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派遣労働規制強化反対論に反論 労働弁護団 

 財界が派遣労働の規制強化に反対論を展開している。「規制強化は憲法違反」という暴論(だったら以前は自由化以前は違憲状態だったのか?!)まである。ヨーロッパ並みのルールにするだけであるが、財界の主張に労働弁護団が説得的に反論している。 
「労働者派遣法規制強化反対論に対する意見」
・財界の論点は4つ
 ① 就労機会の喪失につながり、失業をもたらす。② 人件コストの安い海外への企業流出を招き、国際競争力を損なう。③派遣労働者が『派遣』という働き方を求めている。④ 貧困の問題は社会保障制度の問題。派遣法の規制強化は貧困の解決につながらない。

「労働者派遣法規制強化反対論に対する意見」  2009年10月28日  日本労働弁護団  幹事長 小島 周一

第1 はじめに
 民主・社民・国民新党の3党連立政権は「雇用対策の強化」を重点課題とし、その一環として、『登録型派遣』の原則禁止、製造業派遣の原則禁止、違法派遣の場合の『直接雇用みなし制度』の創設、マージン率の情報公開など派遣法の規制を強化し、『派遣業法』から『派遣労働者保護法』に改めることを内容とする「労働者派遣法の抜本改正」を政策合意として確認した(以下「3党案」という)。しかし、労働者派遣事業の業界団体のみならず、厚生労働大臣の諮問機関である「今後の労働者派遣制度のあり方についての審議会」(労働政策審議会職業安定分科会)においても、3党案を批判し、派遣法の規制強化に反対する意見が述べられている(以下「反対論」という)。さらに、こうした意見に無批判に同調するマスコミ報道もあり、ミスリードに拍車を掛けている。反対論は、派遣労働者の置かれている現状をことさら無視し、労働者派遣法の規制強化をめぐるこれまでの議論の流れに逆行するものであり、到底容認できるものではない。そこで、日本労働弁護団は、反対論に対し以下のとおり反論する。

第2 規制強化に反対する意見の趣旨・内容
 労働者派遣法の規制強化反対論の内容は概ね次のとおりである。
反対論① 「労働者派遣法の規制強化(特に登録型派遣の禁止)は就労機会の喪失につながり、失業をもたらす」。
反対論② 「派遣法の規制強化(特に製造業派遣の禁止)は、人件コストの安い海外への企業流出を招き、国際競争力を損なう」。
反対論③ 「派遣労働者が『派遣』という働き方を求めている。特に子育て中の女性は仕事と育児・家事の両立のため、(登録型)派遣がよいと考えている。
反対論④ 「貧困の問題は社会保障制度の問題である。派遣法の規制強化は貧困の解決につながらない」。

第3 基本的視点
 雇用の原則は「直接雇用」・「期間の定めなし」である。労働者派遣制度は、中間搾取の禁止、不安定雇用の防止という労働者保護の観点から職業安定法により罰則付きで禁止されている「労働者供給事業」の例外として、厳格な要件のものとで法認された制度である。労働者派遣制度の議論にあたっては、その前提として、雇用は本来直接・無期限であることが原則であり、間接雇用、有期雇用は、それを客観的に必要かつ合理的とする特段の事情がある場合に限り許されるものであること、労働者派遣制度は「間接雇用」と「有期雇用」という二重の不安を抱える点で極めて問題のある制度であり、労働者保護の観点から厳しい規制が必要とされることが確認されなければならない。

第4「反対論① 派遣法の規制強化は失業をもたらす」に対する反論
1、反対論は、派遣規制の強化の動きやそれを見込んで直接雇用への切り替えを進める産業界の対応により,派遣規制の強化は就労機会の減少につながると主張する。
 しかし、規制強化によってなくなるのは、禁じられることになる登録型の一部や製造業における派遣という形態での雇用であり、労働者派遣制度そのものがなくなるわけではない。また、規制強化によって、労働者の就業機会そのものがなくなることはない。現に、2008年年末、大量の「派遣切り」を行った大手自動車メーカーが、1年もたたず直雇用の期間工を1000人規模で募集している。むしろ、労働者派遣法の抜本的規制強化は、派遣労働者の現状を改善し,派遣労働者から直接雇用労働者に移行させることで,労働者の雇用安定と労働条件改善に直結するものである。すなわち、派遣業務や派遣期間を限定して強く規制すれば,派遣先はそれまでの派遣労働ではなく労働者を直接雇用して使用するようになるから,直接雇用労働者数が増えて派遣労働者数が減る。また,たとえば,違法派遣や偽装請負の場合の雇用みなし規定があれば,その派遣労働者は派遣先に直接雇用されることになり,派遣労働者特有の地位の不安定さはなくなり,派遣会社の中間搾取もなくなるから賃金も増加する可能性があり,現状が改善されるのである。反対論は、派遣規制を強化すれば失業が増えるかのような、また、派遣を規制しても労働者の利益にならないかのように述べるが、これらの見解は、これまで派遣法を含む労働法制の規制緩和を推し進めてきた市場原理主義論者の見解(解雇規制が厳しすぎるから雇用が増えない,解雇や派遣の規制緩和で雇用が増えて労働者の利益になる)とまったく同じ理論である。労働法制の規制緩和を推し進めた結果が今日の労働者の劣化した地位や労働条件として示されているというのに,規制緩和を推し進めたのと同じ論法で派遣の規制強化に反対するというのはあまりにも議論の過程や派遣労働者の置かれている現状を無視するものである。
 2008年11月の金融危機を契機に、失業率は増加の一途を辿っているのであり、すでに失業問題は社会問題となっている。こうした失業者の大多数が派遣労働者をはじめとする非正規労働者であることは2008年末の派遣村の惨状及び厚労省調査から明らかである。2008年10月から2009年12月に職を失ったか、失う予定の非正規雇用の労働者は、23万8752人に達し、うち14万1719人は、派遣労働者であり、非正規全体の59%を占める(「(平成21年9月速報)非正規労働者の雇止め等の状況について(厚生労働省)」)。非正規労働者の中でも真っ先に使い捨てされるのは「派遣労働者」なのである。 

2、この点、反対論者は、派遣村に象徴される大量の派遣切りは2008年末の金融危機による一過性の事態であると主張するが間違いである。格差と貧困にあえぐ派遣労働者が大量に生み出されたのは、労働者派遣法の制定と改定(1999年の派遣対象業務の原則自由化、2003年の製造業派遣の解禁)に起因しているのであり、生活を維持できる安定した収入を得ることができ、また、やりがいをもって働くことのできる適正な雇用の形態になることを怠ってきた立法政策に原因がある。また、労働者派遣制度の深刻かつ根本的な問題は、低賃金の雇用調整弁として位置づけられ、景気の変動により安易に職を失い、能力開発の機会にも恵まれず、雇用保険などの社会保障制度からも排除する、そういった雇用が大量に生み出されていく危険を構造的に内在していることにある。 年末の大量の派遣切りは、まさにこうした労働者派遣制度が孕む構造的な問題点が一気に顕在化したのであり、決して、一過性のものではない。

第5「② 派遣法の規制強化は国際競争力をそこなう」に対する反論
1、反対論は、人事管理コストの削減や景気変動による雇用調整弁を維持する必要があり、登録型派遣や製造業派遣を禁止すれば、低価格競争に勝てず、企業が人件費の安価な海外へ流出することになるから国際競争力を損なうと主張する。しかし、人件コストの削減や景気変動による雇用調整については、企業はこれまでも直接雇用の臨時工で対応してきた。企業は、直接雇用の臨時工を雇用責任を負わない派遣労働者に置き換えたにすぎない。 

2、そもそも、労働者派遣は、派遣会社に収益をもたらすことになっても、企業の人件コストの大幅削減にはつながらない。労働者派遣事業の年間売上は平成15年度の2兆3614万円から平成19年度は6兆64652万円とこの5年で3倍近く売り上げを伸ばし、労働者を商品としてレンタルすることで空前の利益を上げている(「労働者派遣事業の平成19年事業報告の集計結果(厚労省)」)。いうまでもなく、労働者派遣事業の売上の大部分は企業が派遣会社に支払う手数料(マージン)である。こうした手数料は本来、労働者が直接雇用されていれば「給与」として支給されていたものである。すなわち、企業は、直接雇用する労働者に支払うべき賃金相当額を「手数料」として派遣会社に支払っているにすぎないのである。

3、また、国際競争力の強化には優れた人材の育成が必須である。しかし、労働者派遣制度は、賃金の安い雇用調整弁としての労働者を前提とする制度であり、企業が長期的観点から労働者の能力開発を行うことは想定されていない。労働者派遣制度のもとでは人材育成は不可能であり、かえって、国際競争力の低下につながるのである。

4、さらに、国際競争力の強化は各国の共通課題であるところ、ドイツ、フランスなどのEU諸国や韓国の労働法制においては、派遣労働を一時的・補助的性格の雇用と位置付け、派遣労働者の利用事由、派遣期間、更新回数を厳格に限定し、期間制限違反や対象業務違反など法規制に反する違法派遣があった場合は、派遣先企業と労働者との間に直接雇用契約が締結されたものとみなす規定が置かれている。日本の現行労働者派遣制度は、利用事由の制限もなく、また、きわめて厳しい要件のもと、期間制限違反の場合にかぎり派遣先企業は直接雇用の申込み義務ないし直接雇用の努力義務を負うに留まる。現在議論されている3党案の内容はこれら先進諸国と同程度の規制内容を定めるにすぎず、むしろ非正規労働者をめぐる労働法制の国際基準に沿うものである。

 以上により、派遣法規制強化が国際競争力を損なうことにはならない。

第6「③ 派遣労働者が「派遣」という働き方を求めている」に対する反論
1、反対論は、労働者自ら「派遣」という働き方を求めているのであり、規制強化(特に登録型派遣の原則禁止)は、労働者のニーズに沿った多様な働き方を奪うものであると主張する。しかし、派遣労働者の多くが正社員雇用を希望していること、やむを得ず「派遣」を選択せざるを得ない状況にあることは政府の統計資料から明らかである。まず、「平成20年派遣労働者実態調査(厚労省)」によれば、将来の働き方の希望として、派遣労働者の23.3%が「派遣社員ではなく正社員として今の派遣先の事業所で働き続けたい」、17.5%が「派遣社員ではなく、正社員として今の派遣先以外の事業所で働き続けたい」と回答しており、合計40.8%が正社員として働くことを希望している。また、派遣労働者の23.3%が「常用雇用型の派遣社員として今の派遣先で働き続けたい」と回答し、雇用の安定を願っている。一方、「登録型の派遣社員として自分の都合のよい時に働きたい」と回答したのは6.2%と極めて少数に留まる。また、「平成19年就業形態の多様化に関する総合実態調査(厚生労働省)」によれば、現在の就業形態を選んだ理由について、派遣労働者の37.3%は「正社員として働ける会社がなかった」と回答し(契約社員は1.58%、パートタイム労働者は12.2%)、また派遣労働者の51.6%は「他の就業形態に変わりたい」と希望している。「他の就業形態に変わりたい」と希望している労働者の90.9%(前回84.6%)は正社員を希望している。

2、また、労働者派遣法は、常用代替防止の観点から、派遣可能期間を原則1年(最長3年)に制限しているが(労働者派遣法40条の2)、期間制限を越えた違法な状態で長期就労していた派遣労働者が、派遣先企業に直接雇用を求めたり、派遣元に損害賠償を求める裁判が各地で提起されている(日本労働弁護団「派遣酷書」)。これら派遣労働者の多くは、派遣元および派遣先企業から「派遣でも更新が前提だから」、「長期間働いてもらいたい」などと告げられ、その言葉を信頼し、長期雇用を期待していたものである。
 反対論者の主張は、派遣労働者の多くが正社員としての雇用を希望していること、やむを得ず「派遣」という働き方を選択せざるを得ない現状にあることを直視せず、あたかも労働者が自ら積極的に派遣労働を望んでいるかのような虚偽の事実を描き出し、巧妙に問題のすり替えを行っているにすぎない。そもそも、企業の都合によっていつでも職を失ってよい、長期間勤務しても低賃金のままでよいと望む労働者などいないのである。                                           
3、また、反対論は、子育て中の女性は仕事と育児・家事の両立のため、(登録型)派遣がよいと考えていると主張する。こうした反対論は、女性労働者イコール家計補助者と見なし、低収入・不安定雇用の派遣労働者に留め置こうとするものであり、そこには、子を持つ女性が、正社員として就労し続ける社会を実現しようとする発想は皆無である。
 女性労働者の7割は第一子出産後に離職している。また、女性の育児休業取得率は9割に達している。一方、男性労働者の約3割は育児休業を採りたいと考えているが、実際の取得率は1.56%であり、男性が子育て・家事に費やす時間は先進国中最低レベルである。また、女性労働者の7割は非正規労働者であり、派遣労働者の6割は女性である。母子家庭の平均年収は213万円と全世帯の平均収入(563.8万円)の37.8%しかない(「平成18年度全国母子世帯等調査結果報告(厚労省)」)。派遣労働者の過半数が正社員雇用若しくは長期雇用を希望していることを考慮すると、これらの統計数値は、(1)子育て中の女性が、①労働時間や勤務日数との関係で、正社員として就労し続けることができないこと、②短時間・短日数勤務を実現する手段として「(登録型)派遣」選択しているにすぎないこと、(2)女性の派遣労働者の多くは、扶養家族を有する家計の中心的担い手でありながら、基本的な生活を営むことが難しい賃金水準や不安定な収入状態に留め置かれていることを示している。
 労働時間の長短と労働契約期間の限定は別次元の問題であるし、また、正社員での短時間勤務や直雇用のパート就労によってワークライフバランスの実現は可能である。子を持つ女性が正社員として就労を継続できる社会・労働政策の実現こそが喫緊の課題なのである。

第6「④ 派遣村に象徴される貧困の問題は社会保障制度で解決すべきであり、派遣法の規制強化は問題解決につながらない」に対する反論

1、反対論は、派遣村に象徴される貧困の問題は社会保障制度で解決すべきであり、派遣法の規制強化は問題解決につながらないと主張する。
しかし、ワーキングプア拡大の要因は、聖域なき構造改革の名の下、雇用の基本原則を無視した労働市場の規制緩和により、多くの企業が恒常的業務について正規雇用労働者を低賃金・不安定雇用の非正規労働者への置き換えを進めたこと、終身雇用を前提とするそもそも脆弱な社会保障制度のもとでさらなる社会保障費の削減が重なったことにある。2009年6月末に厚生労働省が公表した2009年版労働経済白書(「平成21年版 労働経済の分析」)においても、1990年代以降の2回の景気後退と比べ、今回の景気後退では、正規労働者については残業規制、休日・休暇の増加、配置転換等の雇用調整で雇用が比較的維持されている一方、非正規労働者の雇止めや解雇が増加した事実を指摘したうえで、その背景に、賃金水準が低く能力開発の機会に恵まれない非正規労働者の増加があると分析し、労働者の非正規化と貧困の問題が相互に関連する問題であることを認めている。だとすれば、貧困問題の解決のためには、社会保障政策の強化のみならず、労働者派遣法の抜本改正を含め非正規労働に関する労働政策・労働法制の見直しは必須である。

2、特に、労働者派遣制度が貧困の温床となっていることは統計資料から明らかである。
まず、「平成20年派遣労働者実態調査(厚労省)」によれば、派遣労働者の9割が、生活を賄う収入源について「自分自身の収入」と回答している(次いで「配偶者の収入」31.5%、「親の収入」19.3%)。一方、パートタイム労働者では「自分自身の収入」が28.6%であり、「配偶者の収入」が56.4%である(「平成19年就業形態の多様化に関する総合実態調査結果(厚労省)」)。また、「平成19年就業形態の多様化に関する総合実態調査結果(厚労省)」によれば、1ヶ月(調査対象平成19年9月)の賃金総額について、正社員では、20~30万円未満が39・0%(前回33.3%)と最も多いが(次いで「30~40万未満」が25.5%(前回25.23%)、40~50万円未満13.8%(前回10.3%)である)、派遣社員の42.2%(登録型49.6%、常用型34.6%)は「10万円未満」である(次いで「20~30万円未満が36.8%、「10万円未満」および「30万円~40万円未満」がそれぞれが8.8%)。これらの統計数値は、派遣労働者の大多数は、家計の中心的担い手であるにもかかわらず、派遣労働という就労形態ゆえに生活を維持することも困難な収入しか得られていない惨状を示している。

3、 生活保護水準と言われる年収200万円以下で働く民間企業の労働者は、1995年の793万人から2006年には1000万人を超え(1023万人)、2008年には1067万人と給与所得者の2割を超えている(国税庁平成20年分民間給与実態統計調査)。また、「労働者派遣事業の平成19年事業報告の集計結果(厚労省)」によれば、派遣料金について、一般労働者派遣事業の平均料金は14,032円と前年の15,577円より9.9%減少、特定労働者派遣事業の平均料金は20,728円と前年の22,948円より9.7%減少し、派遣労働者の賃金については、一般労働者派遣事業における派遣労働者の平均賃金は9,534円と前年の10,571円より9.8%減少、特定労働者派遣事業における派遣労働者の平均賃金は12,997円と前年の14,156円より8.2%減少している。一方、労働者派遣事業の年間売上は平成15年度の2兆3614万円から平成19年度は6兆64652万円とこの5年で3倍近く売り上げを伸ばしている。労働者を商品としてレンタルする労働者派遣事業により業界団体が空前の利益を上げる一方、派遣料金の買いたたき、値崩れが進み、派遣労働者の生活は貧困の一途をたどっているのである。

第7 結語
 以上のとおり、派遣労働者保護のための規制強化に反対する意見は、もっぱら企業の理論にすぎず、派遣労働者のおかれた惨状が労働者派遣の制定とその後の規制緩和に起因する構造的な問題であることをまったく認識していないのであり、断じて許容できない。日本労働弁護団は、規制強化反対論に抗議するとともに、労働者派遣法の規制強化の早期実現を要請するものである。


有期労働契約法制立法提言
2009年10月28日
日本労働弁護団
幹事長 小島 周一
 
日本労働弁護団は、2005年に労働契約法立法提言を公表し、この中で有期労働契約の規制について具体的な提言を行った。
 この間、非正規労働者が3割を超え、不安定・低賃金の雇用が急速に拡大しており、非正規労働者の大部分が有期契約労働者である。
 企業が有期労働契約を締結する主たる理由に、人件費の抑制・削減と解雇規制の僭脱目的がある。すなわち、正社員として雇用すると正当理由がなければ解雇できないため(労働契約法16条)、恒常的な業務であってもあえて期間を定めて雇用し、必要な期間だけ更新を重ね、必要がなくなれば更新を拒絶するのである。
非正規化の流れを食い止め、誰もが人間らしい労働条件で働けるために、有期労働契約を例外と位置づけ、包括的な規制を加えていくことが喫緊の課題である。08年3月1日には、労働契約法が施行され、同法第17条2項で有期労働契約について、期間設定の配慮義務が規定された。しかし、有期労働契約にかかわる多くの立法課題は、未解決のままである。
 日本労働弁護団が09年2月に実施した「派遣・非正規ホットライン」でも「1年契約を更新して8年勤務していたところ、いきなり契約更新しないといわれた」(女性・校内カウンセラー)、「正社員と同様に働き1年契約を7回更新してきたが雇止めされた」(女性・製造業)、「1年契約で6回更新。人員整理のためという理由で更新拒絶された」(男性・事務職)といった相談が多数寄せられている。
 厚生労働省は、08年2月に有期労働契約研究会(座長:鎌田耕一東洋大学教授)を設置した。研究会は、07年の改正労働基準法附則第3条に基づき、契約期間について検討するとされているほか、労働政策審議会答申「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」において、「就業構造全体に及ぼす影響も考慮し、有期労働契約が良好な雇用形態として活用されるようにするという観点も踏まえつつ、引き続き検討することが適当」とされていることから、有期契約労働者の就業の実態及び有期契約労働者に関する今後の施策の方向性を検討することとされている。
 このような中で、日本労働弁護団は、有期労働契約のあり方及び有期契約労働者の地位の向上を目指して本部に有期労働契約法制研究会を設置し、ドイツ、フランス等の諸外国の法制度やこれまでの各党・諸団体が提案した有期労働法案等を検討し、労働現場の実情も踏まえ、以下のとおり、05年立法提言をより具体化した有期労働契約法試案を作成した。検討を要する課題も残されているが、ここに試案を立法提言として公表する。

第1 有期労働契約の範囲
使用者は、次の各号に定める正当な理由がなければ、期間の定めのある労働契約(以下、「有期労働契約」という)を締結することはできない。
  ① 休業又は欠勤する労働者に代替する労働者を雇い入れる場合 (*1)
  ② 業務の性質上、臨時的又は一時的な業務に対応するために、労働者を雇い入れる場合 (*2)
  ③ 一定の期間内に完了することが予定されている事業に使用するために労働者を雇い入れる場合 (*3)

第2 契約期間
1 有期労働契約は、前条各号に定める正当な理由がある場合に必要とされる合理的期間を超えて締結してはならない。 (*4)

2 前項の期間は、3年を上限とする。

第3 契約締結時の労働条件の明示
 使用者は、有期労働契約の締結に際し、労働者に対して、次の各号に定める事項を書面により明示しなければならない。 (*5)
① 有期労働契約の期間(但し、確定した期間を定められない場合には、予定の終了または目的の実現を終期とできる)。 (*6)
② 有期労働契約の期間の定めをする具体的な理由
③ 休業・欠勤労働者の代替として雇い入れる場合には、被代替労働者の氏名及び職務内容 (*7)
④ 有期労働契約に基づいて労働者が従事する職務の内容
⑤ 賃金報酬及び諸手当の額
⑥ 試用期間が設けられる場合にはその長さ
⑦ 当該労働者に適用される社会保険 (*8)

第4 前3条に違反する有期労働契約の効果 (*9)
 前3条の定めに反する有期労働契約が締結された場合は、期間の定めのない労働契約が締結されたものとみなす。 (*10)

第5 期間満了前の解雇
 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。 (*11)

第6 期間満了前の退職
1 労働者は、合理的な理由があるときは、期間の定めにかかわらず、2週間以上の予告期間を定めて、いつでも退職の申し出をすることができる。 (*12)

2 前項の予告期間の経過により有期労働契約は終了する。前項による退職の申し出に予告期間の定めがないときは、その申し出の後2週間の経過により有期労働契約は終了する。 (*13)

第7 有期労働契約の更新
1 有期労働契約は、1回に限り更新することができる (*14)。但し労働契約の全期間が3年を超えることはできない。

2 有期労働契約の更新には正当な理由がなければならない。

3 使用者は、有期労働契約の更新に際し、労働者に対して、第3条各号に定める事項を書面により明示しなければならない。

4 使用者は有期労働契約の期間満了後、契約期間の3分の1の期間が経過しない限り、同一業務に労働者を受け入れることはできない。(*15)

5 前4項の定めに反する有期労働契約は、期間の定めなく締結されたものとみなす。有期労働契約期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事したときも同様とする。 (*16)

6 労働者が有期労働契約の更新の申込を行い、使用者の更新拒絶に合理的な理由があると認められない場合は、従前と同一条件(期間は1項の範囲内)で有期労働契約の更新があったものとみなす。 (*17)

第8 差別禁止
1 使用者は、有期労働契約を締結している労働者(以下、「有期契約労働者」という)につき、比較可能な条件にある期間の定めのない契約の労働者と均等な労働条件をもって処遇しなければならない。但し、異なる労働条件が客観的合理的理由による場合は、この限りではない。 (*18)
2 前項の労働条件には、賃金、休日・休暇、福利厚生その他異なる扱いが客観的に正当化されない労働条件がすべて含まれる。 (*19)

第9 情報提供等 (*20)
使用者は、希望する有期契約労働者が期間の定めのない労働契約を締結することができるよう、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。
① 期間の定めのない労働契約にかかる労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する有期契約労働者に周知すること
② 期間の定めのない労働契約にかかる労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する有期契約労働者に対して与えること
③ 有期契約労働者を対象として期間の定めのない労働契約にかかる労働者への転換のための試験制度を設けることその他の期間の定めのない労働者への転換を推進するための措置を講じること。

*1 ドイツのパートタイム労働・有期労働契約法(TzBfG)14条1項3号、フランス労働法典L.122-1-1条1号参照
*2 TzBfG14条1項1号、フランス労働法典L.122-1-1条3号参照。具体的にはイベント等の行事が考えられる。
*3 TzBfG14条1項4号参照。具体的には季節的業務や建築工事等が考えられる。
*4 期間については、フランス法では原則18カ月(フランス労働法典L.122-1-2条2号)、ドイツ法では正当理由がない場合に2年とされている。
*5 更新の有無及び更新ありの場合の判断基準については、検討を要する。
*6 フランス労働法典L122-3-1条は不確定期限の場合は最低期間を明示させている。TzBfG14条4項も同様である。
*7 フランス労働法典L122-3-1条参照
*8 特に雇用保険の受給要件を充足しているか否かが重要。
*9 フランス法では刑事罰の対象となっている(3750ユーロの罰金又は6ヶ月の禁固)本試案では、労働契約法の改正による民事法として提言しており、罰則については規定していない。
*10 05年提言「労働契約は、使用者と労働者が書面により期間の定めを合意しない限り、期間の定めなく成立したものとみなす」「前項に反する労働契約は、期間の定めのない労働契約とみなす」
*11 労働契約法17条1項と同じ
*12 強行規定である。就業規則でこれより長い期間を定めてもその部分は無効となる。
*13 使用者からの損害賠償請求の制限について規定すべきかは検討課題である。
*14 フランス労働法典を参考にしている(L.122-1-2条)。有期労働契約があくまで例外であることから、更新には、当初の契約締結時に予期できなかった特別な事情が発生するなどの正当事由が必要。
*15 有期契約労働者を入れ替えることによる脱法を防止するもの。
*16 第2文は、特に更新の合意なく、事実上継続した場合の規定である。
*17 有期労働契約の更新にも第1の各号の「正当な理由」が存在していることが必要である。使用者と労働者との間で有期労働契約の更新の合意が成立した場合でも「正当な理由」が存在していなければ、期間の定めのない労働契約になる。労働者が更新を申し込んで使用者が更新拒絶する場合に、第1の各号の「正当な理由」が存在していないことは更新拒絶の「合理的な理由」となる。このほか、更新拒絶の「合理的な理由」当該労働者の勤務態度不良等の個人的事由等が考えられる。
*18 フランス労働法典L122.3-3条を参考にしている。異なる労働条件の合理的理由についての証明責任は使用者が負う。
*19 施設利用等も含まれる。退職金、賞与については検討を要する。
*20 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)12条1項を参考にしている。

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