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規制緩和でなく財政投入が必要 保育協会調査

 厚生労働省の補助事業として実施。日本保育協会が今年3月に発表したもの。
 「改正保育制度施行の実態及び保育所の運営管理に関する調査研究報告書」 
 子どもの貧困、貧困の連鎖を防ぐ、日本型ヘッドスタート制度として、企業参入や規制緩和でなく保育制度への財源投入こそ重要だということが示されていると思う。

 調査は、全国の保育所の10分の1に対するアンケートをもとに、調査スタッフ-― 野坂勉(大正大学名誉教授)、吉田眞理(小田原女子短期大学教授)、高橋一弘(大正大学准教授)、太田嶋信之(竜南保育園園長)、東ヶ崎静仁(社会福祉法人東明会理事長)、鷲見宗信(梅雲保育園園長)の各氏によってまとめられたもの。
 
 以下は気になるところを摘要・・・ 「三位一体改革」など「構造改革」で、子ども施策が削減され、次世代育成支援の展開も困難に陥っていることもわかる。

○三位一体改革の動きの中で市区町村における運営費・補助金を含めた全体的な保育所費用について
・「増額」3.8%、「減額」53%、「変化なし」33.5% と現状維持、減額が多くなっている。
・三位一体改革において保育対策等促進事業(特別保育事業)の廃止・縮小された事業
「乳児保育」11.2%、「障害児保育」8.3%、「一時保育」5.2%、「子育て支援」3.9%の順で廃止・縮小となっている。…本来の福祉として支えるべき障害児保育が市区町村で廃止・縮小されていることは、少し気になるところである。

○次世代育成支援の展開にあたり、保育所はその果たすべき役割をどのように考えているか
 2番目に多かったのが「次世代育成支援の展開に努力はしているが現状では自ずと限界がある」の項目で31.2%を占めている。「通常の保育に追われており次世代育成支援まで手が回らない」は15.1%

C.研究員の考察
◆吉田眞理(小田原女子短期大学教授)研究員による考察
 自由記述からは時代の変化に翻弄されながら、努力している保育所の姿が垣間見えた。最低基準引き下げへの危惧、契約制度や市場化など規制改革会議への批判から、中には「保育園の運営は国家の責任において行ってくださいと全国の法人立の保育園が国に廃止届けを出すくらいの気概を持って対応していかないと、規制改革会議の方々は目を覚まさないのではなかろうか」という過激な意見も見られた。

◆高橋一弘(大正大学准教授)研究員による考察
 調査票の最後に置いた自由記述からこの項目に関連する記述を拾ってみると、「気になる子どもが増えている」「言語面、生活習慣面で支援を必要とする子どもが増えている」等の記述が何人もあり、発達障害等の障害の幅も広がり支援の内容も多岐にわたってきていることが想像される。・・・行動に落ち着きがなかったり、仲間といるとすぐに手が出てしまう子どもや生活習慣が十分でない子ども、仲間の輪になかなか入れない子どもなど、いわゆる「手のかかる子ども」も増えている状況からすると、日常における保育活動そのものも大変なものになってきていることが予想される。

 保育所に通う乳幼児年代が、最も虐待される可能性の高い子どもたちであることからすれば、児童虐待防止の観点からも保育所に適切な人員を配置して地域社会における子育て支援の機能を強化すべきである。これは、今後増加が予想される発達障害のある子どもに対する支援についても同様である。今後はさらに、地域にある他の子育て支援団体や機関とどの様に連携を取ってゆくかも課題となってゆくであろう。そのためにも、適切な予算と人員配置の上、現在の保育所の保育機能を充実させるとともに、ソーシャルワーク的機能を高めてゆくことが求められる。

◆太田嶋信之(竜南保育園園長)研究員による考察
 最近、企業が経営する保育所で、本業の事業が大幅な赤字を出した影響で倒産した事件は、保育関係者の中でまだ鮮明な記憶として残っている。・・・営利と配当を目的とする企業側からの論理だけで規制緩和を進めていった場合、児童福祉法に基づいて設置され、子どもの最善の利益を保証することを目的とした、保育所本来の存在意義を大きく変えることになる可能性は高い。

 ここへきて制度改革の動きが慌しくなってきている。…前述したように企業がさらに参入しやすくするために、規制の一層の撤廃や緩和を強く求めている。その内容には、子どもの最善の利益についてはほとんど論じられていない。… 企業が主張する競争原理が働いて、保育所は保護者にとっては利便性の高い親受けする施設になっても、子どものひとり一人を大切にした保育、子どもの発達を高い専門性をもって保障する保育を行う施設になることは困難になるだろう。

 市町村にとって民営化により財政負担が減ることは歓迎すべきことであろうが、その結果、その市町村の保育レベルの低下を招き、子どもの最善の利益が守られなくなることが考えられる。

・不採算の保育ニーズ等への対応
 また、公営保育所の役割として、過疎地での保育、障害児に対する保育などの経営的に採算を取ることが困難な保育ニーズに対しては、公営保育所が責任をもって対応すべきである。とりわけ障害児保育に関しては、いわゆる、気になる子と言われるような発達障害児の場合には、保護者が障害を認めないために障害児認定が難しく、保育士の加配が困難になっているという実態がある。そのために民営保育所では、障害児を受け入れたくても、予算措置ができないことで受け入れができにくいのが現状である。

◆東ヶ崎静仁(社会福祉法人東明会理事)研究員による考察
〔保育所入所要件の見直し〕
 保育所では、規制改革・地方分権が求める改革は予算(財源)削減の目的が大きく、現在でも低い保育所関係予算が削減されることには共感できない。介護サービスは直接契約によって質が低下し、福祉事業者の倒産・急激な撤退等が相次いで出現しており、市場原理に基づく直接契約は競争を激化させ、保育の質の低下に繋がるとしている。
〔面積基準の見直しは問題〕
 認証保育所等は避難など安全面から2.5㎡以上(1.65㎡+0.8㎡)で保育士の動線は確保できるとしている。しかし、子どもの育ちの観点から、ハイハイや遊ぶスペースが狭くなると子ども同士がぶつかり、トラブルが多くなって、この年齢の落ち着いた育ちの弊害となる。
〔人件費の増額が必要〕
 現在の保育士給与の国試算は勤続7年程度で、保育士の年収は360万円に満たない。全職種における全国の年収平均30歳で461万円に対して保育士の給与は低い水準となっている。今後ますます子育て支援が求められ、多様な保育ニーズに対応するには保育士としての経験豊富な人材が必要となってくる。一人親家庭が増加している中で、男性保育士の役割が貴重となっている。しかし、現行の試算水準では職員確保が困難となっており、人件費全般的な見直し又はキャリアアップ制度を確立するなど、給与水準を見直して人材確保を図らなければならない。

◆鷲見宗信(梅雲保育園園長)研究員による考察
 養護と教育が一体化された集団での保育こそが、保育所の独自性であるといえる。また養護と教育が一体化しているからこそ、24時間または6年間という時間単位の中で子どもの発達の状況が見通せるからこそ、保護者の支援・地域の子育て支援が行えるだけのキャパシテイを持つことが出来るのである。今回の調査の自由記述においても、保育制度の改定に対し、主に予算面から不安視する声が多数見受けられた。現状の保育制度の改定は今回の自由記述の意見に見受けられているように予算面の抑制の意図が見受けられる。その背景には保育の独自性が養護と教育が一体化された就学前の子ども達の発達をしっかりと保証していく事であることの理解が不足しているためと考えられる。

 根底にあるのは第1次報告の中でたびたび触れられている保育に関する財政問題である。…今回の調査報告においても、多様な保育サービスのニーズがない地域も見受けられたが、基本的には、運営財源の手当が有れば担当職員を配置し、多様な保育サービスを提供することが可能であろうと思われる。

D 総合的考察と展望 
◆野坂 勉(大正大学名誉教授)研究員
 平成9年の児童福祉法改正に当たって両院の厚生委員会が付帯決議をしたにもかかわらず、保育所運営費が削減されている。あるいは児童福祉施設の設置者として、最低基準の遵守ならびに向上をはかる義務にもかかわらず、認可外施設を奨励し、ダブル・スタンダード=2重基準を運用、ないし低下を公然化させるなどしている。これが地方自治体に児童福祉の全機能を移譲するに至った地方分権の本体だとすれば、公的責任を放棄する裁量と権限を得たのかが、問われるべきである。

 企業の参入問題は、東京都の認証保育所をはじめとする府県は、最低基準の引き下げによって促しているが、経営情勢を反映し倒産閉鎖の発生、あるいは園庭の未充足な状態などにより、園外保育の引率中、交通事故に巻き込まれ死傷事件が発生するなどは、大人が品質不良食品、危険玩具を与える以上に結果を招いた責任が問われるべきであろう。

 調理室による自園方式を保育の中心に据える保育所が、圧倒的に多数である。かかる結果について、調理業務と自園方式を維持している事を規制の壁だとする者があるとすれば、乳幼児保育が食によって成り立つという根本を無視する暴論だといわなければならない。

 次世代育成支援の施策化に当って、担い手となる保育所の多機能化と活動組織が強化されねばならない。
現実的に保育所が、その役割を取り得るかについては、現在の任務を果たす事で限界に達しているとするのが31.2%を占めている。… 次世代育成支援の事業主体となる市町村に、保育所が実施機関として求めているものは、職員の増員76.8%、事業予算の補助金60.3%、専門職員の配置38.5%となっている。これは、次世代育成法として10年を時限とし、急速な少子化社会に歯止めをかけるとする立法の趣旨からするならば、活動体制の整備が急がれねばならない事は自明の理である。

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Comments

十津保育園の先生の園児虐待止めさせて下さい。

保育園の実態は地方、自治体、民間、と様々で、今回の保育制度改革を私たちの住む町では「国のそのはなしは大きな基準になるが、市としてしっかり保育にあたる姿勢は堅持したい。安心子育てができるような対応の方向をきめていきたい」と議会で述べました。

しかしながら、保育園職員は半数以上が臨時嘱託職員です。正規職員との処遇の格差は大きく改善の兆しはありません。職員間の人間関係はいびつで、職員教育の出来ない状況です。  子どもの最善の利益よりのさきに、職員の教育,人づくりが最優先です。でなければ、子どもの利益は望めません。

また、個々の保育園内部問題は根が深く、この改善がなされれば、いい保育に向かっていくのは目に見えています。 行政や上司がどういっても、内部関係がうまくいけば、いい保育ができるのではないでしょうか?  それが保育士だと思います。

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