「鞆の浦」埋立て差止め判決 景観権を認定
「景観利益」を認めて開発事業にストップをかける画期的な判決となった。景観権については、国立市のマンション訴訟で、06年、最高裁で初めて認定されたもの。(写真は、毎日ウェブサイトより)
鞆の浦埋め立てを差し止め ポニョ舞台、広島地裁が初判断 共同10/1
鞆の浦景観訴訟:県に埋め立ての差し止め命じる 広島地裁 毎日10/1
当ブログとしても景観と公共事業のあり方を問うものとして注目をしてきた。
ポニョの“舞台”の景観論争と地方分権 08/11
こうした問題の背景には「開発王国」というべき日本の政治の歪みがある。
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最初の公共事業裁判は、騒音公害による夜間の飛行差し止をもとめた大阪空港裁判。「空港の公益性」より住民の生活権を優先する画期的な判決であったが、それが74年。それから25年、3年前の国立マンション訴訟のたたかいも踏まえ、ついに「景観権」で公共事業をストップさせた。
目的を失っても作り続けるというダム建設の見直しも進んでいる。
一歩ずつであるが前進している。
【鞆の浦埋め立てを差し止め ポニョ舞台、広島地裁が初判断】 万葉集に詠まれ、昨夏大ヒットしたアニメ映画「崖の上のポニョ」の舞台ともされる瀬戸内海の景勝地・鞆の浦(広島県福山市)の埋め立て架橋事業をめぐり、反対派住民らが知事の埋め立て免許差し止めを求めた訴訟の判決で、広島地裁は1日、「鞆の浦の文化的、歴史的景観は住民だけでなく国民の財産というべき公益で、事業で重大な損害の恐れがある」と免許差し止めを命じた。 歴史的景観が地元住民にもたらす「景観利益」保護のために大型公共事業を差し止める初の司法判断。免許認可をめぐる国の判断に影響するのは必至で、県と福山市の計画策定から26年の同事業は見直しを迫られることになる。 判決理由で能勢顕男裁判長はまず事業について「公有水面埋立法には住民らの景観利益を保護する目的があり、慎重な政策判断がない限り計画は不合理」と判断。「侵害された景観利益は事業が完成すれば復元が不可能だ」と指摘した。 その上で県側の主張していた渋滞解消や下水道整備といった観光・生活面の利便性向上について「必要性、公共性の根拠について調査、検討が不十分。埋め立ては、行政の裁量権の範囲を超えている」とし、差し止めが必要と結論付けた。 また住民側が提案したトンネル建設などの代替計画案について「渋滞解消で利便性を確保できる可能性が大きい」と評価した。 住民ら約160人は2007年4月に提訴し、常夜灯の残る港や古い町並み、島々を一体的にとらえ「良好な景観を享受する利益がある」と主張。県側は利便性向上を根拠に必要性を主張し「法的保護の対象になる景観利益は公共のもので、住民ら個々人は対象外」と反論していた。 判決などによると、県と市は港の一部を埋め立て、湾を横切る全長約180メートルの橋の建設を計画。県は昨年6月、埋め立て免許について国に認可申請したが、審査は中断している。 事業をめぐっては、世界遺産の候補地を審査する国際記念物遺跡会議(イコモス)が、計画中止や景観を損ねない代替案の再検討を日本側に勧告している。
【鞆の浦景観訴訟:県に埋め立ての差し止め命じる 広島地裁 毎日10/1】 瀬戸内海国立公園の景勝地、鞆(とも)の浦(広島県福山市)の埋め立て・架橋計画に反対する住民が「歴史・文化的景観が失われる」として、広島県を相手取り埋め立て免許の差し止めを求めた訴訟の判決が1日、広島地裁であった。能勢顕男裁判長(現広島地・家裁呉支部長)は、鞆の浦の景観を「国民の財産」と指摘、「埋め立てがされれば景観への影響は重大で、埋め立ては裁量権の逸脱」として原告の訴えを認め、県に差し止めを命じた。改正行政訴訟法に基づき、景観保全を理由に着工前の工事の差し止めを初めて命じた画期的判決。今後の開発行政に影響を与えるのは必至だ。 公有水面埋立法(公水法)では、埋め立て工事の際には知事免許が必要。さらに今回の場合、知事は免許を出すにあたって国土交通相の認可を得る必要があり、公共事業見直しを掲げる民主党政権の対応も焦点となる。 訴えたのは、埋め立て対象の海に排水権を持つ人など163人(提訴後に4人死亡)。良好な景観を享受する「景観利益」は法的保護の対象か▽計画は公水法や瀬戸内海環境保全特別措置法(瀬戸内法)の要件を満たしているか--などが争点だった。 能勢裁判長はまず、景観利益について、最高裁判決などをもとに、「法律上保護に値するもの」と認定。鞆の浦の景観を「歴史的、文化的価値を有するもので、国民の財産」などと評価し、「工事が完成した後に復元することはまず不可能」と指摘した。 そのうえで、公水法や関連法規は、個別の景観利益も保護していると認定。「計画は景観を侵害するもので、政策判断は慎重になされるべきだが、よりどころとなる調査・検討が不十分、不合理な場合は裁量権の逸脱にあたる」と判示した。 鞆の浦は万葉集にも詠まれ、宮崎駿監督が映画「崖の上のポニョ」の構想を練ったことでも知られる。【寺岡俊、前本麻有】 ▽藤田雄山・広島県知事の話 判決の詳細な内容については、まだ承知していませんが、当方の主張が認められなかったことは残念で、厳しい判決と受け止めております。今後については、判決を詳細に検討し対応したい。 ▽羽田皓・福山市長の話 事業の早期実現という大多数の鞆町住民の悲願が受け止められず、非常に残念。事業は鞆町の課題解決と再生・活性化のため必要不可欠で、今後の対応については県と調整を図り検討したい。◇鞆の浦埋め立て・架橋計画
鞆の浦は広島県福山市の沼隈半島南東にある鞆港と周辺海域。古くから良港として栄え、万葉集にも詠まれた。日本近世の港を特徴づける雁木(がんぎ)など五つの要素が残る唯一の港とされる。計画は交通混雑の解消などを目的に1983年に策定。港湾西側の2ヘクタールを埋め立て、港を横切る約180メートルの橋を架ける。一時凍結されたが、04年に計画推進を公約にした羽田皓市長が当選。07年4月に反対派住民が提訴した。世界遺産候補地を調査するユネスコの諮問機関・国際記念物遺跡会議(イコモス)は05、08年に総会で中止を求める決議を採択した。【解説】公共事業に景観の配慮迫る
これまで行政訴訟では、民事訴訟とは異なり、景観を法で保護すべき個人の利益とまで認めたケースはなかった。広島地裁判決は、鞆の浦の歴史的景観を享受する利益が法的保護に値すると明快に断じた。景観保全への関心の高まりを受けたもので、行政は今後、公共事業にあたり、景観への配慮を強く意識することを迫られる。
景観を巡る行政訴訟では、行政の裁量の範囲が広く認められ、原告側の敗訴が相次いだ。和歌の浦の景観を巡る和歌山地裁判決(94年)、鞆の浦訴訟と同じ瀬戸内海の埋め立てを巡る織田が浜訴訟の高松高裁差し戻し控訴審判決(同年)などで、景観利益の法的保護は認められなかった。初めて認めたのは、民事訴訟であるが、国立マンション訴訟の最高裁判決(06年)だ。
今回の判決は、景観への損害と、公共事業によって得られる利益とを行政側が比較した上で、事業の可否を合理的に判断すべきだともしている。しかし、行政の判断の合理性を検証する仕組みは乏しい。また、歴史的な施設や町並みの保存には住民負担が大きいという問題もある。公共事業による利便性の向上と、景観保全とをいかに両立するか。今回の訴訟が投げかけた課題は大きい。【前本麻有】
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思わず私は万歳しました。
私の住む港町も工業地域になる前は、この「鞆の浦」に似た景観がありました。 鞆の浦を世界遺産に、といった時本当にガンバッテ欲しいと思いました。
もう、開発という自然破壊よりも自然保護や歴史や芸術、文化を大切にして欲しいと、心から思います。
山口県の上関原発、ここにも大きな自然破壊が起ころうとしています。山口県だけの問題でなく、広く考えていただきたい、大きな問題です。海を生活基盤としている漁業の皆さんの切実な思いが中国電力や一般の人に届かないのが残念でなりません。
Posted by: さざなみこ | October 02, 2009 12:00 AM