高知の革新市政から何を学ぶか 研究会
月1回開催している革新市政研究会。もう3年になるだろうか。全体の流れの議論、それぞれの3代の市長の施策の議論、戦前の社会運動史、戦後の全国的な革新自治体、地方自治をめぐる議論を経て、先日は、トータル的な問題提起をさせていただいた。
労働運動と市民運動の連携、市民・職員の力の構築、内発型地域づくりの政策課題など・・・議論の中で、あらためて今何が必要かが見えてきたように感じる。議論も面白くなってきた。
以下は、私の報告レジュメ
【革新市政研究 09.11.28】
◇問題意識
・戦前の社会運動(その中心人物の1人が氏原一郎)、反権力の県民性・・・
これは革新市政をつくる可能性をしめすものでであって、可能性が現実となる原因論、運動論がいる。
時代の要請(市民要求)に応える政策方向、革新勢力を支えた運動の成長という両面から見る。
・その点で、全国的な革新自治体高揚期と特徴を同じくする坂本市政よりも、氏原市政が継続した要因、その間に築いた市民・職員の力 (誕生だけなら偶然とも言える)、革新自治体が退潮期、臨調「行革」時に、横山市政が継続したことに注目することが、視点としては大事ではないかと考える。
◇革新自治体とは
①体制 首長や支援団体が革新政党、革新団体
②労働者階級、国民・市民の立場
階級社会である以上、資本対労働者という生産関係を土台として、階級闘争がたたかわれる。上部構造におけるたたかいの1つの構成要素としての革新自治体
③政策的には・・・
資本の横暴をおさえ、憲法25条の実現をめざす
軍国主義、帝国主義に反対し、9条を守る
少数者のための政治から多数者のための政治へ。民主主義の徹底 国民主権、住民自治の発揚
という革新三目標に定式化される内容と一致するものとなる。
④自治の働きの建設 -- 市民と職員の力
「本当に建設したのは、切実な要求をかかげて自治体運動に参加する住民、それに応える政治家、行政職員の存在。対話できる自治の働きではなかったか」/進藤兵「革新自治体」/渡辺治編 『日本の時代史 高度成長と企業社会』 2004年
Ⅰ 革新市政の担い手の土台をつくった9条、25条にもとづくたたかい
①氏原市政
教育委員公選制(1948年) 教組推薦3名当選、教組・男女同一賃金
教員レッドパージ阻止と高校三原則(49年) ~ 朝鮮戦争
勤評・安保 教科書無償運動 /朝日訴訟
◇「中央直結か」が敗北、通用しなかった背景
・平和と民主主義への強い意識 → 国家は信用されていたか?
・反権力の県民性もあるが、それを具現化した平和・民主、生活向上もとめる労働運動の力か
②坂本市政
ベトナム反戦、反公害、福祉 ~ 全国的な革新高揚期
*県教組の影響 ~ 平和と民主主義を教わった生徒たちの成長
③横山市政
社公合意後も市職労、県総評を軸にした統一の維持
78年選挙 社会、公明、民社推薦、共産支持 VS 自民、新自ク
82、86年 社会・共産 VS 自、公、民社
90年 社会、共産、自民、公明、民社推薦へ
*労組、政党だけでなく多くの良心的保守層や文化人も含めて・・・ 山原当選の原動力の1つ
*教科書無償運動、生コン事件など・・・市民運動
Ⅱ 時代の流れと市長のキャラクター、政策手法
①氏原 戦後復興からとりのこされた市民への視点 ~ 庶民に光を、実生活重視
市民参加・行政の民主化、科学性の導入。最小の経費で最大のサービス・特定勢力の排除
【参考 戦後から革新高揚期まで流れ】
坂本忠次 「戦後日本における地方自治財政の回顧―いわゆる「革新自治体」の役割について」 によれば(1999年)
◇戦後の地方自治のスタートについて
「例えば、戦後の地方自治法の施行や警察法の制定(’47年12月17日)に伴う自治体警察の発足や’48年6月20日の戦後初の村長リコールの成立(秋田県綴子村〔現鷹巣町〕)、教育委員公選制を定めた教育委員会法(’48年7月15日)の公布施行などはこれを示す一例であろう。」
◇戦後から60年までの「革新自治体」の萌芽期―第一期の特徴として
「これらの革新首長には、産炭地労働組合の推薦等による労組幹部の立候補、戦前からの労働・農民運動等社会運動経験者によるもの、戦後の平和運動など民主的運動の経験者等も存在していたが、どちらかといえば住民・市民運動よりも労組出身者、旧労農・社会党幹部等が中心であった。」としている。
◇新中央集権化
・1950年代中葉、区長・教育委員公選制廃止、自治体警察の廃止がすすむ。(逆コース、)
・これが60年代の「新中央集権化」(ニューセントラリゼーション)にむすびついていく。
62年 全国総合開発計画(一全総)、新産業都市建設法、64年、工業整備特別地域促進法の制定
補助率の上昇、誘致企業への税制優遇措置、特定地方債の許可、国からの地方債の利子補給
高成長期における機関委任事務の増大と中央省庁の権限拡大
②坂本 全国的な革新運動の一翼として ~ 都市問題、環境、福祉
憲法、住民自治の原則を掲げて ゴミ行政
③横山 臨調行革のもとで ~ 実直・誠実 防災 コミュニティティセンター
「理屈を言うな」の時代へ / 氏原、坂本市政のもとで育った職員の存在
*80年以降、臨調「行革」、民活路線のもとで
増税なき財政再建 福祉施策の切り捨て、
81年の「第二次臨時行政調査会」(第二臨調)の発足、85年の自治省「地方行革大綱」
後半は、第三セクター、リゾート法など民活型地域開発政策の展開とその後の破綻
→ 防災事業など安心の内需型の安心のまちづくりに特化した、この時期の堅実な財政運営は、評価されるべき
【80年代以降 民間活力、都市間競争の時代へ】
・臨調「行革」~ 増税なく財政再建、民間活力
・産業立地政策の立案主体は国から地方自治体へと時代とともに変化 83年テクノポリス法
・85年プラザ合意 貿易黒字・円高不況、バブル形成へ (財界が本格的な多国籍企業展開へ)
・85年の「地方行革大綱」
・四全総(86年)、多極分散型国土形成促法(88年)
総合保養地域整備法(いわゆるリゾート法)(1987年)
関西文化学術研究都市建設促進法(1987年)
頭脳立地法(1988年)、地方拠点法(1992年)
大阪湾臨海地域開発整備法(1992年)と多くの地域開発法が新たに制定。
・90年、日米構造協議 10年間で430兆円の公共工事
革新市政の全体の共通点
・平和・民主主義
・市民参加 ―― 国保800回の説明、高知方式のゴミ収集○○の説明会/特定勢力の排除・清潔
・市民のくらしと命/ 福祉・弱者への視点、防災
→ このことが経済では、主たる企業がすくないなか、循環型経済を形成したのではないか。
Ⅲ 人 ~ たたかいの中で担い手の育成
・戦前の社会運動(労働運動だけでなく農漁民、消費者運動の広がり)、共産主義運動
・戦後の反戦平和のたたかい とりわけ教組のたたかい レッドパージ阻止、勤評
民主的な教育をうけた市民層の誕生
・教科書無償運動、浦戸湾を守る会 ~ 行政に大きな影響を与えた市民運動
・氏原、坂本市政のもとでの職員の育成
→ このことが70年代終盤の全国的な革新自治体退潮の中で94年まで革新市政が継続した力に
氏原… 企画委員会 20、30歳代など若手の起用
坂本、横山1~2期 … 庁議、職場での活発な討論、機構改革のボトムアップ議論
~ 市役所全体が、「市役所の役割とは」を探求、現場からの提案の吸収するトップの姿勢により、職員間で、近接部署の仕事との関係も含め、活発な討論、学習する気風が形成されてきた。
*松尾市政以降のトップダウン、特定勢力に顔を向けた施策展開という中で、余計なことは考えない、与えられた「仕事」だけをするという市役所に変質。/ 特定市民・業者問題、補助金の不適切支出問題
Ⅳ 革新市政終焉
A 時代背景
1980年 社公合意。共産党排除
1989年 連合、全労連結成
1991年 橋本県政誕生 /ソ連崩壊 /バブル崩壊
1993年 細川政権誕生 、衆参両議院の「地方分権の推進に関する決議」、地方分権推進法
1994年 6月 村山・自社さ政権誕生 /中核市制度発足
10月 松尾市政誕生
・94年「自治体リストラ素案」→97年 「地方行革」指針
・95年 地方分権推進法
B 要因
①主体勢力 革新統一の崩壊、弱体化
②革新市政として、新しい都市像の提起はどうであったか? ―― 行革、民活に対抗して
参考) 吉田敬一・駒沢大教授「地域資源を活かした内需型産業振興と地域再生政策」自治と分権09秋
・豊かさを求めながら、幸せが実感できない文明型街づくり、記憶を消し去る街づくり
から、安心して暮らせる文化型、記憶を重ねる街づくりへ
・適合する経済基盤は、一次産業、中小業者~ それらはコミュニティのコアをなす
・徹底して地域性・文化性を生かした産業,街づくり/それでこそ全国にも世界にも通用する
③変化の時代~新しい都市政策への期待 /緊縮財政・健全経営のもとでの市民の不満の蓄積
【高知市における革新市政の特色は 渡辺進 作成より】
①氏原市政の特色
*「庶民市政」「福祉重視」「裏町に光を」
*美しい町、住みよい町、力のある町(2期目スローガン)
経済発展と民生安定
*律儀一筋、宴会税時の忌避
◇3割自治とのたたかい
②坂本市政の特色
*人間都市の建設、環境行政 ごみ、し尿、みどり、公害対策
*防災都市建設
*福祉行政、同和行政
*コミュニティ行政
*憲法、平和、市民参加
◇対議会—少数与党 (氏原市政の誕生時も少数 岡田)
③横山市政の特色
*「市民の心を心として」の市政、誠実・清潔
*革新思想のない革新市政(市民に依拠した市政であることは間違いない)
*し尿問題の解決、防災都市の建設
*学校建設、同和行政
*革新の継続
*市政100周年(全国唯一の市民主体・多彩な祝賀事業)
*非核平和都市宣言(S59、1984年) 広島バス旅行(S60)、平和の日制定(平成元年) 鏡川清流保全条例
まとめ -- 今、つかみなおす教訓
①主体形勢~ 憲法にもとづく、平和・暮らし、民主主義をもとめる運動と広範な共同
→ 九条の会、反貧困のとりくみ /労働運動と市民運動との連携の再構築
② 政策の軸~ 庶民に光(地方自治の役割)、内発型、市民協働・住民自治と科学性
→ 町内会の活動、自主防災組織づくりなどコミュニティの再生
(対決点… 行政の公的サービスの保障を土台にするか、縮減の手当てとしての活用か)
→ 市民、職員、専門家による地域政策づくり
* 若者、子どもの参加の視点…
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