貧相な「子どもの貧困」観
「子どもの貧困」にかかわっては、「貧相な貧困観」こそ最大の問題だと思っている。
本当は、県議会ではここを論戦したかった。「社会から無視されてきた」「調査すらされてない。政策課題になってない」・・・その背景に「がんばれば何とかなる」「親の責任」という一種の「自己責任論」が蔓延しているからだ。
貧困が連鎖することは、各種のデータが示している。 希望や意欲に格差があることも示されている。それは、この間の「派遣切り」など若者の貧困問題で、湯浅誠氏が言う5重の排除(教育からの排除、企業福祉からの排除、家庭福祉からの排除、公的福祉からの排除、自分自身からの排除)を指摘し、「がんばることすらできない」状況に追い詰められてることを過程を明らかにしている。
子どもの貧困を考えるとき、親自身が、この5重の排除に直面していることや、その親自身が子どもの時代の貧困で、剥奪されてきたものがあったのでないか・・・ と視点を延長することは重要と思う。
先日発表された、東京板橋区の不登校と生活保護の関係の調査結果は、中学生では、生活保護家庭が平均の4.8倍、就学援助家庭で1.32倍となっており「貧困」との関連が指摘されている。その報告書には、この調査を加わっている慶応大学の伊藤美奈子先生の、「親自身が生きるためだけな必死なケースがある。面倒を見てやりたくても生活のためにどうしようもないことがある。そんなときに必要なのは福祉的支援である」と書いている。
昨年10月に自死や交通事故で父親を失った遺族の会、「あしなが育成会」が大会で要望書を決議しているが、そこにはこう書いている。
「奨学金だけでは子どもの教育費が賄えず、4世帯に1世帯の子どもたちが進学をあきらめるなど、無念の進路変更を余儀なくされています。15歳から24歳までの若者の45.9%が非正規社員という、ワーキング・プアが巷に溢れる日本にあって、高校にさえ進学できない遺児たちには、夢も希望もありません。日々無気力になっていく子どもを見て、自分のふがいなさを責め、『もう死ぬしかない』と訴えている母親もいます。」と…
こうした課題を正面から見据えることが求められている。「子どもの貧困」は見ようとしないと見えないといわれている。
県議会の質問では、「調査すらされてない。政策課題になってない」「総合的な調査をして、子どもの貧困の視点で施策を見直すとともに、国に政策提言せよ」ということを一番議論したかったが、準備の過程で「どんな調査をしていいのかわからない」など、まったく対応できてないことが明らかになった。それを解明するためには、かなりの時間をつかって説明する必要があり、質問項目の変更となった。
まさに「政策課題」になってないことが問題だと痛感した。
行政側は、就学援助や奨学金があるというが、それでは対応できてない。先に指摘したように奨学金の利用が大きく減っている。生活の場として大事な学童保育は、22自治体で実施されているが、10自治体にとどまっている。
それでも、質問では、 知事は「働く貧困層が増加し、社会問題化する中、経済的な貧困が教育、児童虐待、いじめなど子どもに与える影響は大きく、重要な課題であると認識しております。」「教育の充実や、社会保障制度をはじめとした福祉の充実、また、雇用を安定し、所得を確保する経済対策といったことが重要になると考えます。」とし、県の一連の施策を説明し、「 国においても関連施策の充実が求められるものと思っており、その旨を申し入れたいと思います。」と答弁。
教育長は「貧困の連鎖は教育の力で断つ」と述べ、学童保育の減免問題では市町村と話し合う、就学援助の手続きの簡素化(不要な「民生委員の意見」をなくすなど)を進める。高校の制服、体操服、上履きなど、新品に換え変えなくてはならない状況は、PTAと知恵を出し合うなど、現状での精一杯の答弁をしたのかな、と思う。
国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩研究員は、「貧相な貧困観」の改善をもとめ、次のように指摘している。
所得ベースとして相対的貧困概念は、理解しずらい。相対的剥奪(単に生物的に生存するだけでなく、社会の一員として人と交流したり、人生を楽しんだりできないことは「相対的剥奪」の状況/イギリスの貧困研究者 タウンゼント)という「子どもに必要な最低限の生活は何か」という接近が有効であるが、しかし、その合意水準が日本は低い。すべての子どもに必要なものというアンケート調査で、大学へ行けること42.8%、高校へ行ける61.5%しかなく、おもちゃ、誕生日のお祝い、お古でない洋服は、経済事情で与えられなくもしかたない、与えなくてよいとなっており、同様の調査をしたイギリス、オーストラリアと比べ低いと。
そうした状況について、「自ら属する社会の『最低限の生活』を低く設定し、向上させないことは、『下方に向けたスパイラル』を生む」とし「この貧相に貧困観の改善から始めなければならない。」としている。
貧困問題に取り組むとき、 政府、財界の流布する「自己責任論」を批判するだけでなく、「内面化された自己責任論の克服」が重要だと、湯浅氏はじめ反貧困に取り組む方々が言っているが、子どもの貧困でも「内面化された親の自己責任論」の克服が、求められていると思う。
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はじめまして。
すっかり貧困層の親子三代さざなみこです。
貧乏が長く続くと心まで貧乏になります。それが一番コワイ、経済的に貧しくても心豊に育ってほしいと、私の両親は慈しんでくれたことを実感しながら、私は大人になりました。が、果たして私は高度成長期の母子家庭で、がむしゃらに働くだけでした。子どもは4人、みんな母の苦労が見たくなかったか、高校も満足に卒業しない子もいて、さっさと自立。どの子も今の社会で、ワーキングプアそこそこです。
子どもが勉強する気力を失う、それは貧乏だったようです。その上母子家庭としての差別。
親としてこんなつらいことはない。
平等って何?
Posted by: さざなみこ | March 06, 2009 10:07 PM