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全国学力調査 開示請求と目標管理の暴走 

 4月21日に三回目の学力調査が実施される。公立校は100%参加だが、私立校は、47.35%。第一回の61.52%から14ポイント減となっている。さて、ここに来て、学力調査の矛盾がいっそう明らかになってきている。
そこで、最近読んだ論文の備忘録
開示請求ラッシュがつくるPDCシステムの暴走、学力観の貧困化。精神科医・ハーマンの「心的外傷と回復」から学ぶ、子どもの生存・成長を支える学校づくり。学テ体制がつくる教師の「実務遂行者」化などについて。

◆全国学力テストによる目標管理システムの構築と崩壊    宮永与四郎(教育行政研究者、前衛09.5)
①目標管理システムで、公教育が崩壊に向かっている
製造現場の管理システムあるPDCA目標管理システムを教育現場に導入。
・学力調査の平均正答率という単純な指標への忠誠競争、「自主的」服従を引き出した
 しかし、教育施策の成果をテストで測定できるか、テストは学力を反映するのか、学力とはなにか
 という、根本問題はおぎされにされたまま導入された。/イギリスにおけるナショナルテストの失敗
・日々の学習のテスト対策化、反復練習・パターン化した思考訓練
   知的創造の時間と空間を喪失した子ども~ 底の浅い貧困な学力の獲得
・「学力向上」の授業改善のため、上からのプランのおしつけ
  教育現場の活力は、教師の自由闊達な取組みが源泉だが、教師の主体的取組みや意欲を抑圧
・保護者、住民の中に、競争的学力観が浸透
  学力を競争、サバイバルの手段ととらえる風潮、学力観の劣化 ~ 学力資本主義社会(苅谷)
  そこから目標達成競争を引き起こしつつある

②平均点の公表ラッシュ
 文部科学省の想定  市町村別・学校別の平均点は公表せず(実施要綱)、教育行政の内部で活用

*公表に踏み切った自治体
  秋田県知事 市町村別を発表 「税金で実施。公表は理にかなう」
  大阪府知事 公表しなければ予算に差と圧力。24市町が公表
  鳥取県南部町 「開示して学校、地域一体で学力向上めざしたい」

・学力調査は、子どもの生活や学習状況、学校の取組みもアンケート調査から構成。結果の公表は、市町村や学校別の正答率という「単純」なものでなく、その全体にわたる分析、教育条件整備計画を内容とすべき。
 とりわけ、経済的に不利な環境にある子どもへの支援、改善策は、行政の責務
・公表データの中心は点数。平均点の高低、順位だけに関心 ~ なにより文科省が都道府県順位を公表

*開示請求のラッシュ
・文科省の説明「結果は公表されることはない」「実施要綱でルール化している」
 ~ しかし、実施要綱からの逸脱は、ただちに違法と言えない/ 文科省が、実施要綱の実効性を確保するには、開示自治体を学力調査から排除する以外にない。不参加の拡大、全国学力調査の崩壊へ

・開示請求をめぐる自治体での動き
鳥取県 07.10  県教委「非開示」 県情報公開審査会 08.7「開示すべき」 /行政訴訟に
埼玉県 08.10  県教委「非開示」 県情報公開審査会 08.12「開示すへし」
 「教委の主張する(序列化、過度の競争の)『恐れ』は、いずれも具体的なものと言えず、開示することによりテストの適正な遂行に支障が出るとは認められない」が理由/県教委は、名前を伏せ市町村別を公表
大阪枚方市 行政訴訟で判決待ち。07.2月、市独自のテスト結果でも行政訴訟をおこされ、一審、二審とも「学校テストの主旨について市民に正しく理解されれば学校序列化は起こらない」と「開示」を決定。

・裁判所の判断は割れているが、自治体の情報公開審査会は、開示の方向に。
   審査会は、非開示事由該当性をきびしく制限することで、国民の知る権利に応える努力がなされてきた。
 ~点数開示と競争激化との因果関係、学校教育遂行上の支障発生の蓋然性を具体的に立証することは困難
 ~ 実施要綱で、国民の知る権利、情報開示請求権を制限できると結論づけることはできない。  
     そもそも、文科省が、都道府県毎の平均点と順位を発表し、排他的競争主義を煽ってきた。
・開示請求の連鎖反応が起こり、「点数と順位」だけが問題となり、冷静な学力議論が排除される危険 
   PDCA目標管理システムが、文科省の意図を乗り越えて、暴走しはじめている。

③公教育に関する冷静な議論の復活を
・排他的競争主義をあおる平均点や順位を示すデータの作成や公表をやめる
・学びあいの関係づくりをつうじ、知と生の共同的関係を作り出すこと
・人々を生きるための競争から解放すべく、安定的な生存条件を確保する取組み
~ 学力テスト、目標管理システムを廃棄する以外に、公教育を崩壊から守る道はない。

◆子どもたちの声を聴き、教師像を考える― 臨床教育学の視点から 田中孝彦・都留文科大教授
①「心的外傷」を負わせる社会と援助・教育の原則
・子どもたちの不安定な姿 ひきこもりや攻撃性
  たいていの場合、その背後に生育の過程の辛い出来事に遭遇した事実 
~ そうしながらも、その中で、子どもは、色々なことを感じ、考え、人とつながって生きようとしている。

・精神科医・ハーマンの「心的外傷と回復」から学ぶところが多い
  戦争、災害、犯罪、虐待など「人間として耐え難い出来事」に遭遇して「心的外傷」を負った人が抱く
   「無力感」と「孤立無援感」、陥る「過覚醒」と「視野狭窄」の状態、「依存」と「攻撃」を交替させる姿
   人格の「乖離」の傾向など・・・詳細に記述。 
*過覚醒 ~ 絶えず危険を予知するための極度の不安、些細な刺激に対する過剰な反応   
*視野狭窄~ 外傷に対して、麻痺したように感情が極端に乏しくなる、無力状態
 ~ ハーマンの示す「症状」と、日本の子どもが示す不安定な姿が、かなり重なっている(田中)

・ハーマンの治療的・援助的実践
1.生命・生存の「安全」を保障する
2.辛い出来事を思い起こし物語る過程につきあう
3.周囲の世界・人々と再び結びつこうとする努力を支える 
~などの粘り強い努力で、「傷ついた自己」を建て直し、「関係的自己」を形づくり、成長が可能
   今日の子どもの生存、成長を支える援助的・教育的実践の普遍的原則
 
②子どもの生存・成長を支える学校に必要なもの
1.子どもの生命、生存の「安全」を徹底して保障する場
2.子どもが生活感情を表現し、辛い体験も含めて生活と人生を物語ることができ、それらを受止められる機会を多様に用意している場
3.子どもが、世界と自分についての理解を深め、世界と自分との関わりあいを深め学習活動を豊富に経験できる場
~そこでは教師は、教える人(teacher)から、子どもの生存・成長を支える教育者(educator)でなくてはならない。

③ 教師像の問い直し
・不登校の卒業生を訪問し、どんな学校生活や教師の存在であったかを聴き直し、思春期を支える教師のあり方を問い直す中学教師の例
~ 自分だけで背負い切れない家族の重い現実を背負って、そのことを共に考えてくれるおとなに出会いたがっていた子ども~ そのことをおおよそわかっていながら、その重さを直感し踏み込めなかった自分
~ 実践に踏み込むには、教師としての不安や迷いを受けとめてくれる他者が必要であった。
・教師同士が支えあう関係~「子ども理解カンファレンス」が必要であった。

④子どもの理解と学習指導を結びつける
・教師「子どもが成育の過程で直面し考えたいと思う問題を察知しながら、子どもがそれを考えて生きていくために必要な事実と言葉に出会い、概念を獲得していく学習活動の支えになる、発達援助専門家」
・ 攻撃的感情 ~ 「抱くものではない」と説教しても教育にならない。
  子ども自身が攻撃的感情があることを認め、向き合い、その原因を考え、どうしたら人間的にコントロールできるかを考えられるかのような学習を創造することが大事
 悪い攻撃性 Eフロム 少数者が多数者を支配する社会で、攻撃を「快」とする感情が生まれる。
 攻撃性の克服~ 生き方と同時に、「競争こそ人間の原理」であるとする社会のあり方を問い直しが不可欠

⑤「実務遂行者」としての教師像
・目標管理システムなど国によって目標・内容・方法を定められた「教育」を実行する「実務遂行者」
・教育実践の困難の克服は~教師が、子どもの理解を深め、その育ちを支える学習指導、教育つくり出していく以外に、そうした教師の努力が社会全体が支えていく、粘り強い努力以外に方法はない。
・短期の「効果」を求めると、教師自身の間からも、ドリルやスキルに走る傾向に/「自発的」に実務遂行者に
・教師、子どもの困難は、日本社会の今日の「危機」的状況の中で発生。それは新自由主義の結果
  ~ 政府は、危機を、学校と教師に還元し、新自由主義的「教育改革」を推進。それは危機を増大させる
     全国公立学校教頭会 “教育目標の数値化の強制では教育できない”の特集(学校運営07.4) 

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