「学びたいのに」…学べない実態 毎日特集
毎日新聞が9~11日、教育費負担の重さについて特集を組んでいる。
学びたいのに:奨学金の課題/上 母子家庭「やっていけない」 毎日6/9
学びたいのに:奨学金の課題/中 生活保護、減額困る
学びたいのに:奨学金の課題/下 将来へ、負担重く
サブタイトルを見ると「私立校進学後に父急死/他制度併用禁止で働きづめ」「 亡き妹の子6人引き取ったが 持病悪化、働けず」「月8万円を4年間…返還総額500万円超」・・・
高校進学率が97%前後となり、高校卒業は、義務教育ではないが、ナショナルミニマムとなっているといい。
無償化して、教員の体制も充実させ、希望者全入をすべきだと思う。
学力問題とか財源とか議論はあるが・・・社会全体のトータルコストで言うと、貧困の連鎖を断ち切り、希望格差をなくすことが効率的で、社会の流動性の確保、経済の力や社会の安定に寄与する。
解説:高校奨学金、併用禁止 教育の安全網、拡充を 高すぎる私的負担 毎日6/9
【明日へのセーフティーネット】あなたの隣で(2) 貧困の連鎖 産経08/8/20
失業保険や生活保護の拡大、無償の職業訓練の充実は大事なのは言うまでもないが、教育に力を入れ、貧困ゆえに教育機会を失うことをなくす、そして、つまづいた子どもを救い上げるシステムが必要だ。
国際人権規約に加盟国160カ国中、高校と大学の学費を段階的に無償化することを定めたのA規約(社会権規約)第13条を留保している3カ国のうち、ルワンダが抜け、残るは日本とマダガスカルとなっている。
国内総生産は、マダガスカル125位、日本2位。
日本の政治が、どれだけ子どもと教育に冷たいか、真に日本の社会の未来について考えていないかがわかる。
ところで、高知民報によると県教委は、高校の家計負担の調査をしたが、報告内要もまちまちであり、分析もしないとのこと・・・ なんのための調査か、と思う。課題が顕在化すると困るから?
県教育振興基本計画(中間とりまとめ)に「厳しい状況にある家庭を側面的に支援する施策を充実することで、どのような家庭状況であっても一定の教育を受けられる取組を進めます。」とあるのだが… 言うことやることが違う。
基本計画では「道徳教育の重視」を各所で謳っているが、道徳とは社会的規範、ルールの内面化であり、言うことやることが違うことを行政がしていて、どう「重視」しようとしているのでしょうか。
【学びたいのに:奨学金の課題/上 母子家庭「やっていけない」 毎日6/9】 教育にかかる費用が家計を圧迫している。日本では国や自治体の教育費負担が少ないためだ。とりわけ不況や家庭の事情による低所得世帯が増え、子どもたちに進学のチャンスを与える奨学金制度の乏しさが浮き彫りになってきた。「学びたい」という若い願いをもっとかなえることはできないのか。まずはある母子家庭が直面した問題から考えたい。【山崎友記子、立山清也】◇私立校進学後に父急死/他制度併用禁止で働きづめ
「なんでパパ死んじゃったの……」。高校2年の真紀さん(17)=仮名=は4年前、泣き疲れて眠りに落ちる夜を過ごしていた。父は職場から帰宅してくも膜下出血で倒れ、亡くなった。37歳の若さだった。
一人っ子の真紀さんは小学生のころから家の経済状況が良くないことを感じていた。それでも両親は娘が受験で苦労せずに済むようにと、私立の中高一貫校に進ませた。母はパート、個人で建設業を営む父は土日も働き詰め。それでもたまの休みには真紀さんを遊びに連れて行ってくれた。
母雅美さん(39)=同=は悲しみに暮れている間もなかった。労災申請は認められず、独立したばかりで年金保険料の支払いが足りなかったため、遺族年金も出なかった。中学校には授業料免除制度があったが、高校に上がると教育費の負担は大幅に上がる。でも娘の気持ちを考えると「家庭環境が急に変わったのに、学校や友人関係まで変わるのはかわいそう」と思った。
悩んでいた時、中学の教諭に東京都の奨学金制度を紹介された。貸与額は月3万円。学校から「公的な奨学金との併用はだめだが民間なら可能」と聞き、遺児家庭を支援している「あしなが育英会」の奨学金制度を見つけた。学校に了解を取り、二つの制度で計月6万円を借りて昨春、真紀さんの高校生活が始まった。
ところが半年後。高校の事務担当者から「併用はできない。どちらか選んでください」と指摘された。授業料だけで月3万5000円。施設整備費なども含めれば、学校に納める額は年間70万円を超える。通学定期代も高い。保険会社の契約社員として働きだした雅美さんの月収は15万円で、約2万円の児童扶養手当を含めても家賃や生活費に消える。「一つの奨学金では、とてもやっていけない」
都の奨学金業務を担当する都私学財団の担当者は「複数の奨学金を借りると、返還する際の負担が大きく、生徒にとって良くない。各校には説明しており、学校の認識が足りなかったのではないか」と話す。
しかし併用は全国一律で禁じられているわけではない。神奈川、愛知、大阪など23道府県では認められ、どこに住んでいるかで借りられる額が倍近く違う。雅美さんは割り切れない。
*
困り果てた雅美さんは区の福祉の窓口に駆け込み、母子家庭に月額最高4万5000円を無利子で貸す「母子福祉資金」の存在を知った。ただしこれも奨学金との併用は認められないという。結局、奨学金は両方とも辞退し、福祉資金を借りることにした。それでも足りないため、土日もアルバイトに出る。
そんな母を見て真紀さんは心配でならない。「体は大丈夫なのかな。倒れて入院したこともあるのに」。母は娘の前で苦労を一切口にしない。
高校では新聞配達のバイトだけが認められている。同じ母子家庭のクラスメートがやっているが、授業中に疲れて眠っているのを見て「勉強ができなくなっては仕方がない」と思う。
真紀さんはいま国立大への進学をめざしている。夢がある。「脳内出血の薬を開発したいんです」。突然倒れた父は手術もできない状態で、処方できる薬もなく、ただ息絶えていくのを見守っていることしかできなかった。「医学部は授業料が高いけれど、薬学部なら何とかなるかもしれない。ただし浪人と下宿だけは絶対にできない」
第一志望に決めた大学の競争倍率は10倍近く。勉強机の電気を消すのは午前1時近くになる。
◇授業料以外の支出大きく
文部科学省の調査によると、高校の平均的な年間学習費(全日制)は公立約52万円、私立約104万円。3年間なら公立約150万円、私立約300万円が必要になる。特に負担が重いのは修学旅行積立金や制服代、通学費など授業料以外の支出だ。公立でもPTA会費や生徒会費、施設整備費などは少なくなく、もはや「公立なら経済的負担が軽い」とは言えない。
フランスをはじめ欧米各国では日本の高校にあたる公立学校の授業料はほとんどが無料。私学に通う生徒の割合は日本では約3割だが、英国や米国、ドイツは1割以下だ。奨学金制度に詳しい小林雅之・東京大大学総合教育研究センター教授は「日本では『親が教育費を負担するのは当然』と考える風潮があるが、もはや限界。今後親になる世代は年金や介護、医療費負担が増え、今のような教育費を担うのは一層難しくなる」と話し、家庭の財力で子の将来が決まらぬよう、奨学金制度などの充実を提言する。
【学びたいのに:奨学金の課題/中 生活保護、減額困る】 ◇亡き妹の子6人引き取ったが 持病悪化、働けず 「合ってるよ」。先生役の大学生が数学の解答に赤い丸をつけていく。そのペン先を見ながら、中学3年の男子(14)が顔をほころばせた。「うちからバスで30分かかるけど、優しく教えてもらえるから楽しい」 東京都江戸川区の区民館で毎週、生活保護世帯で育つ子の高校進学を支援する無料勉強会が開かれている。十数人の中3生が集まり、ボランティアの区職員や大学生がほぼ1対1で子どもたちに向き合う。会は22年前、「貧しい家の子こそ進学し、安定した職を得て貧困から脱してほしい」との願いで始まった。 今では高卒で就職しても、安定した収入を得るのは難しい。「それでも進学支援の大切さは変わらない。生きていく力をつけるために、高校教育は必要だ」と、勉強会を支える区職員の若井田崇さん(37)は言う。 しかし、高校に進めても卒業までの3年間を経済的に乗り切るのは大変だ。国は05年度以降、高校生がいる生活保護世帯に就学費を支給しているが、そこにも課題がある。 * 札幌市郊外の住宅街。照夫さん(46)=仮名=は約10年前、がんで亡くなった妹の6人の子を引き取った。妹の夫は行方が分からなくなっていた。 当時は一番上の子がまだ中学生で、末っ子は就学前。「オレは独身だし、全員の面倒をみるのは難しい」と思ったが、長女に「きょうだいがバラバラになるから、施設に行くのだけはいや。何でもするから面倒をみてください」と土下座され、心を決めた。 道路工事や建設現場で働き、子どもたちを育ててきた。深夜までの作業の日も夕方には一度家に戻り、食事をしていることを見届け、現場に戻った。いま、上の4人は自立し、四女桜さん(16)=同=と中学3年の末っ子の3人で暮らす。 昨年春、一家に朗報があった。桜さんが市内の公立高校に合格したのだ。全日制高校に進めたのはきょうだいの中で初めて。照夫さんは晴れやかな気持ちで入学式に参列し、姉たちは遺児の進学を支援する「あしなが育英会」の奨学金の手続きをした。 しかし照夫さんには不安があった。心臓の持病があり、腰も痛めていた。次第に力仕事の現場に立つことができなくなり、今年1月から生活保護を受給することになった。 保護費受給のため、奨学金のことを市に申告した時のことだ。担当者が言った。「奨学金を切らないと、生活保護を減額しますよ」。保護費が減れば生活そのものが成り立たなくなる。どこに相談していいのかも分からず、やむなく月2万5000円の奨学金を辞退した。子どもたちに責められたが、返す言葉がなかった。 照夫さんが受給している保護費は月約15万円。高校生には就学費や授業料などが支給されるが「修学旅行の費用や部活動にかかるお金は出ない。奨学金で助かっていたのに」と肩を落とす。 生活保護世帯の奨学金の利用について、札幌市保護指導課は「一律に認めないわけではない。ただ、貸し付け型の奨学金は将来形を変えた借金になる。保護費を受け取りながら借金するのもおかしいので、現場の判断でやめてもらうように言う場合はある」と説明する。 6月になり、照夫さんは再び胸が突き刺されるような痛みに襲われた。桜さんが「弟と2人だけでも、大丈夫だから」と、入院する照夫さんを安心させてくれた。 桜さんは日曜日に近くのスーパーでアルバイトを始めた。修学旅行のお金をこつこつとためている。きょうだい6人の中で高校を卒業した子は1人もいない。「何があっても、高校だけは最後まで行かせてやりたい」。照夫さんだけでなく、家族みんなの願いだ。【山崎友記子】 ============== ◇高校就学費 生活保護には生活扶助や医療扶助など八つの種類がある。その一つ、生業扶助の中に05年度から、高校の授業料などを支給する「高等学校等就学費」が盛り込まれた。基本月額は5300円。他にも授業料や入学料、教材代、通学交通費、受験料が必要に応じて支給される。就学費を奨学金と併用できるかどうかについて、厚生労働省保護課は「国として一律に禁じているわけではなく、家庭の状況に応じて福祉事務所が判断している」と説明する。
【学びたいのに:奨学金の課題/下 将来へ、負担重く】 ◇月8万円を4年間…返還総額500万円超 今年3月初め、横浜市の男性(30)の元に日本学生支援機構(旧日本育英会、横浜市)から一通の文書が届いた。 「貸与総額(約560万円)を27日までに一括返還しなければ、法的手段に訴えます」。1年ほど前から督促状が来ていたが、月約2万4000円の返還は難しくなっていた。 男性は東京都内の私大に在学中、うつ病を発症した。卒業後も非正規雇用の仕事にしか就けず、年収は100万円に届くかどうか。「一括返還」の文字に驚き、奨学金の問題に取り組む労働組合「首都圏なかまユニオン」に駆け込んだ。交渉のすえ、傷病と経済的困窮を理由に返還を猶予してもらうことができた。 とはいえ、待ってもらえるのは最長で5年。大学在学中に母親を亡くして1人きりの男性にとって、夢は自分の家族とマイホームを築くことだが「奨学金を返し終わるのに20年以上かかる。夢をかなえるのはもう無理かもしれない」。 欧米では返済義務のない「給付型」の奨学金が主流なのに対し、日本ではほとんどが「貸与型」。大学を出ても正社員への道が狭まるいま、返還の負担は子どもたちの将来に重くのしかかる。 * 大阪府内の私立大学。「今日カラオケ行かない?」。友達に誘われた美咲さん(18)=仮名=は「ごめんね、用事があって」とやんわりと返す。誘われるたびに断っているのでつらいけれど、アルバイト代は通学定期や学費に消えてしまう。 中学生になるまでは、こんな生活が待っているなんて思わなかった。6年前、大手通信会社に勤める父にがんが見つかり、わずか2週間後に亡くなった。働きづめで会社に寝泊まりする日々が続いていた。 専業主婦だった母佐知子さん(49)=同=は一人で3人の子を抱え、社宅を出た。アパートを借り、自治体の非常勤職員として働き始めた。だが昨年3月で契約が切れてしまった。今は短期のバイトしか見つからず、月収は多くて5万円。遺族年金と足しても間に合わない。電気やガスが止められ、米が買えずにすいとんを食べてしのいだこともある。 それでも佐知子さんは上の子2人を大学に進学させた。「自分も親に短大を出させてもらったおかげで、資格を身につけて社会に出ることができた。わが子が進学を願うなら、親としてせめて同じことをしてやりたい」 高校時代、母の苦労を目の当たりにしてきた美咲さんは、「学費のことは不安だけれど、私が安定した仕事に就いて、お母さんのお金の問題を解決してあげなきゃ」と思った。兄(20)が通う大学から推薦がもらえ、受験料はかからずに済んだ。 兄は支援機構から無利子の奨学金を借りている。保証人が見つからず、月5万4000円の奨学金から2000円余りの保証料を払い、保証機関を利用した。美咲さんも申し込んだが、無利子は希望者が多くて通らず、やむなく有利子で月8万円を借りることにした。保証機関をつけると保証料が月々5000円近くかかるため、一足先に社会に出るはずの兄が美咲さんの保証人になることにした。 美咲さんの4年間の奨学金総額は384万円。利率を3%と仮定すると、返還総額は約517万円に上る。月2万円強ずつ支払っても、返し終わるまで20年かかることになる。「社会人はマイナスからのスタートか」と思うと、ため息が出る。「もう少し安く大学に通える制度があったらいいのに」 それでも「大学に入って、本当に良かった」。受けてみたい授業がある。サークルで先輩との付き合い方も知った。経済を学び、ファイナンシャルプランナーの資格を取って金融機関で働くのが目標だ。 来年は高校2年の弟が進路を決める年。進学を望むなら、兄がしてくれたように今度は自分が保証人になり、弟の夢を支えたい。【山崎友記子】 ◇有利子貸与、全体の7割に 受益者負担を掲げた国の教育に対する支出削減・抑制策で、大学授業料は75年度からの30年間で国立が15倍、私立は4・5倍になった。日本学生支援機構の奨学金事業規模も拡大し、08年度の貸与者数は122万人で10年前の約2・5倍。貸与額も9305億円と3・5倍になっている。 奨学金には無利子貸与と有利子貸与の2種類がある。99年度以降、有利子は月額10万円を超える額も貸与できることになった。事業費ベースでみると無利子はこの10年間に1・4倍しか伸びていないが、有利子は10倍に成長し、貸与額全体の約7割を占める。 その結果、卒業生の負担は膨らみ、例えば月12万円を有利子で4年間借りると、20年払いで返還総額は約775万円に達する。こうした現状には機構内部にも「過大な負担」との批判があるが、文部科学省は「学生のニーズがある」との姿勢を崩さない。 就業形態の変化や雇用情勢の悪化で、返還の延滞が問題化している。国は追加経済対策で無利子枠と返還猶予を倍増するが、今年度限りの対策に過ぎず、同省幹部からも「抜本的な解決にはほど遠い。国と国民が教育を考え直す時期が来たのではないか」との指摘が出ている。【立山清也】
【解説:高校奨学金、併用禁止 教育の安全網、拡充を 高すぎる私的負担 毎日6/9】
高校奨学金の申請は少子化などでここ数年横ばい傾向だったが、毎日新聞の調べでは08年度、32都府県で増加に転じた。窓口には「解雇されたが奨学金を受けられるか」といった相談が増えている。
国は今年度の補正予算に都道府県奨学金事業への緊急支援を盛り込んだ。しかし利用者の一時的な増加に備えるもので、貸与額を増やす目的ではない。
奨学金の併用を認めない都府県は「返還時の負担が重くなるため」と説明する。確かに大卒でも正社員への道が狭まり、卒業と同時に返還していくのは楽ではない。日本学生支援機構の06年度調査では、卒業後に高校・大学の奨学金返還を延滞している理由のトップが低所得(45・1%)だ。
だがそもそも日本では教育費の私的負担が突出して高い。経済協力開発機構の昨年9月の報告によると、国内総生産に対する教育費の公的支出の割合は調査した28カ国中最下位。「教育は国が担う」との意識が強い欧米との違いが際立つ。
子どもたちが学習の機会を失い、将来安定した生活を営めなければ、社会の基盤も危うい。返済義務のない給付型の奨学金を増やしたり授業料の負担軽減を進めるなど、教育のセーフティーネットの拡充が急がれる。【山崎友記子】
【明日へのセーフティーネット あなたの隣で(2) 貧困の連鎖 産経08/8/20】 ◆3世代にわたり生活保護 生活保護の手続きのため、大阪市内の区役所を訪れた女性を見て、ベテランの女性ケースワーカーはハッとした。子供のころ生活保護を受けていた母子家庭の娘だった。成長した娘は、母親と同じように母子家庭になり、生活保護を受けて生活していた。「親と似たような生活様式になっているんです」。そう語る口からため息が漏れた。 『国が困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする』。生活保護法は第1条にこう困窮者の保護と自立をうたっている。生活保護法の制定時に厚生省社会援護局保護課長だった小山進次郎氏=故人=は、著書『生活保護の解釈と運用』のなかで、自立に込めた当時の思いをこう書いている。 『最低生活と共に、自立の助長という目的の中に含めたのは「人をして人たるに値する存在」たらしめるには単にその最低生活を維持させるというだけでは十分ではない。凡(おおよ)そひとはすべてその中に何らかの自主独立の意味において可能性を包蔵している。この内容的可能性を発見し、これを助長育成し、而(しこう)して、その人をしてその能力に相応しい状態において社会生活に適応させることこそ、真の意味において生存権を保障する所以である』 ■ ■ ■ しかし、制定以来60年近くが経過した今、3世代にわたって生活保護の受給世帯が全国的に現れ始めている。「貧困の罠」「貧困の連鎖」…。そんな言葉が当たり前のように生活保護の現場で語られる。 「誰でも努力さえすれば平等にむくわれることを前提にした『努力主義』は幻影です」と平成18年、ある自治体の生活保護受給者を無作為抽出し追跡調査を行った堺市健康福祉局の道中隆理事はそう言い切る。大阪府庁出身の道中理事は、厚生労働省の生活保護指導監督職員なども歴任し、『生活保護制度の基礎知識』などの著書でも知られる専門家だ。 生活保護の具体的な事例に基づいた追跡調査は、受給者にとって他人には知られたくない個人情報を数多く扱うことから、これまでほとんど行われてこなかった。それでも道中理事が調査を行ったのは、貧困の固定化に強い危機感があったからだ。調査は生活保護受給がかなりの割合で世代をまたいで継承されている実態を裏付けた。 ■ ■ ■ 調査の対象になった390世帯のうち、過去に育った家庭が受給世帯だったことが判明したのは98世帯(25・1%)。母子世帯の106世帯では実に40・6%に上っていた。記録上は明確に残っていないものの、育成歴などから受給世帯に育った可能性が高い例は多数あり、実際の継承率はさらに高い。 道中理事も驚いたのが、学歴についての調査結果だった。生活保護受給者のうち、世帯主が中学卒は58・2%、高校中退が14・4%。双方をあわせると70%を超えた。特に母子世帯の高校中退率は27・4%。高校中退の理由として、妊娠、出産の例があったため、10代出産の実態を急遽(きゅうきょ)、追加して調べると、母子家庭106世帯のうち28世帯、26・4%が第1子を10代で出産していた。 ケースの一つ一つに、ドメスティックバイオレンス(DV)や家庭崩壊など自立を阻む現実が凝縮されていた。 「低学歴のまま、十分な技能も持てず、10代で母親になった女性の就労自立が難しいことは容易に想像がつきます。『就労自立ができなかったのは、個人の努力欠如』と個人の責任に帰着させるのではなく、社会問題として認識されるべきではないでしょうか」と道中氏は問題提起する。 むろん、学歴や成育環境が人のすべてではない。高校や大学に行かなくても社会で活躍する人はいる。しかし、現在の生活保護を考えるうえで、「貧困の連鎖」の要因の一つとして育てられ方や育ち方を無視することはできない。
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Posted by: 渡辺和裕 | July 11, 2009 09:53 PM