「マルクスは生きている」経済編・備忘録
不破哲三さんの「マルクスは生きている」は、哲学、経済、未来社会論からなっていますが、そのうち経済学の部分【資本主義の病理学者】の備忘論
構成は ・・
①マルクスは「搾取」の秘密を解き明かした
②労働者の苦難の根源をついて
③資本主義の「死にいたる病」――周期的な恐慌
④究極の災害――地球温暖化
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【資本主義の病理学者】
◆マルクスは「搾取」の秘密を解き明かした
1.見えなくなった搾取の秘密
・高度な経済を基礎にした文明社会で、なぜ貧困と格差が広がるのか ~原因と解決策を示したマルクス
・庶民の貧困は昔からあった。封建時代の「年貢」~フランス革命は貴族・地主の搾取のひどさから
封建制が廃止され、強制関係が一掃されたのに、いっそう貧しくなった。
~ 資本主義の搾取は、その仕組みも姿もはっきり見えないのが大きな特徴
・資本家と労働者の関係は、商品の売買、売り手と買い手の関係。
~ 対等なはずなのに、驚くべき貧富の格差 富は資本家に。労働者に貧困が続く。
・当時の経済学(古典派経済学)~ 労働が富の源泉、商品の価値は労働の量で決まる、同じ価値のものが交換される(等価交換)~まで迫ったが、なぜ資本家のみを富ますのかわからなかった。
社会運動家も「労働を盗み取っている」と告発したが、労賃の取引のどこが問題がわからず。
2.マルクスは「剰余価値」の仕組みを発見した
マルクスの解明のあらすじ
イ 労働者が資本家に売っているのは「労働」でなく「労働力」
ロ 「労働力」商品の価値もまの商品とおなじく、その再生産の費用(本人、家族の生計費など)できまる
ハ 資本家は「労働力」商品を消費し、新しい価値を生み出す。ある時間分働かせば、賃金分の価値を生み出すが、資本家は、当然それを超えて働かせる。それが資本家のものとなる。「剰余価値」
~ 資本家はインチキしているわけではない。きちんと労賃をはらっても剰余価値を手に入れる。
・普通の取引では、生産物は生産者の所有になるが、資本主義では、資本が生産物の所有者となる
~ ここでは市場法則が逆転する。その原因は、生産者が生産手段を失い、資本家が生産手段をもって、労働力の買い手になったという社会的変化のなかにある。
~ ここから解決の方向が出てくる。生産手段を、資本家の手から社会に移す、という方向
・「搾取」の秘密を明らかにしたことで、社会主義運動は科学の裏づけをもつようになった。
3.「利潤第一主義」が社会悪の根源
・資本主義社会で、剰余価値とはどういう意義をもつか ~ マルクス「剰余価値の生産は、資本主義的生産の規定的目的であり、推進的動機である」(資本論)~ 剰余価値の生産が、資本主義的生産の絶対的な目的。
・資本家が貨幣を事業に資本として投下するのは、剰余価値を手に入れ、資本を増殖させるため。
・資本主義以前も富の蓄積の要求はあったが ~ 資本主義では、「ためこみ」でなく、生産過程に投下して剰余価値を獲得すること。~ 「生産のための生産」が資本主義の合言葉。最大の病理
・剰余価値は、利子、地代などに分解するが、生産過程の資本家に残るのが利潤
~ 利潤を、剰余価値の代表者と見立てて議論しても、それほど検討違いにはならない。
◆労働者の苦難の根源をついて
~ 利潤第一主義がもたらす社会悪について
1.「労働者」は日本の人口構成で4分の3以上を占める
・利潤第一主義のほこさきがもっとも苛酷に集中するのは労働者
~労働者がどんな目にあうか、その根源は…当時、これだけ労働者問題に大きなページを割いた本はない
・「労働者」というと、他人事と思う誤解 ~社会科学でいう労働者の範囲は非常に広い。
~事業体で、労働を提供して賃金・給料を支払われる人たちは、すべて労働者 /頭脳労働者もすべて
2.搾取を究明する経済学
・労働力こそは剰余価値を生み出す源泉なので、資本はできるだけ多く剰余価値を搾り出そうとする
・マルクスは、搾取する方法を徹底的に究明した/そのため新たな概念などつくった
不変資本と可変資本、絶対的剰余価値と相対的剰余価値、必要労働時間、資本主義の名付け親
~ これらの搾取の仕組みを工場現場の生きた報告(工場監督官の報告)で実証した
3.マルクスの目で現代日本の搾取の現場を見ると
~一世紀半前の話として読みすごすことはできない。当時のイギリスを越える状況が日本にある
・労働時間- マルクスは、資本と労働者の攻防の中心点として最も重視。人の生活のあり方にかかわる問題
法の網の目をくぐって労働時間を延長する資本家の策略-食事時間、休息時間を削ったり、掃除の時間を時間外にしたり――を、監督官たちの「こそどろ」「ちょろまかし」「引ったくり」と呼んでいたと紹介
・現代の日本 天下御免で横行している「こそどろ」~「サービス残業」
02年、年間200時間(第一生命研究所)。一年に29日、一ヶ月分のただ働き
・労働の密度- 機械の運転速度を速める、何台もの機械を管理させる
・不破国会時代 松下電器の実態 テレビのトランス組立~作動数2万5600回。一秒に一動作
配線のプリント板点検から、5万箇所の点検
専門医「病気にならないのがおかしい」/当時の大平首相「それは本当か」と真顔で質問
改善どころが、「過労死」の多発さえ日常のことに。
・雇 用 - 資本主義の運動の中で「過剰な」労働人口を生み出し、「産業予備軍」を形成する
急成長の時には、必要な労働をまかなえる都合のよい存在/現役労働者の条件悪化の圧力となる
・現代は「派遣労働者」。現役労働者の「予備軍」化 ~派遣など非正規が労働者に3分の1に
4.「資本論」に描かれた労働者像
・被害者という面だけでなく、社会を変革し未来社会を担う階級として成長・発展する姿に注目
①生産の機械化とともに、集団的な働き手に発展していく~「労働の結合」
資本家の指揮のもので「結合」ではあるが、未来社会の「結合した生産者たち」の萌芽的姿を見た
②利潤第一主義との闘争の中での労働者の変貌
18世紀末、労働時間の延長は苛烈に。1日15時間。階級的な抵抗のすえ1850年に、10時間労働法。
~ マルクスは「半世紀にわたる内乱」の成果と呼ぶとともに、労働者は、最初に生産過程に入ったときとは「違うものとなって、そこから出てきた」と語ってる。どんな意識が生まれたか・・・
・「責め苦の蛇(革命詩人ハイネの詩の言葉)から自分たちの「身を守る」ために、労働者たちは、結集し、階級として、1つの国法、1つの強力な社会的バリケードを奪取しなければならない」
・「労働者たちは、自由意思で資本と契約を結び、労働力を売り渡すが、資本とのその契約は、労働者とその同族を死と奴隷状態に落ち込ませる危険を持っている。それを阻止することに、その社会的バリケードの意義がある」
・資本論第一部のしめめくくりの部分で・・・労働者階級の成長・発展の総括的な特徴づけをおこなっている。
~生産の社会的性格の発展につれて、「貧困、隷属、堕落、搾取の総量」が増大する一方、労働者階級は「資本主義的生産過程そのものの機構によって訓練され結合され組織され」て、その「反抗」も増大する。
・抑圧された姿とともに、訓練、結合、組織の過程を歩む階級的発展の姿をよく見ることがたいへん重要
5.「社会による強制」が資本の横暴を規制する
・マルクスは、工場法を勝ち取った闘争から、資本主義の未来にかかわる重大な教訓を引き出している
~ 資本主義の横暴を抑える社会的な規制、社会的ルールを実現する重要性
・なぜ、労働日の延長につっぱしるのか~ 人民の「生命源」をおかし、労働者の肉体と精神の「退化」を生み出し、結局は、資本主義経済の土台を掘り崩すにもかかわらず
「“大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!”これがすべての資本家およびすべての資本家国家のスローガンである。それゆえ、資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんらの顧慮も払わない。肉体的、精神的萎縮、早死に、過度労働の拷問に関するる苦情に答えて資本はいう――われらが楽しみ(利潤)を増やすがゆえに、われら、かのかん苦になやむべきなのか?と。しかし、全体として見れば、このこと(労働時間の無制限延長・・・不破)もまた、個々の資本家の善意または悪意に依存するものではない。自由競争は、資本主義的生産の内在的な諸法則を、個々の資本家にたいして外的な強制法則として通させるのである」(第一部第三篇第八章「労働日」)
・2つの「強制」の言葉
・「外的な強制法則」 長時間労働を強いるのは、資本家個人の善意、悪意でなく資本主義経済の仕組みの問題
より多くの利潤を求めての競争の中で、おしつけられる。という意味
・この「外的な強制法則」への有効な対抗手段が「社会による強制」「社会的バリケード」
~ 工場法の成立は、資本の横暴に歯止めをかけた「社会による強制」の成功例
・マルクスは、資本主義の廃止による労働者階級の解放を一貫して主張したが、“来るべき革命の日までガマンすべき”という待機主義とは無縁。労働組合の組織と運動の正当性を主張した最初の社会主義者。
6.「ルールある経済社会」は世界の発展方向となった。
・労働時間だけでなく、炉移動生活と社会生活など多くの分野に広がっていった。国による強制だけでなく、国際的な条約、全国的な団体協約、行政指導や世論の監視など、さまざまな形態が現れている。
①一次大戦後の変化―― 大戦中の1917年、ロシアで社会主義国家が誕生
・ロシア革命 18年に、働く人民の権利の宣言、社会保障制度の旗を大きく掲げた
それ以後の欧州諸国の憲法の中に「社会権」が宣言さけた/「人民宣言集」宮沢俊義
・国際労働機関(ILO)の創設 1919年 労働者の権利を守ることを任務とする初の国際機関
②1936年「人民戦線」の時代 フランスで経営者と労働組合の全国組織が団体協約を締結
階級と階級のあいだの協定といえるもの。 大きな影響。例/「有給休暇」
③二次大戦後、国際連合の発足。
・世界平和を持続的に保障する国際的な秩序づくりがなによりの使命だが、「社会的ルール」でも新段階に
世界人民宣言48年、国際人権規約66年、女性差別撤廃条約79年など。特に男女平等が世界共通のルールに位置づけられたことは、人類社会の歴史の大変革というべき意義をもつ
・ILOも、国連の一機構として新たに位置づけられ、新たな力と機構をもって活動
「条約勧告適用専門委員会」という点検機構を持つ。関係者の訴えも聞いて、政府に問題点を指摘し、是正を勧告する
・独特の役割をはたしている「欧州連合」 ヨーロッパ共通の「社会的ルール」づくり
97年、パートタイム労働者の賃金格差の是正のルール化/EU理事会で、労働組合、経営者団体、公共企業体連合の3者協議がよびかけられ、協議の結果、団体協約を締結。理事会が各国政府に法整備を指令
このようにマルクスが重視した「社会的バリケード」はここまで大きくひろがり、「ルールある経済社会」づくりは世界資本主義の大きな流れになっている。
7 「ルールなき資本主義」の国・日本
・日本の「社会的ルール」の弱さと欠落の度合いは、本当に異常な域に達している。
労働時間では「サービス残業」、労働密度では職業病と過労死、雇用では「派遣」よる産業予備軍化
どの問題もヨーロッパなどでは厳しく禁止されている問題
この状態を放置していては「世界第二の経済大国」など自慢する資格はない。
・盛田昭夫ソニー会長(当時)「『日本型経営』が危ない」(文芸春秋 92年2月号)
“世界に通用しない”とした問題点として、働かせすぎ、給与が低すぎ、下請け企業の関係が不平等、地域社会への貢献不足、環境保護に消極的などを指摘。
・多くは「ルールなき資本主義」と言われるものと重なっているが、なせ改革できないか・・
盛田「日本の現在の企業風土では、敢てどこか一社が改革をやろうとすれば、その会社が結果的に経営危機に追い込まれてしまうような状況が存在している」「一部の企業のみの対応で解決される問題でなく、日本の経済・社会のシステム全体を変えていくことによって、初めてその実現が可能になる」
・日本の大企業のトップが“世界に通用しないもの”の解決策は「社会による強制」以外にないと、マルクスの資本家論をそのままくりかえした事実は重い。
◆資本主義の「死にいたる病」――周期的な恐慌
1.恐慌論へのマルクスの挑戦
・利潤第一主義がもたらす社会的災害―― 資本主義になってはじめて経験したのが「恐慌」
人類の長い歴史はモノの欠乏で社会が苦しむ経験は無数にあった。モノをつくりずきで社会全体が苦しむ災害――恐慌は、資本主義になってはじめてぶつかった新しい災害
・「恐慌」を「科学の目」で解明したのもマルクス
48年「共産党宣言」 「生産諸力はこの所有関係にとって巨大になりすぎ、この所有関係は生産諸力にとって障害となっている…ブルジョア的諸関係は、自分がつくりだした富を入れるには狭くなりすぎたのである」
~ 恐慌の中に現れた資本主義的生産の運動法則を解明することがマルクスのその後の研究の重要課題となった
2.恐慌論には3つの柱がある
①恐慌の可能性 マルクス以前の経済学者が恐慌を否定した論拠は「市場経済では需要と供給は必ず対応するはすだ」という断定。
・マルクスは、需要と供給の均衡が確実に成り立つには物々交換の段階の話。貨幣が登場する市場経済の段階では、状況がまったく違ってくると指摘。
・商品AとBの交換が、市場では、商品Aの販売、商品Bの購入にと、2つの取引に分裂する。商品Aの持ち主が市場にあらわれた理由は商品Bとの交換だが、商品Bが市場で見つかっても、それを買うにはまず自分の商品Aを売らなければならない。しかし、その買い手が見つかる保証はないのが市場経済
・このように、市場の経済活動の単位をなす個々の取引すべてに、挫折の危険が内在している。
・「恐慌の可能性」がもっとも単純な商品売買の段階ですでに存在していることを明瞭にしめした。しかし、何が「可能性」を「現実性」に転化させるか、その原動力は何か、は次の研究の段階
②恐慌の根拠、原因 「すべての現実の恐慌の究極の根拠は、依然としてつねに、一方では大衆の貧困、他方では生産諸力を、あたかも社会の絶対的消費能力がその限界をなしているかのように発展させようとする、資本主義的生産様式の衝動なのである」(第三部第五編30章)
・消費と生産の矛盾~矛盾の両極は、どちらも利潤第一主義が生み出すもの
・「生産のための生産」 剰余価値の生産を至上目的としどんな制限を乗り越え生産力を発展させようとする
・剰余価値の生産という同じ目的から、労働者への搾取をあらゆる手段で追求。労働者の購買力を抑える
・ところが社会の消費購買力の主要な部分を担っているのは、労働者にほかならない。
・この矛盾は、資本主義が自分自身で引き起こしたジレンマにほかならない。自己矛盾、自己破産
・そのことを「資本主義の真の制限は、資本そのものである」(第三部第三篇15章)と名句で言い表した。
③恐慌の運動論 解決すべきもう1つの大きな問題~ 生産と消費の矛盾が、需要と供給の不均衡をだだす市場の作用をうちやぶって、恐慌という形で爆発するところまで大きくなるのはなぜか。
・市場の調整作用 「均衡が不断の不均衡を通じて実現する」のが市場経済
・なせ生産と消費の矛盾については、市場の調整作用が働かないのか
マルクスは、問題の核心はバブルの周期的なくりかえしにあるととらえた
3.マルクスが解明した“バブルの論理”
・マルクスが注目したのは、資本主義の発展とともに、市場経済での商品の売買に商人資本が入りこむこと
商人が入ってくると、生産が作る商品を消費者が買って消費する、という道が違ってくる。
・第一段階 商品を生産者から商人が買う 第二段階 その商品を商人が消費者に売る/これで完結
・生産者の立場では、第一段階がすめば、貨幣が手に入り、次の生産過程に投下できる。しかし、商品そのものは、まだ生産から消費への道の途中。「現実の需要」から独立した「架空」の軌道で生産過程が進む
・ここに恐慌にまでいたる仕組みの原点がある。「架空の需要」を相手にした「架空」の軌道を走ることによって、生産と「現実の需要」との距離がどこまでも広がっていくはず。市場がやがてバブルに巻き込まれ「全般的瓦解、恐慌」の爆発へとすすんでいくプロセスとして実証した。
・恐慌の災害をよりひどくするのは、「信用制度」と「世界市場」が特別の役割を果たしていることに注目
・「信用制度」、銀行などに蓄積された資金の投入で、生産と「現実の需要」とのあいだの距離を極限まで拡大
・「世界市場」 バブルが「架空の軌道」を走っている秘密を「見えなく」する働きをする。
4.資本主義180年間の恐慌史
・マルクスが実際に体験した恐慌は二度。それで「死に至る病」であることを見抜き、法則性を明らかにしたことは驚くべきこと。
・その後の歴史はマルクスの診断の正確さを証明。資本主義は現代に至るも恐慌の脅威から解放されてない。
・資本主義擁護の人々は「病」をとりのぞこうと努力したが、結局、その手立てを見出せず
・29年世界大恐慌以降、資本主義が大規模な対抗策に乗り出す。
・ケインズ、国家の介入で恐慌の被害を緩和、利潤第一主義に一定の規制を加える指導理論
しかし、緩和はできても恐慌、大不況の周期的到来は防止できず、国家に巨大な赤字を作り出した
・1970年代はじめ、「経済学の危機」がさけばれ、「市場原理主義」の潮流が復活
「市場に任せればうまくいく」と利潤第一主義を野放しにし、利潤獲得の主戦場を実態経済から金融経済に移すアメリカ型資本主義を「繁栄モデル」として世界に押し付けた。
・しかし、資本主義の矛盾は累進的に拡大・進化し、その帰結が、今世界を襲っている経済危機
5.世界経済危機をつらぬく恐慌理論
・2008年にはじまった世界経済危機は、マルクスの解明した資本主義の矛盾の爆発であり、運動論でみたバブルの論理も、金融経済の異常な膨張と結びついて、いっそうはっきりした姿であらわれた。
①アメリカの実体経済も、実は「架空の需要」にもとづくバブル的「好況」
・住宅産業景気/サブプライムローン 住宅建築産業と銀行業界の合作による人為的バブル
・住宅だけでなく自動車、消費者ローンなど「架空の需要」のもとで「架空」の軌道を走り、破局したもの
②さらに、住宅バブルのうえに、金融バブルを組織
・住宅購入の借用証文(無価値の不良債権)を「金融工学」で、高い利回りの金融商品に仕立て、有利な投資対象として、世界中で売りまくった。もともとの住宅バブルの規模をはるかに上回る金融バブルをとなり、グローバル化のもとで、資本主義世界の全体に輸出された。
・架空の軌道の秘密を「見えなく」するというゴマカシ作用も「信用制度」「世界市場」が相乗する形で働いた
③07年住宅バブル崩壊、08年金融バブル大崩壊~その規模と震度は衝撃的なもの
・アメリカ主導で世界に広げられた金融経済主導の逆立ち経済は、矛盾を極限までおしひろげ、住宅バブルの破たんに始まった危機を、全世界、全産業をゆるがす巨大なものにした。
6.人間社会は資本主義で終わりではない
・経済危機の中、巨額の内部留保をもった大企業が、その利潤の源泉となった多数の派遣労働者を寒空のもとに投げ出し、社会的な雇用危機を引き起こし、「ルールなき資本主義」、利潤第一主義の有害さを浮き彫りにした。
・危機は進行中だが今確認できること-マルクスが「共産党宣言」で恐慌が資本主義の「死にいたる病」と指摘してから160年、資本主義はあらゆる手だてを尽くしたが、ついに解決策を見いだせなかった。
最後に動員されたのは経済への国家の介入。ケインズ流も「市場原理主義」的な介入も危機を防止できず。
・どんな経済危機も自働的には社会の交代はひきおこさない。人類の歴史でも、その交代は、社会を構成している人間の多数者がその意思をもって歴史を動かす力を発揮するときだけだが・・・。
・今の事態は“資本主義体制は人間社会の永続的な形態でけっしてなく、次ぎの社会形態への移行を予定する過渡的形態だ”というマルクスの予告を、いっそう身近なものにしている。
◆究極の災害――地球温暖化
・今、資本主義には、恐慌だけでなく、その存続の是非にかかわる大問題が提起されている。“大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!”の結果、究極の災害-地球温暖化。もし資本主義のこの危機を解決する力をもたないとしたら、別の社会体制への選択を人類に迫るもの。
1.地球大気という“生命維持装置”
・生命維持装置…大気の成分20.9%が酸素 これがないと生命は生きられない。二酸化炭素が0.04%と少ないことも重要。金星、火星は大気の95%以上が二酸化炭素のため、太陽熱が外に逃げずに高温に。また、蛋白質やDNAのつながりをずたずたに切断する紫外線を成層圏の外側にあるオゾン層が遮っている。
・地球大気は地球の歴史、生物の長期にわたる活動の産物…地球は最初からこの大気を持っていたのではない。
・地球が誕生した46億年前、大気はほとんどが二酸化炭素。オゾン層もない。35億年前に生物が海の中に誕生。陸上は高温かつ紫外線が降り注ぎ、生命が存在できる条件はなかった。
・生物の進化の過程で光合成できる植物が誕生…長時間かけて二酸化炭素を消費し、酸素を製造し、大気を改造した。また、成層圏まで上がっていった酸素が紫外線にあたりオゾンに変わり、層を形勢した。
・地上で生命活動ができる条件が整い、4億年前に生命が海から陸上にあがった。30億年以上かかってつくった“生命維持装置”。そのもとで300万年前に人類が誕生。
2.地球の生命を誰が危険にさらしたのか
・地球大気に生命を脅かす危機があらわれたのは、20世紀に入ってから。
・最初は1970年代、南極の上空に、オゾン層の大きな穴が発見された。犯人は1930に発明されたフロンガス / やがて製造禁止に。この時、フロンガスを製造していた米企業デュポンは規制に猛烈に反対した。まさに利潤第一主義が資本の行動原理であることを証明してみせた。
・続いて、二酸化炭素濃度の上昇、地球温暖化。産業革命以来の平均温度が0.8度上昇。現在、台風の大型化、熱波と乾燥化、農作物や生態系への深刻な影響として、明確な形であらわれはじめている。この事態が続けば、気温上昇は加速し、21世紀末には広大な地域が海面上昇で水没、数億人が家を失うとの予測
・この変動は、明らかに人間の経済活動の結果。石炭、石油など化石燃料の消費。
・どんな条件も乗り越えて拡大する資本主義的生産の衝動が地球大気の変動を引き起こすまではマルクスも予測してなかった。
・実際、マルクスの生きた時代は、エネルギー消費量は原油換算で1億1900キロ㍑、今130億4千キロ㍑
・これは文明度が向上してきた自動的結果ではない。一世紀半にも満たない間に急激にエネルギー消費量が膨張したのは、「生産のための生産」を旗印にし剰余価値の拡大の道を突き進んだ資本主義的生産様式の結果。
・特に膨張したのは二次大戦後。「大量生産・大量消費・大量廃棄」の生活を国民におしつけた。
以前は、長持ちする製品をつくることが生産者の美徳、その商品を息長く使うことが消費者の美徳だったが、 現代は「最新型」が次々と出て、故障すると部品も入らないことが普通になった。
3.資本主義社会は人類に対する責任を果たせるか
・危機は一刻の猶予もない状況 IPCCの削減目標は、2020年までに「先進国」が25~40%削減、2050年までに世界全体で50%以上減らす(先進国は80%以上)。これが生存を確保するための最低目標
・先進国の5分の1にする課題の達成には、排出の大部分をしめているのは産業、交通機関だから、利潤第一主義にもとづく大企業中心の経済活動の規制が決定的な中心課題。しかし、世界的な体制は確立してない。
・最初の国際的取り決めは、97年、京都議定書。しかし、01年、アメリカが国益にあわないと離脱。ブッシュの地盤のテキサスは化学、石油産業が集中。州でイギリス一国の排出量を多い。
・日本もアメリカと似た状況…かんじんの財界・大企業の公的規制から逃げている。恥ずべき事態に。
*1990年と2006年の二酸化炭素排出量の比較
ドイツ-18.2、イギリス-15.1、フランス-3.5、日本+5.3、アメリカ+14.4
・ルールある経済社会づくりが前進しているヨーロッパで削減が進んでいるが、日米で発達した資本主義国の排出量の62%(05年)。
・資本主義の枠内で解決できるか。ヨーロッパの担当者の声「つきつめていくと、利潤第一主義の考えでは温暖化はとめられない。社会システムの根本的な変革が必要になっている」
・この取り組みの中で「資本主義の限界」が明らかになり、新たな社会体制への前進も十分予想される
4.地球温暖化の危機と社会体制の選択
・全人類的課題であり、社会主義をめざす国、発展途上国にも、同じ課題が提起されている。ただ、1人あたりの排出量は「先進国」よりずっと少ないので、同じ割合での削減するという規制は問題にならない。
・必要なのは、エネルギー、資源浪費型の経済発展でなく、地球温暖化の解決と両立できる新しい経済発展の型を探求し、開拓すること。
・特に、社会主義をめざす国ぐににとっては、体制の前途にかかわる重大な課題
マルクスは、資本主義社会では「社会的理性」は災害が起こったあとで働きだすが、共産主義社会では、ことが起きる前に働くと述べたことがある(資本論第二部二編16章)が、「社会的理性」の事前の働きという体制的な優位性の発揮が強く求められている。
*「自然の復讐」エンゲルス/人間は労働によって自然を変化させ、その変化を自分の目的のために利用するが、人間による自然の変化は、人間の見込みとは「まったく違った、予想もしなかった効果」ょ生み出すことがある、人間が自然にたいしてかちえた勝利に得意になりすぎると、「その勝利のたびごとに、自然はわれわれに復讐する」と警告し、この「自然の復讐」を防止するためには「われわれのこれまでの生産様式と、われわれの今日の社会体制全体を完全に変革」して、人間の生産活動が自然および社会におよぼす遠い将来の影響までふくめた規制を実現することが必要である、と論じている(自然の弁証法、1876)
・中国共産党と日本共産党との理論交流の中で、不破氏は、この点を繰り返し率直な提起をしている。
・地球温暖化の対応に、21世紀のたいへん重大な時代的性格が現れている/一方では、資本主義がこの危機に対応する地化せを持ち、将来に存続する資格を持つ体制であるかを点検する舞台であり、他方で社会主義の体制が「社会的理性」がより力を発揮できる体制として、人類の存続を保障する資格を持っているか点検する舞台となっている。
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