「人権教育」とは~この曖昧で非科学的なもの
24日、実行委員会が主催の「今、人権教育を考える」講演会が10市町教育委員会の後援で開催された。
部落解放同盟が最後の足かがりとしている「人権教育」であるが・・・内容のあいまいさ、立証されてない「差別が根深い」という「根拠」、公権力と個人という根本問題がなく、国民相互の関係だけに矮小化など・・基本問題を、梅田修・滋賀大教授が話しをされた。
基本問題がよくわかるので、備忘録として残しました。
【今、人権教育を考える 梅田修・滋賀大教授】
◆同和行政の終結で、初めて「人権教育」を打ち出す
96年意見具申 2つの側面
「実態的差別は解消。目的はほぼ完了」「差別意識はなお根深く存在している」
◆「根深い差別意識」~3つの問題
①差別意識とはなにか、その説明がなく、内容が不明確
②根深さの立証は? 人権教育の根拠なのにどこにも説明されてない。
立証も困難・・・心の問題 「有無」の問題と「程度」の問題
差別意識は完全になくなったとは言えないが、それもどの程度の意識のことか。
例) あなたは妻(夫)を愛してますか。どの程度愛してますか? 普通答えに困る。
どの程度が答えようがないにの、いとも簡単に「根深い」と規定
・「根深さ」の判断には2つの事実が必要
1 差別的言動が頻繁に起こっている。
2 排除する差別的慣習が残っている。
・・・この時、根深さが推測される /今はない。あったら大問題となっている。
・事態は「根深い」というより希薄化しているという方が事実にあっている。
・にも関わらず「根深い」・・・ここがキーポイント。ここが崩れると「人権教育」の前提が崩れる
③教育・啓発で「解消」されるのか。どこで実証されたのか。実証されてないという問題
◆その後の経過
・97年 行動計画、人権擁護推進法 99年 審議会答申、人権教育啓発の基本計画を閣議決定
・文部省 指導への調査会議 5年毎に基本方針
~人権擁護推進審議会 97年設置、99年答申
・人権問題は、公権力と個人とのタテの関係が基本。そのあと国民相互のヨコの関係
生存権 国、自治体の責任があって、個人の生存権が保障される タテの関係
教育権 国、自治体が学校をつくり、先生を配置し、教科書を配布して確保できる タテの関係
・制限された論議内容~ 諮問内容が「国民相互の理解を広げる」とタテの関係がない。
審議会もタテの議論をしていたが、会長がストップかける。「諮問内容と違う」
・答申には「公権力と個人の関係」の文章が入った。なぜか?
批判的意見があったことと、国連からの勧告があったので、タテの関係を無視できなかった。
→ 国連人権規約委員会 加盟国に5年ごとに勧告
98年、日本への勧告 非嫡出子の相続が1/2、再婚禁止6ヶ月は長すぎる。婚姻年齢の差
~ これらはすべてタテの関係。国連も制度を問題にしている。だから言葉が入った。
・しかし、答申は具体的にはヨコの問題しか書いてない。「国民相互の理解」の問題
例) 外国人 参政権、公務員の国籍条項はタテの関係。これは論議されず
入店、入居拒否の問題を議論。ヨコの関係
・ヨコばかりの議論の結論 → “背景には、一人一人の人権尊重の理念の理解が不十分”
つまり、国民の理解の不十分さ、低さが原因と結論づけた・・・ ここが問題!
→ 自分の「人権の理解が十分」と思っている人はいるか? 普通、誰もいない。みんな不十分。
そこにもってきて「不十分」と指摘しても問題は解決しない。
・審議会での意見
「ちょっと待ってください。どうしてタテ議論しないのか。79年、養護学校の設置が義務化された。それまで重度障害者は学校に行けなかった。家に閉じこもっていては死期が早くなる。親の『教育保障は命の保障』という運動の成果。義務教育が大きく前進した。79年以前は『重度障害者は教育うけてもムダ』という偏見があった。79年以降は、少しずつでも発達していく姿を見て、その理解が広がる中で、少しずつ偏見が薄れていった。だから、いい制度をつくれば国民の意識が派割るんです」と
・・・ この発言に会長は「国民の意識が問題でなく、制度が影響を与えており、重要な指摘だと考える」
しかし「ヨコの問題を議論することが諮問内容。答申に書けないが議事録には残す」と発言
・タテの問題が国民の意識に影響があたえるのは当たり前のこと
介護づかれによる高齢者虐待も、いい制度があれば防げる。貧困ゆえの児童虐待も・・・
* 審議会は、ヨコの問題だけを議論。これが以後の「人権教育」を規定
*人権教育をどう考えるか ~ 審議会には、教育関係者は入ってない。
・イメージがわかない、難しい、のでキーワードを考えようとなった。
「命を大切にしよう」「友だちを大切にしよう」・・・ それは道徳教育ではないか。と議論になった。
・審議会では「道徳は、禁止が柱。人権は『~しよう』が柱」という程度の議論。
議論では「混同していいのでは。道徳教育は人権教育」との意見がおおがったが、96年に初めて、それまで教育学会で使われてなかった「人権教育」という言葉出てきたので誰もイメージがわかなかった。
審議会の議論でも人権教育と道徳教育の違いがわからない。しかし、わかるようにしないといけない矛盾。
会長がまとめ「人権教育はこうだ、という考えを述べて、それを読む人が道徳教育と受け取ってもらってかまわない」
→ だから、道徳とどう違うか、人権教育は何か。答申には書かれてない。
基本的人権の尊重は道徳教育の項目になっている。だから道徳教育と同じになるのは必然。
◆人権教育・人権啓発推進法 2000年
・問題にされているのは「国民の理解」。そこでの「啓発」の定義が問題。
人権教育は、一人一人で大きく考え方が違う。研究者の考え方も違う。教育関係の辞典にも半分位しか載っていない。どういう教育が人権教育か、これから議論していくもの。
→ にもかかわらず法律で定めた。教育内容を強制「人権尊重の精神の寛容」。
だから、行政に問うと人権教育とは「人権尊重の精神の寛容」、これしかないように言う。
・国民の責務/第6条
“人権尊信の精神の涵養につとめ、人権が尊重される社会の実現に寄与”と2つの責務を規定
→ しかし誰に対しての責務か、明らかでない。日本語としても正確でない。
“私自身についての責務”なら、法律で規定しなくてよいもの。
・「涵養につとめる」~つまり、教育・学習することを責務と言っている。
教育を義務のように言っており、戦前回帰の思考。/戦前は天皇に対する臣民の義務。
しかし、憲法は教育は権利と言っている。
→義務規定は、親が子どもに教育を受けさせる義務と、国・自治体が条件整備する義務。これしかない。
教育は、義務でなくて権利である。
・「国民の責務」は、男女共同参画、高齢者医療でも出てくる。/「自己責任論」の発想がある。
◆人権教育の新たな展開-文部科学省の人権教育
・人権教育の指導的方法等に関する調査研究会議。まとめとして「指導編」「実践編」の膨大な資料。
・基本的な考え方~ヨコの問題だけ。国民相互の問題に矮小化。
当初あった「人権を尊重とする原理は、歴史的に言えば、国家の人権尊重義務から派生して生じたものである。」という公権力との関係部分はすぐに削除された。
残ったのは「人権を侵害することは、相手は誰であれ、決してゆるされることではない。・・・誰であれ、他の人の尊厳や価値を尊重し、それを侵害してはならない義務と責務を負うことを意味する」の部分。
・人権教育の独自性~ 独自なものなし。「総合的な教育」として内容が不明確、述べていない。
・「人権感覚」について
これがややこしい。答申で初めて「人権感覚」という言葉が出てきた。
価値思考的な「感覚」が「責務」と結びついて、態度・行動となっている。/なぜ、人権感覚をもちだしたのか、その内容も含め、はっきりしない。
・教育の目的 ~問題点
①ヨコの問題に矮小化、権利の主体として育てる観点が希薄
②具体的態度に表れることを目標とした
→重要な問題/いじめ…止めに入って本物になる。それ以外は不不十分という論理。しかし、悪いと分かっていても行動できないときがある。「仕返しをされる」「仲間はずれにされる」。事態はもっと複雑なのに。
→ これは危険な発想。
「伝統、文化」~ 教育基本法の目的は「態度を養う」ことに収斂している。
小泉首相「心は見えないが態度は見える。国を愛する態度として、国歌国旗に対する態度を指導する」
・学校のとりくみ
点数・評価して推進する。全体計画、年間指導計画をつくる。
あらゆる教科の中に「人権学習」をはめ込む ~ 例/数学「論理的思考を養う。不合理を見抜く力をつける」とか。あらゆる教科に「同和」を課した古い時代の教育の復活
・「人権教育」の指導内容
「人権感覚」の指導/あいまい。そもそも教育の対象となるのか?
参加型学習など例が書かれているが、それをやれば「人権感覚」がつくのかどうかわからない。
・人権教育の概念~ はっきりしない。政府文書も出るたびに内容が違う。
→「人権教育」が定着しない事情
①実践した経験がない。どんなものかはっきりしない。
②人権に関係しない教育はない。すべての教育が人権に関係/つまり「人権教育」という必要がない。
◆人権教育は何か ~ 考えを持っていた方がよい。2つの側面がある。
①人権としての教育 ②人権についての教育
~ 教育の人権性、教育の保障自体が人権。基本的人権にふさわしい教育ととらえればよい。
« 民主党 日米FTAでの迷走 | Main | 保護者負担が支える学校の現実 備忘録 »
「教育・子育て」カテゴリの記事
- 学校体育館への空調設置 スポットクーラー課題検証を受け(2024.12.28)
- 体育館の空調整備に新交付金 文科省/避難所の環境改善ガイドライン改定 内閣府(2024.12.19)
- 高額療養費、年金、高等教育、中山間地直接支払、周産期医療、学校給食 意見書案 2412(2024.12.08)
- ダイバーシティ&インクルージョン 組織のアップデート(2024.08.11)
- 2024国際女性デー 差別・格差の根っ子に、非正規、奨学金ローン(2024.03.14)
難しい理論はよくわからない、
だけど、現在の市民感覚。
先だって私の実姉もこの種の講演、討論に出席。
討論で意見を述べようと手を挙げたら、
出身地と学歴を問われた、と。
人権?何?と思った姉は
述べようと思っていたことは頭から消え、
出身地や学歴を言う意味は?と問うと、
意識の参考にしたい、だって。
これが行政がする人権教育。
Posted by: さざなみこ | August 02, 2009 09:23 PM