「保育制度改革」 指定制度で憲法25条に風穴
国の設置義務廃止に対する保育、福祉施設にかかわる団体からの強い反対を受け、現行制度を残しながら、設置基準に風穴をあける「指定事業者」制の併用をおこなおうとしている。
・事業者の指定制度案示す 保育制度改悪 現在の認可制残し 赤旗09/11/1
・“保育所抑制 自治体認可制に原因” 厚労省主張に疑問続出 担当者「違和感ある」 本紙が全都道府県・政令市調査 赤旗09/5
・「静かな有事」第2部(5)握り潰される保育所 産経 11/1
・長妻厚労相:福祉現場を視察 地方分権巡り実情を探る 読売11/1
待機児童解消が進まないのは、自治体財政が、過度な設置基準で保育所建設を妨害しているからというのが国の「説明」だが、地方自治体の財政を切り捨ててきたことが根本原因である。ナショナルミニマムを守るたたかいの焦点だと思う。
【事業者の指定制度案示す 保育制度改悪 現在の認可制残し 赤旗09/11/1】 保育を市場化する新しい保育制度について論議する社会保障審議会少子化対策特別部会の保育第2専門委員会が30日開かれ、厚生労働省は、保育に参入する事業者について、これまでの認可制とは別の新たな指定制度案を示しました。 現行制度では、国の最低基準を満たした保育所を都道府県が認可します。新しい制度では、認可制は残したまま、新たに指定制度を導入。 通常保育以外に、一時預かりや保育ママなどの「多様なサービス」の類型ごとに指定基準を設け、基準を満たした施設を都道府県の公金支出の対象とします。 同省は指定基準について、「サービス量が充分に確保できる」ように「厳しすぎない基準」にする必要があると説明しました。通常保育については現在の国の最低基準を指定基準とします。 また、現在の認可制度は、指定保育所より質の高い保育所の認可の仕組みとして残すとしています。 厚労省は、現在、自治体が、国の最低基準を上回る認可基準を独自に設けて、最低基準を満たした施設でも認可しない場合があるとして、4県2政令市の資料を提出。都道府県の裁量によって認可されない施設を「指定」することで、サービス量の確保を図ると説明しています。 一方で、指定制においても、自治体の施設整備計画の必要量を超える場合は、指定拒否ができる仕組みも考慮すべきだとしています。 同日の専門委員会では、運営費の使途制限を緩和して、株式会社の配当にも回せるようにする論議もされましたが、意見はまとまりませんでした。 【解説】 質により保育料に差のおそれ 厚労省が示した制度案は、現在の認可制を残した上で指定制を導入するというものです。同省は、「認可を受けない指定施設も、質を高めて、できる限り認可化してもらうのが望ましい」と説明しており、認可園は指定園より保育の質の高いものと位置づけられています。 認可園が指定園より高い質を保つには「インセンティブ(奨励策)」がいるとして、行政が出す運営費の単価設定を高くするなどが必要だとも説明されています。 取材に対し担当者は、保護者の負担する保育料について、「今後の検討だが、(認可園と指定園では)異なるものになる可能性はある」とのべました。 そうなった場合、「公的保育」のなかで保育の質によって保育料に差がつくことになります。高い保育料を払えない親は質の低い指定園で我慢するという事態も考えられます。 厚労省は、現行の仕組みでは都道府県に認可の裁量が認められていて、都道府県が、独自に高い基準を設けたり、財政上の理由や、需要が見込めないなどの理由で認可をしぶるために保育所が増えないといいます。それを指定制導入の理由としています。 ところが、新しく導入する指定制でも、自治体の整備計画を超えるという理由で、指定を拒否できる仕組みを考えるといいます。それなら、厚労省が問題にする現行の認可の裁量とどう違うのか。 「指定制ではニーズ(需要)に沿った整備計画が立てられると思う」という発言が委員からでましたが、そんな保障はありません。指定制導入の理由は破たんしているといわざるをえません。 現行制度で、国が緊急に、潜在需要も含めた整備計画を立て、認可保育所増設を正面に位置づけることこそ、いま一番に必要です。 (西沢亨子)
【“保育所抑制 自治体認可制に原因” 厚労省主張に疑問続出
担当者「違和感ある」 本紙が全都道府県・政令市調査 赤旗09/5】
保育制度の大幅な改変を狙う厚生労働省は十九日、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の少子化対策特別部会を再開し、新制度の詳細の検討に入ろうとしています。しかし、同省が制度改変の理由の一つとしている「都道府県に保育所認可の裁量権を認めているから保育所が増えない」との主張には明確な根拠のないことが、本紙の調べで分かりました。
少子化対策特別部会が二月にまとめた第一次報告は、「現行の保育制度の課題」の一つに「都道府県に、認可の可否の判断に対する幅広い裁量が認められ…待機児童がいる市町村で、かつ、客観的な基準を満たしている事業者からの申請であったとしても…必ずしも認可されない」ことを挙げています。
実際にそうしたケースがどれくらいあるかとの本紙の問い合わせに、同省保育課は「つかんでいない」と答えました。
本紙が四十七都道府県・十八政令市の保育所認可担当者に電話で聞き取りを行ったところ、ほぼ全員が「そうしたケースはない」と回答。「第一次報告の書き方には違和感がある」「実際にそんなケースがあるのか知りたい」など、疑問の声が多数上がりました。
一方、「市町村が、財政難や将来の子どもの人口減を理由に保育所増設は難しいと考えているという話は聞いている」と話す県の担当者もいました。これは、地方の保育所予算の不足や、保育所の設置認可に当たっては将来の保育需要の推計などを踏まえることを定めた厚生省通知(二〇〇〇年三月三十日付)が保育所増設の抑制要因となっていることを示すものです。
厚労省は第一次報告で、現行の都道府県による認可制度に代え、客観的な基準を満たせば参入自由とする指定事業者制を導入する方向を打ち出しました。聞き取りでは、指定制について、保育の質が低下する恐れなどが指摘されました。
◆保育予算の拡充こそ急務 改変で「制度崩壊しないか心配」本紙全国調査で浮き彫り
厚生労働省は「保育所を増やすためには、認可制には問題があり、指定事業者制にすべきだ」と、制度改変の必要性を主張します。しかし、認可保育所が増えないのは現行制度のせいなのか、指定事業者制でよくなるのか―。一面既報の本紙の全国の保育所認可担当者への聞き取り調査からは、認可保育所が増えない要因や指定事業者制への不安が浮かんできます。「増設を抑える」
保育所の認可権は都道府県にありますが、実際は、保育の実施主体である市町村の意向に沿う形で調整が行われています。市町村は、厚労省(当時は厚生省)の通知(「保育所の設置認可等について」)に従って、待機児童数や就学前の子どもの数、将来の保育需要推計などを勘案し、認可保育所を増設するかどうかを決めています。
ところが厚労省は、二〇〇一年に待機児童の定義を改悪。認可保育所を希望したのに入れず、やむなく認可外保育所に通っている子どもを待機児童の数から外し、見かけ上、待機児が少なくなるようにしました。
自治体の認可の裁量を問題視する厚労省ですが、同省の通知や待機児童数のごまかしが、市町村の認可保育所増設を抑える方向に働いている側面があります。国に、認可保育所を抜本的に増設する気があるのかが問われています。
「国の予算半減」
現在の最大の問題は、国・地方の保育予算が極めて不十分なことです。国の保育所運営費予算が一般会計に占める割合は、一九七〇年代後半の0・8%から、〇八年度は0・4%に半減しています。
さらに政府は、公立保育所の運営費補助を〇四年度に、施設整備費補助を〇六年度に一般財源化しました。多くの市町村が、財政難から、公立保育所の増設に消極的になっています。
民間による新規開設も、現在の経済状況のもとでスムーズに進む状況にありません。
厚労省自身、保育制度を変えても、サービスの量を保障するには裏付けとなる財源確保が不可欠だと認めています。保育所が増える確証もない制度改変に熱中するのでなく、予算拡充に取り組むことこそ必要です。「指定制に懸念」
本紙の全国の保育所認可担当者への聞き取りでは、指定事業者制にすることで「チェック機能が弱まらないか」「乳幼児の安全確保を十分踏まえた制度改正を考えてほしい」などの疑問や不安が多く聞かれました。
昨年には、首都圏を中心に展開していた企業立の保育所が、本社の経営難から一斉に閉園する事態が起きました。「財務状況の審査を強化すべきだという声が強いなか、指定事業者制という話が出てくるのはよく分からない」との声もありました。
県によっては、待機児よりも過疎化・少子化による保育所の定員割れが問題になっているところもあります。「多様な事業者の参入が見込めない地方では、保育の質・量が低下するのではないか」「都市部と地方とでは実情も違うのに、全国一律に指定制を導入するのか」と懸念を語る担当者もいました。
直接契約や指定事業者制になったときの財政措置についての不安も出されました。ある担当者は「予算削減につなげていきやすい制度になるのでは。制度崩壊にならないか心配だ」と語りました。(坂井希、西沢亨子)
【「静かな有事」第2部(5)握り潰される保育所 産経 11/1】 「10月から復職しようと考えたけど保育園に空きがなくて。無認可の保育料は高いし…」。横浜市の主婦、藤川美樹さん(33)=仮名=はあきらめ顔だ。 保育所に満員で断られる待機児童は、平成21年4月1日現在2万5384人。前年比29・8%増。増加数、増加率とも13年の調査開始以来最大だ。待機児童数には申し込む前に「無理」とあきらめている人の数は含まれない。こうした潜在的な待機児童は「100万人」ともいわれる。 保育所が足りない-。 女性は「仕事と育児の両立」への不安がよぎり、子供が欲しくても産むことをためらう。少子化の大きな要因となっている。 待機児童は若い世代が多い都市部に80・6%が集中する。東京都7939人、神奈川県3245人が飛び抜ける。一方で富山、石川、福井、山梨、長野、鳥取、香川、佐賀、宮崎の9県はゼロ。地域のアンバランスが際立つ。全国では定員213万2081人に対し、利用者数204万974人。数字だけを見れば定員のほうが多い。 政府は14年度から「待機児童ゼロ作戦」を推進し定員を拡大してきたが、需要に追いつかない。幼稚園に保育所機能を持たせる「認定こども園」や自宅で子供を預かる「保育ママ」も普及には遠い。厳しい労働条件に保育士も不足する。 昨年2月に「新待機児童ゼロ作戦」を始めたが、いたちごっこは続く。 ■ ■ ■ 10月8日。地方分権改革推進委員会の丹羽宇一郎委員長は、保育所の屋外遊び場面積の基準見直しなどを含む第3次勧告を鳩山由紀夫首相に提出した。首相は「できるだけ早期に実行に移したい」と応じた。 だが、「認可保育所が増えないのは設置基準の問題ではなく、自治体の苦しい財政事情がある」との見方も少なくない。 小泉政権が進めた国と地方の税財政を見直す「三位一体改革」で、公立保育所運営費が自治体の一般財源化されたことが大きい。厚生労働省によると、公立保育所は16年の1万2358カ所から21年は1万1008カ所に減少。逆に、私立が増え、20年には私立が公立を上回った。 「これは行政のサボタージュだ!」。 昨年の埼玉県川越市の社会福祉審議会分科会。メンバーの岩渕勝好東北福祉大教授は、保育所新設に消極的な市当局の姿勢をただしたが、他のメンバーの反応は鈍かった。 岩渕氏は「結局、『保育は量より質が重要』という趣旨の意見書がまとめられ、保育園を増やさない逃げ口上を審議会として正当化した」と振り返る。同市の待機児童数は今年4月現在、前年より65人増の173人に達した。 「財政難の自治体は“金食い虫”の公立保育所をどんどん民営化している。私立保育所も整備費補助や運営費負担が必要になるから、申請があっても認可しないことがあるようだ」とも指摘する。 「事業者が認可の相談をすると、自治体担当者は新規参入を嫌う保育団体の了解を取るよう指導する。さらに面積などで最低基準以上の高いハードルを求める。こうした難題を次々と突きつけ認可までの時間を延ばす」。 関東地方の元自治体幹部は“握りつぶし”の手口をこう明かす。 ■ ■ ■ 東京都港区の東麻布保育室。他の保育所にはない「継ぎはぎ」がいたるところに確認できる。廃校になった区立小学校を再利用したためだ。 柱や出っ張りには緩衝材が巻かれる。近隣の区立保育所開設までのつなぎ。24年には廃止するが保護者の支持は高い。 民主党のマニフェストは「小・中学校の余裕教室・廃校を利用した認可保育所分園を増設」と掲げる。だが、待機児童の多い自治体では小・中学生も多く、転用できる教室の確保ははかどらない実情もある。 一方、新たなアイデアで取り組む自治体もある。 東京都町田市は、「20年間期間限定認可保育所」制度をスタートさせた。民間の土地所有者が保育所を建築し、それを借り受ける社会福祉法人が100人規模の認可保育所を開設し、20年間運営する仕組みだ。 同市の田中英夫副参事は「将来的な少子化傾向は明らかで運営者にすれば新たに保育園を作るのは不安。逆に土地所有者は土地を有効活用ができて安定的に賃貸料が入る。双方にメリットがある」と説明する。開園目標は22年4月。いまでは、他の自治体からの問い合わせも届く。 希望するすべての人が子供を預け働ける社会の実現-。単に保育所数を増やせば解決ともいかない。延長保育や病児保育といったニーズは広がり、「質」の確保が求められてもいる。 少子化という「静かな有事」。われわれの前に立ちはだかるハードルは、決して低くない。=第2部おわり(この企画は、河合雅司、桑原雄尚、峯匡孝が担当しました)
【長妻厚労相:福祉現場を視察 地方分権巡り実情を探る 読売11/1】 長妻昭厚生労働相は31日、東京都内の保育所や特別養護老人ホームなど4カ所の福祉施設を視察した。地方への権限移譲を求める地方分権改革推進委員会第3次勧告への厚労省の回答期限を11月4日に控え、福祉施設の実情を探るのが目的。長妻厚労相は「憲法の保障する最低限度の生活の基準をどこまで自治体に任せるか、悩んでいる」と語った。 福祉施設の面積や職員配置の基準を巡っては、待機者解消などを念頭に全国知事会などの地方団体が権限を移すよう訴える一方、施設側からはサービス低下を懸念する声も上がっている。 この日、中野区の知的障害者入所更生施設「愛成学園」を訪れた長妻厚労相に対し、施設や区側は「待機者が多い中、居住面積の国の基準をなくすだけでは、入所者を狭い部屋に押し込めるといった事態が起きるおそれもある。権利擁護の仕組みが必要」「権限移譲は必要だが、自治体の財政力に応じたサービス基準になってしまわないか」などと訴えた。【
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