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学習資本主義と格差 備忘録

 「学力と階層」 苅谷剛彦氏の著書の中から、「学歴社会から学習資本社会へ」の章の備忘録。
氏は、一貫して経済の格差と学力の格差の相関関係について警鐘をならしてきた。それが、知識経済の進行のもと、学習能力が「資本」となる社会の特質では、いっそう大きな矛盾を孕むことを指摘している。そうした角度から、選択と自己責任論についても深められており、興味深かった。以下、備忘録

【学力と階層 第五章 教育の綻びをどう修正したらよいか】

1.学歴社会から学習資本社会へ 
◆生涯学習社会から生まれたジャパニーズ・ドリームの体現者
以前/会社ごとの特有の文化、スキルを獲得しながら昇進~ 学歴社会―知識蓄積型のキャリアアップ
 現状/「知的経済」という不確実性と変化の激しい社会で、新たなスキルを手にした成功者の出現
    時代の変化を予測する力、コミュニケーション力、イノベーション能力、問題の発見・解決力等
   → ナレッジワーカー(ドラッガー)、「学習」を根幹とした企業人 「知的経済に相応しい自立型人材」

・教育のおける「学び」~「自ら学び、自ら考える力」の育成、「生きる力」の教育との一致
  そして「体験を通じた学び」として、知識の詰め込み、暗記でない、体験を重視した方法
 ~ ビジネス界の学習論と教育の世界の学習論の一致
 学ぶ側の主体的なかかわり、体験の尊重をイメージさせる「学習」「学び」
   かつての臨教審の「生涯学習社会」への移行
     ~「詰込み教育」「受験教育」「学歴社会」への批判として/主体的な「学び」へ
・学習能力が「資本」となる社会の登場 = 「学習資本主義」
  過去に修得した知識・技術よりも、学習能力が人的資本形成の中核となる。
⇒ そこには「影や闇の部分はないか」「社会のどんな変化と結びついたときに、影や闇が光を飲み込むか」
   この問いに答えるために、より大きな社会と教育の変化に目をむけなくてはならない。

◆学歴社会レジームの綻びと「学習」の離床
 構造的変化~ 学歴社会から学習資本主義社会への移行
・学歴社会レジーム  受験勉強~有名大学~一流企業・官庁へ 同じ組織内でキャリアアップ
    学歴で、就職機会が配分され、訓練機会が異なり、この訓練=人的資本形成が、キャリアの軌跡となる
    ~ 「人的資本形成」と訓練機会と地位の上昇が重なりあっていた。
「学歴」とは、「頭のよさ」よりも、企業内での学習機会を生かす能力を図る「一次元的な物差し」

・社会の変化による旧レジームの動揺
雇用の流動性の高まり、行き止まりの仕事(学習機会の乏しい仕事)の増加
技術革新、グローバル化など環境変化の激しさ、知識経済の出現
→ ここから「自ら学びつづけるナレッジワーカーが求められ、学歴レジームが動揺する
   キャリア軌跡にうめこまれていた「学習機会」と「それを活用する学習能力」どか区別され、
「生涯学習」(機会)と「学びのすすめ」(能力)が多言されるように変化

◆イギリスは、職業能力向上のため、生涯学習の機会を拡大
人的資本形成の過程での「学習」の関わり方の変化 ~ 学習、教育の市場化
・イギリス 80年代、教育の市場化。そして、ブレア政権のもとでも「教育・訓練を政策の要に」
   21世紀の知識経済の下で、国際競争に勝ち抜くことができる国民の形成
 ~「完全雇用」を目指すのでなく、「十全な雇用可能性をくまなく多くの人々に身に付けさせる」政策への展観
   (山口二郎 「ブレア時代のイギリス」岩波新書)

*人的資本への投資を、福祉国家改革とむすびつける発想
 「個人の自立、個人の効用を高める」ことと「国の競争力を高める」ことの両立をねらったもので、なおかつ「機会の平等」をはかることにもつながる、と考えられた。
 → しかし、イギリスでは、「学習、教育の市場化」と結びついたことが「より重要な変化」

・「学習、教育の市場化」がもたらした変化
 学校選択性、生徒数による予算配分、学力テスト結果の公表、テスト結果による予算配分
 ~ 「選択」と「競争原理」による「準市場化」の展開
 → 親の経済力などの格差による教育格差の拡大。貧困家庭の「ハイスキル社会」からの排除

◆「学習」という投資活動、「学習能力」という投資センス
 学習の市場化とは「学習能力や学習成果の価値が、教育市場を通じて決まると同時に、それらが資格市場や労働市場とも結びつくようになる状態」
~ ここで「決定的に重要な役割」を果たすのは「選択の介在」
・学習を通じて獲得する価値は、共通して与えられるものから、自ら選んだ上で獲得するものに変わる。
   「学習機会の選択」が「公平に行われているという虚構」を前提に
     ~ 学習成果の価値がどう他の交換の場で価値を持つかを見越して、学習機会が選択されたというみ
なしが成立する

*「利口な投資家は、労働市場の価値を見越して、学習機会を選択する」「人的資本への投資効率が最適化するよう学習機会を選ぶ」~その見極め自体が、自ら学ぶ力=学習能力に依存する

・学習とは、そもそも自己反省を組み込んだ過程
学習内容とその成果に、自ら意味を与えつつ、常にその状況を自己参照してこそ「自ら学ぶ」ことができる
→そうした自己参照(セルフ・モニタリング)を前提に、学習が交換のネットワークに位置づけられていく
 それが、新たな段階に入った人的資本主義の姿

◆学ばなければ生きていけない
・人的資本の価値形成のあり方に変化~ 獲得されるのは知識、技術だけでなく、学習能力自体
    知識、技術をストックとして見なしてきた従来の人的資本と異なった考え方
・「人的資本家」としての個人は、人的投資の対象ともなる個人 
    ~ この二重性は、投資効果についての自己反省を自分の問題として引き受ける。
つまり、市場において、自己反省的に学習し続けることを余儀なくされる
   例 フリーターのように、スキルや学習能力を高める機会を奪われた人は、低い価値が与えられる。
・もともと福祉国家を想定して案出された「生涯学習モデル」が、市場競争(新自由主義)型のものへ転換する 
   知識経済のもとでは、問題発見・解決能力、コミュニケーション能力、協調性など、多様なスキルを身に付けるための学習能力自体の価値が高まる。同時に「自ら学び」続けた成果が、市場を通じて価値付けられることを前提に、生涯学習が行われるようになる。
   ~ 学ばなければ生き残れないので学ぶ・・・市場競争型の生涯学習社会
・学習のための人的資本への自己投資は、流動化が加速する社会の不確実性に対するヘッジにもなる。
雇用主にとっては、「学習能力を高める人的資本家」を雇うほうが、賢い選択となる。

◆選ぶことを余儀なくされる
不可避的な矛盾、問題~ それは「学習という社会的行為の特質に由来する」
 ①個人の自立と人的資本形成の矛盾  ②学習機会と「資源化能力」の矛盾
・初期段階の学習~ 人的資本形成の側面と、個人の形成という側面の2つが分かちがたく結びついている
  個人の形成 ~ 交換を前提にした、知識、スキルの獲得という人的資本の形成とは別の「社会の1単位としての個人能力の形成」が含まれる。

・選択する主体としての判断力、政治的な判断力、責任能力の形成など、人的資本形成とは別の面での能力の形成である。個人の形成には、選択主体の形成、責任の主体の形成も含まれる。
  →学習の市場化のもとでは、*学習の成果として人的資本形成がより重視される 
*個人の形成の機会も、個人(親)によって選び取られたという見なしが成立
*学習の市場化の前提であるはずの「選択の主体の形成」の機会自体が、「選択の問題」となる。
→ イギリスで生じているような、親の選択力に格差問題がおきる
    日本の安直な自己責任論が、主体形成の問題をあまりに軽視してきたことはあきらか

◆新たな階級社会の誕生か能力支配社会の実現か
・個人の学習能力の差異は、生まれ育つ家庭の環境や階層と密接に結びついている
・初期の学習能力の差は、人的資本形成の差を拡大していく。学習者の主体性にばかりまかせる学習論は、同じ学習資源を与えられても、学ぶ力に差があれば、格差も個性と見なす安易な個性主義と同じになる。
   ~ この差は、学校教育のあとで、さらに学習資源の豊富なハイスキルの仕事の機会など拡大する
・「選択」原理は、この格差も、個人の問題に還元する見方を受け入れる基盤をつくる。
 ~ しかも、「生きる力」や学習能力を高める学習は、目標も方法も曖昧で多元的。こういう学習ほど過程の文化的環境の影響を受けやすい。/ 教育競争から早く降りる人ほど、学習能力を磨く機会の少ない可能性
⇒ この差異の拡大は、個人の形成の選択を通じ、次世代に持ち越される。
 

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