げることができる。国、自治体は財政負担の責任から解放されるのでだんだん切り捨てられていく。
・新型インフルエンザで見えてきたもの・・・ 
 障害者自立支援法が出来て、作業所に通う障害者はつき数千円の賃金をもらうが、通所には費用が15万円かかる。利用者は、その1割の1万5千円を利用料として払う。なぜ1割か、といえば介護保険の利用料が1割。厚労省は、障害者と介護の制度を将来は1本化し、若年層を含む国民介護保険にすることがもともとの腹だった。一本化できなかっので、そのにあわせて作ったのが障害者自立支援法。ところでインフルエンザで、その障害者施設が1週間閉鎖された。利用してないので、料金支払いもしなくてよい。9割分の報酬も日割り計算なので入らない。そうなると1週間分の施設の収入がなくなる。大阪のある大きな社会福祉法人では、1週間の閉鎖で1千万円の収入減となり、経営上大変な事態となった。新システムとなると保育園もそうなる。今のシステムではそうした閉鎖も問題にならない。入所者数にあわせ、月ごとに運営費が出されているから。
 ところが独立採算では問題になる。

②保育士のワーキングプアが広がる
保育改革と同じシステムの介護保険で、介護士のワーキングプアからくる介護士不足が大問題となっている。同じ問題が生まれるのは必至。
 民主党の上半身…介護士の処遇の悪さを問題にし、つき4万円の賃金引下げを公約している。大きなきっかけ。この要求を全福祉労働者が応援し、福祉労働の賃金を改善する。4万円改善されると地の福祉労働者の賃金を上げろ、という議論が成り立つ。マニフェストを活用できる。
 新制度になると介護のようになる。ストップを。

③規制緩和は保育条件の劣化。大きな禍根を残す。
 地方分権推進会議が出してきたもの。今でもギリギリの基準を引き下げても構わないというもの。厚労大臣は大都市なら、園庭がなくても、部屋が小さくても構わないよい、と言ったと報道されている。そんなことするので、保育の将来が危ぶまれる。マニフェストの「質の高い保育」に逆行する。
 これは下半身に新自由主義路線が残っているから。構造改革、市場化路線が残っている。食い止めることが必要。

・そもそも保育とはコミュニケーション労働が本質。これを税金でもって保障することが必要。売り買いするサービスではなりたたないもの
 なぜコミュニケーションか。その中で人間が人間として育っていくから。
 人の目と動物、類人猿の目と決定的に違う点が1つある。白目があること。動物の目は、瞳とそのまわりの色は、皮膚との色と同じなど動きがわからないようになっている。人は目の動きをコミュにレーションとして使っている(コミュニケーション装置としてのヒトの目の進化 小林洋美:京都大学霊長類研究所 1999年)。集団での狩猟・採集という共同作業のために協調行動の必要性が高まったためと動物学者は指摘している。
保育・教育の分野で、9ヶ月革命という言葉が普及している。トマセロという研究で、人には類人猿には決して出来ない能力を手に入れる。すると言葉を手に入れる。何かというと・・・「指さし」の理解。誰かが、「ほら、あっち見てごらん」と一定の方向を指でさすと、赤ちゃんはその方向に視線を向け始める。この「指さし」の理解は、他の動物にはできない人間に固有の力である。これが言葉を得るキッカケとなる。
 指差しがでるには床面積が関係する。ハイハイをするにも、転がるボールを追っかけるにも・・・。しかも、赤ちゃんは直接ふれあい体験しないと理解できない。ビデオテープでお話を聞かせても脳は反応しない(NHKスペシャル『赤ちゃん 成長の不思議な道のり』で紹介されたワシントン大学のパトリシア・クール教授の研究 )。
 ハイハイが出来て、おもちゃに触れ、保育士と関わって・・・体験的な世界をくぐらないと獲得できない。
床面積を小さくしてもかまわないと、基本もわからない連中が制度改革を考えていることに怒りを感じる。
・なぜ、公務労働か… 公立、民間を問わず子供と向き合い、保育の仕事をしていれば税金で賃金が保障されるから。民間保育園も、国家公務員の福祉職の給与表の25歳前後のランクで人件費が支給されている。
 だから安心感があり、きちんとした保育ができる。

◇.後半の民主党の「下半身」の部分
 時間がもうないので一言だけ。
 子ども手当て。このプランはよい。ただ、2万6千円を使って保育所の利用する補助金とすればよい、ということに結びつく危険がある。

 質の確保と待機児童解消を同時に追求することが大事。

【レジュメ】
保育制度改革と保育の未来

はじめに 鳩山新政権下の有利な状況
 ・障害者自立支援法廃止にむけた動き
 ・民主党マニフェストの「質の高い保育+待機児童解消」
 ・「脱官僚依存」の政治

[1] 厚生労働省の「保育の新たな仕組み」が意味すること
1.「新たな仕組み」とは偽造市場化論にほかならない
 ・保育の完全市場化構想は存在せず、保育の市場化とは「准市場化」のこと
 ・「新しい仕組み」と「保育の准市場化」とは同一のもの
 ・ポイントは現物給付原則の転換(現金給付化)

2 「新たな仕組み」の構図はどういうものか
a、自治体の保育実施責任を解除し、保育労働を公務労働から市場労働に転換する
 (公務労働の市場労働化)
b、保育サービスは利用料が補助金を使って買い取る商品にする(保育の商品化)
c、保育サービスの商品の質・量によって保育料は決まる(受益者負担化)
  「定額保育料プラス上乗せ」の二階建て化
d、保育所は独立採算の経営体になる(公立保育所の全廃、独立行政法人化)
  全国的に重要なのは、こま公立保育所廃止問題

3 「新たな仕組み」の予想される帰結
a、国・自治体における保育財政の圧縮
 利用料補助金には基準がないから、保育予算は国・自治体のさじ加減で決まる
b、保育料収入を唯一の財源として保育所が運営されることによる2つの帰結
 ・保育所経営に対する財政的圧迫と保育労働のワーキングプア化
 ・家計の保育料負担の引き上げと保育水準の格差拡大
c、保育内容の劣化、保育条件の悪化

*これらはすべて老人介護、障害者分野ですでに進行していること

[2] 厚労省保育制度改革プランと民主党政権
1.新自由主義改革
a、公的規制の撤廃・緩和
   保育所最低基準の見直し、営利企業の参入促進、幼保一元化型規制緩和
   認可保育所の指定保育所化
b、現物給付型社会サービスの現金給付化
   保育所のバウチャー方式化(利用者補助制度化)、子育て支援の児童手当一元化  
c、現金給付型所得保障の限定・圧縮
  要保育度の引下げ、子育て支援補助の圧縮

2.民主党子育て支援策に潜在する問題点
a、子ども手当法の実現と子育て支援の一本化(子ども家庭省の創設)
  現金給付一元化の傾向に賛成
b、「地域主権国家」構想と分権化路線
 ナショナル・ミニマムの軽視と地域単位の受益者負担主義
 分権化の名による規制緩和(保育の最低基準の切下げ)

*行政刷新会議への加藤秀樹、総務省顧問への橋下、中田、松沢らの登用

3.当面する保育運動
a、民主党の「脱官僚」を利用した厚労省、少子化対策特別部会の作業中止
b、子育て支援の現金給付と現物給付の両面からの底上げ
c、保育のナショナル・ミニマム保障と地方自治
  地方分権改革推進委員会報告に対する批判

おわりに
 保育の現物給付原則は、コミュニケーションを核心とした保育の本質に根ざす。

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