生活苦で進学断念4割 あしなが育英会・調査
1人親家庭の相対的貧困率は66%(OECD調査)で、トルコに次いで、世界第二。
「あしなが育英会」が、母子家庭で育つ高校3年生の進路希望の調査結果を発表している。数字が示す実態もさることながら、アンケートに添えられた「これ以上あまえられない」「小学生のときからの夢をあきらめて」など高校3年生遺児の声、「親としての悲しさ」「諦めるより他にない」など母親の声が、胸に刺さる。
就職希望の遺児が一般の1.4倍 4割もが生活苦で進学断念 ―― あしなが育英会「遺児高3生進路調査」結果 ―-
母子家庭の高3「生活苦で進学断念」が4割 読売4/16
【就職希望の遺児が一般の1.4倍 4割もが生活苦で進学断念】
―― あしなが育英会「遺児高3生進路調査」結果 ―-
2009年 4月18日 あ し な が 育 英 会
遺児母子家庭の母親の年間勤労所得は年々減少する一方で、2007年は134万5千円と、一般サラリーマン437万2千円の30.8%まで落ち込んだ。
その分布をみると、親子3人世帯で年収200万円未満とする生活保護基準以下が76.5%も占めている。
このように、生活が年々厳しくなるなかでも、生活費をやり繰りし奨学金を利用してなんとか高校に進学した遺児たちの、卒業後の進路はどうなっているのだろうか。
あしなが育英会は昨年12月22日、今年3月に高校を卒業する遺児母子家庭の高校3年生971人に、卒業後の進路に関するアンケート用紙を送付し、2月28日までに回収した582票(回収率59.9%)について集計した。
Ⅰ 進路調査結果
◆「就職希望」全国平均の1.4倍
アンケートに回答した582人のうち、昨年12月時点での「就職希望」は162人(27.8%)で、同時期の全国の高校新卒予定者の平均19.3%(文部科学省調査)の1.4倍だった。
なお、文部科学省調査によると、全国の高校新卒予定者は約106万9千人、そのうち、就職希望者は約20万6千人である。
◆「生活苦」が理由で就職を希望する遺児4割
就職希望者162人の就職を希望する理由の上位3位は「早く自立したい」40.1%、「経済的に進学できない」21.0%、「家計を助けるため」19.1%で、「経済的に進学できない」と「家計を助けるため」を合わせると40.1%にも上り、5人に2人が「生活苦」が理由で就職を希望している。
◆「就職未定」約2割
就職希望者162人の昨年12月時点での内定率は81.5%で、同時期の全国の高校新卒予定者の内定率82.3%(文部科学省調査)よりも0.8ポイント低い。「未定」は18.5%と、約5人に1人の割合だった。
就職が内定していない「未定」者は地方の遺児に多い。近くに正規雇用してくれる会社がなく遠距離だと交通費や宿泊費などがかかるからだ。また、遠距離の会社に就職した場合、当面の生活費やアパート代等の用意ができず、就職活動をあきらめている遺児もいる。
◆大学進学希望50.5%で、希望段階で全国平均よりも低い
大学・短期大学進学希望者は294人で全体の50.5%だった。文部科学省学校基本統計による08年度の大学・短大への現役進学率(実際に進学した者)は発表時期により少し異なり52.9%~55.3%までの幅があるが、これに比べると、遺児高3生は希望段階ですでに全国平均よりも2.4ポイント~5ポイント低い。従って、実際に進学した遺児はこれをさらに下回るのは確実である。また、大学には合格したものの入学金が準備できず就職に切り替えるものもいる。
◆学費負担に苦悩する母親、奨学金希望者増加の一途
全体の5割が大学進学を希望しているが、ほとんどの母親が入学金の準備にさえ苦労しており、例え入学できたとしても卒業まで学費を払い続けられるだろうかという不安にかられている。
そのため、高3生のときに「あしなが育英会の大学奨学金」を予約出願してくる者が、05年451人、06年514人、07年522人、08年613人と増え続ける一方である。
◆寄付が減少すれば、大学奨学生の採用増やせない
遺児家庭が「貧困スパイラル」に陥ることなく「貧困の連鎖」を断ち切るためには、遺児が他と平等に教育を受ける機会を得て自助努力する以外にない。
本会はこれまで「高校奨学生全員採用」の方針を堅持しながら、生活保護家庭の遺児でも東京の大学に進学できるチャンスをと、朝夕食付きで寮費月1万円の学生寮「あしなが心塾」を開設し、遺児の大学進学を促進してきた。それは、高卒では満足な職に就けないという日本の現状に対抗するためだった。しかしながら、限られた資金の中では、大学奨学生の採用枠を厳しくし「高校奨学生全員採用」を死守せざるを得ない。ただし、回復の見込みのないこの深刻な不況下、寄付が減少し奨学金希望者が増えると、高校奨学生採用の方針さえも検討せざるを得なくなるだろう。本会は奨学金を支える「あしながさん」募集に全力投球すると共に、政治に対し「子どもの教育」支援策の実現を強く要望していく。
Ⅱ 高校3年生遺児の声
◆お母さんの本当の気持ち
私が「進学したい」と言っても、「いいよ」と言ってくれたお母さん。でも、心の中では、就職してほしいと思っていたんだなあと、後からわかった。就職が決まり、お母さんと話したときに「あんたは姉妹の中で一番やさしい性格しとる」と言ってくれた言葉が一番うれしかった。一番わがままを言って反抗しまくってても、私のことを見ていてくれたんだなあと思ったとき、自然に涙が流れた。(石川)
◆これ以上あまえられない
中学2年の11月にお父さんが亡くなりました。今思えば、あれから僕の人生も変わりました。だけど母は何も言わず、この4年半、ただがむしゃらに仕事ばかりしていました。朝8時から夜11時まで、仕事仕事で、だけど、どんなに仕事しても給料が安くて食べていくのがやっとだったと言っています。僕は、そんな母にあたったことも、何回か、けったこともあります。どんなに荒れたときでも、母は僕をおこることもなく、こずかいもくれました。今思えば、本当にごめんなさいと言いたいです。本当は大学に行きたかったけど、我が家にはお金がなく、これ以上あまえられません。今度は僕が仕事をして、これ以上めいわくをかけたくないと思います。(愛媛)
◆小学生のときからの夢をあきらめて
私は高校生活の3年間、とても進路のことで悩みました。小学校のころから夢にしていた保育士になるため、入学したころは大学進学を目指していました。しかし、経済面で苦しく、どうしても進学をあきらめなければいけなくなり、これからどうすれば良いのか分からなくなりました。悩んでいるうちに2年間が過ぎ、就職しようと決めたのは、2年生の終わりの頃でした。就職しようと決めたものの、自分の力で何とかしなければならなかったので、暗中模索の繰り返しでした。無事に就職することができましたが、今はまだ、これで良かったのか何とも言えません。(東京)
◆学年すべてが進学するけど
学年すべてが進学を希望し、自分自身も進学を志望していたが、経済状況を考えて就職という方向で学校でも面談を進めている。(滋賀)
◆母親を少しでも助けたい
進学したかったが、母が一人で育ててくれたので、就職して少しでも助けようと思っています。(岩手)
◆母にも言えずに悩み続けて
卒業後の進路は未定。進学=お金がかかるため、母には言えず、自分でもどうにかしようと思わなくなってしまっている。(宮城)
◆本当は進学したかった
4月から社会人になります。就職を決めるとき、とても悩みました。本当は進学も考えたりもしましたが、母や祖母のためにも、自分が少しでも力になれればと思い就職を決めました。(秋田)
◆受かっていた専門学校をキャンセル
高校3年間、勉強にはとくに力を入れました。友達とも仲良く毎日楽しく過ごすこともできました。でも、3年生になり進路にはいろいろと悩むことが多くて大変でした。家庭が苦しいため、受かっていた専門学校をキャンセルして就職にかえた時はつらくて、就職活動をするのさえ嫌な気持ちになることもありました。(新潟)
Ⅲ 母親の声
◆仕事につけるだけでありがたい
何も望むことも夢もありません。仕事につけるだけでありがたいです。(大阪)
◆親としての悲しさ
進学させてやりたいと思っても無理な現実。子供も生活の中で理解してか、就職を考え「進学しない」と早くから言うなかで、親として悲しいです。(愛媛)
◆これでいいのか?
一度しかない人生なのに、資金面での夢のあきらめは、親としてとても残念で悔やんでなりません。本人は教師か養護教員になりたかったようですが、ムリだと諦め、就職の方向での壁にぶつかっているのが現実です。いまだに親としても、これで良いのかと悩む毎日です。本人にとって良い方向へと行くように見守ることしかできないことが一番つらいです。(茨城)
◆高額な授業料は払えない
本当なら専門学校へ行かせて、その後、就職させたかったのですが、専門学校の入学金など、すごく高いので行かせてあげれませんでした。子供は「仕事する」と言ってくれてますが、本当に親としては150~200万円といった高額な授業料は、がんばってますけど、本当にムリです。(福岡)
◆生活保護家庭だから
母子家庭であり生活保護を受けている私たちですが、2人の子が進学というのも大変なため、就職ということになりました。本人は他にやりたいことがあったようですが断念しました。そして、入社も決まっているので、免許を取り車も買わなければならないのに、生活保護を受けているので買うこともできません。そのために2月に保護を打ち切りして買うことになります。(群馬)
◆失笑され悔し泣き
今、娘は就職活動の最中ですが、本当は合格した学校へ行きたかったのだと思います。学校へ行かせるための資金がいまひとつ間に合わず、途中で断念する結果でした。娘の通う学校の進路の先生に失笑され、娘は「おまえの家族状況では、初めから無理なんだ」と言われ、かなり悔しい思いをしました。泣く泣く就職。夢をあきらめたという彼女の言葉に、私の力のなさを身にしみて感じています。(新潟)
◆内定したが不安募る
トヨタの下請けの会社です。通勤が始まるまで、取り消しがあるのではないかと心配です。その会社ではパートや派遣社員がほとんど年内で契約を切られ、社内の空気が良くないようで。その中に入っていかなければいけない。いい雰囲気の中で仕事ができないというのはかわいそうです。(奈良)
◆働きながら学ぶ
男の子は一人なので県内の進学を希望しましたが、本人の勉強したい学校はありませんでした。下宿して私立大学に通うことは、今の生活ではできるわけがなく、それなら好きな通信関係の仕事をしながら学ぶといって就職してくれました。横浜に行きます。さびしいかぎりですが、県内には仕事先も無い現在、就職できただけでもうれしいです。一人息子で将来を考えると、親の私は大学に行かせてもらったのに、子供を行かせることができないと思うと情けなくなります。(鹿児島)
◆この先わからない
子供の就職もはっきりしないこと、私の会社が週休4日になったこと、大学3年生の子の学費。この先どうしていいかわからない。それでも、あしながさんのおかげでここまで来ました。体だけは健康なので頑張ります。(山梨)
◆成績良い娘なのに
就職先がないために大変苦労します。高校側も、道内、それ以上に、市内での働き口が少ないために必死になっています。また、進学したくても経済的にも生活に余裕がないために、本人も進学を断念し、保母や看護師になる夢も果たすことができないため残念です。成績も悪くないのに、進学させてあげられなくて、親としてもせつないです。就職先も未定のため不安です。(北海道)
◆奨学金だけが頼り
去年は左足を手術しました。今年も5月頃、右足の手術をする予定です。子供の進学はうれしく思いますが、お金のことを思うと・・・怖いです。奨学金だけが頼りです。子供には、少しだけでもアルバイトをしてくれるように頼んでいます。(福岡)
◆眠れない日々続く
2月に子供の私立大学の受験があります。私はまだ仕事が見つからず、日常生活すらままならない状態です。今月は検定料4万3千円の支払いがありますが、めどが立たず体調も悪く、眠れない日が続いています。合格すれば2月末には110万円の校納金が必要です。教育ローンの融資が受けられるか心配です。子供は頑張っています。どうにか子供の夢をかなえてあげたい。私はとても無気力で自己嫌悪を感じています。駄目な母親だと思っています。でも、子供のためにも自分のためにも頑張りたいと思います。(宮城)
◆まだ迷っています
今の学力では国立大に進むことは難しいので、就職することも考えましたが、不況で就職先が無く、アルバイトをしながら、もう1年がんばってみるか、入れそうな私大を受験して、がんばって卒業するか、まだ迷っています。どちらにしても、経済的にかなりの負担です。本人の意思次第なのですが、家計がネックのようです。(神奈川)
◆子の向学心支えたい
双子の息子が共に大学進学です。弟の方が県立看護大学進学が決定し、兄の方が国立大へ進学希望し、先日センター試験を受験しました。2人同時に入学決定してもらいたい反面、経済的なことを考えると悩んでいます。ここ8年、主人を亡くしてから、私1人の生計で、苦しくても息子たちの向学心や校内での活躍を見てきて励みになりましたが、金銭的に困っている状況は変わらず、悩み続けています。(沖縄)
◆4年間続くか不安
私にとっても初めての経験で不安だらけです。本当に4年間、学校生活を送らせてやれるのかと。あしながさんのおかげで、少しは肩の荷が軽くなりましたが、他の奨学金や借り入れで、やっとの計画です。上の娘が終わると、次に長男が進学の年になり、今のところ気安く「進学したい」などと言っています。娘が「自分が卒業し就職したら、弟の進学の手助けをする」と言ってくれていますが、はたしてうまく職につくことができるのか、今の世の中を見ていると不安だらけです。もしかしたら下の子にはあきらめてもらうことになるかもしれません。(新潟)
◆入学金の金策が悩み
長女は特別推薦で大学進学が内定しています。奨学金も内定していますが、頭を悩ますのが入学までの金策と保証人の問題です。母子家庭で、ましてや現在無職の我が家に、保証人になってくれる人やお金を貸してくれるところなど無く、内定を受けていても入金や手続きができなくては、進学できずに路頭に迷ってしまうと、不安でいっぱいです。(奈良)
◆年金支給の延長を
遺族年金が今年の3月まで支給されますが、子供の進学と同時に打ち切られ、私の給与(パート)だけの収入になってしまうので大変不安です。上の娘も進学していますが、私からの仕送りはありません。娘は奨学金とアルバイト代で生活している状態です。子供が卒業するまで年金が支給されたらいいのですが…。もう一つ仕事を増やしたいと思っていますが、なかなか見つからない状態です。(佐賀)
◆保証人がいない
大学進学を決めましたが、生活費・学費などで銀行の教育ローンを借りようと思いましたら、正社員・正職員でないと借りられません。私は町の臨時職員なので困っています。保証人となる配偶者もなく、同居の義父母も高齢で保証人となれず、どうしてよいか悩んでいます。大学進学を決めましたが、はたしてそれで良かったのかと、いつも子供の顔を見ながら考えてしまいます。現在の社会の状態をみますと、なおさら不安になります。(福島)
◆諦めるより他にない
大学進学が決定しましたが、入学金、前期授業料等で70万円近くを納入しなければなりません。奨学金の採用も決定していますが、期日には間に合わず、教育ローンも収入が少ないためダメでした。本人が希望し合格しても、これでは進学をあきらめるよりないということでしょうか? 入学金はなんとか支払いましたが、今は必死で残りの支払いをどうするか本当に困っています。(東京)
◆貧困から脱出したい
現在、高校3年生の男子なのですが、大学進学を希望しています。母子家庭で、私は派遣社員のため収入が不安定で、この先の保証はありません。日本学生支援機構へ奨学金を申し込んだのですが、選外(基準に合致しているが順序付けにより不採用)とのことでした。社会の底辺で頑張っているけど認めてもらえないワーキングプアの現状です。でも、だからこそ、こんな貧困の連鎖を繰り返したくないと強く思っています。子供には、社会の底辺で苦労するのではなく、しっかり学力をつけて、社会の役に立つ人になってもらいたいと思っています。(三重)
【母子家庭の高3「生活苦で進学断念」が4割 読売4/16】 親を亡くした遺児を支援する「あしなが育英会」が、母子家庭で育つ高校3年生の進路希望を調査したところ、就職希望者の約4割が生活苦を理由に進学を断念していることが分かった。 調査は、同会の奨学金の受給者を対象に昨年12月から実施。今年2月末までに回収した582人分の回答を集計した。 卒業後の進路希望は、大学進学が44・3%と最も多かったが、就職が27・8%で、専門学校(19・8%)や短大(6・2%)への進学希望を上回った。このうち、就職希望者にその理由を聞いたところ、「経済的に進学できない」が21・0%、「家計を助けるため」が19・1%となり、合わせて40・1%が「生活苦」を理由に挙げた。 不況の影響で職を失う母親も増えているといい、同会は「景気悪化により、経済的な理由で進学をあきらめる遺児が増える恐れがある」としている。 同会では18、19、25、26日の4日間、全国約250か所で街頭募金を実施する。問い合わせは事務局(03・3221・7788)へ。
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