基本議論の軽視 海自のソマリア沖派遣
自衛隊のソマリア沖への派遣が大した議論もなく決定された。
「海賊は民間人に害をもたらす犯罪集団であり、派遣は正義」というのは非常に分かりやすいが、私たちは、ソマリアについてどれだけ知っているのでしょうか。
アジア、アフリカ、ラテンアメリカ連帯委員会の全国理事の高林敏之・四国学院大学准教授は、そもそも、「海賊」とは何なのでしょうか?海賊への治安活動が根本的な問題解決なのでしょうか?この基本的な問題をめぐる議論が、あまりにも軽視されているように思えてなりません。」と問いかけている。
◆ソマリア情勢をどう見るか 08.12.28-29 ◆「海賊対策」を口実にしたソマリア派兵論議のおかしさ 09.2/18
ここには、複雑な国内、周辺諸国、国際関係の様子が描かれている。
ソマリアという国のスケッチ ・・南部は農業、北部は牧畜が主に営まれているが、人々の7割が遊牧民であり、9割は、スンニー派イスラム教。父系制を基にした6つの氏族」か ら成り立っており、その下に枝分かれした集団があり、氏族長などを中心にし社会が構成・運営されているそうだ。
アフガニスタンもそうだが、いわゆる欧米の国家という概念であてはめて考えるのは、間違いを生むもとだろう。
高林氏は、「海賊」について「海賊に動員されているのが、ソマリアの無政府状態を利用した先進諸国企業の有毒廃棄物投棄、水産資源の乱獲によって生活の基盤を奪われたソマリアの漁民らであることは、国連環境計画(UNEP)の報告書にも記載されている、衆知の事実です。」と述べている。
先日、新潟日報2月5日(木)に「ソマリアの海賊は義賊である」・・・こんな記事がのっていた
日報抄 「ソマリアの海賊は義賊である」。こう言うと、多くの方のおしかりを受けるだろう。アデン湾などで石油タンカーや貨物船を襲い、乗組員を人質にする。昨年の被害は前年の三倍に急増し、人質は八百人を超えた。支払われた身代金は約三十億円に達するともいう ▼義賊といえば、ロビン・フッドや鼠(ねずみ)小僧などが浮かぶ。歴史学者の南塚信吾さんは義賊の定義を、時の権力から見れば犯罪者だが、民衆には「正義」とイメージされ、社会と不断の接点がある賊とする(「アウトローの世界史」) ▼「なぜソマリアの海賊は“人質に優しい”のか」(「クーリエ・ジャポン」二〇〇八年十二月号)を読み、義賊を連想した。海賊には人質虐待を禁じる掟(おきて)があるらしく、“収入源”の安全に気を使っているという ▼「ぶんどったお金で、おなかをすかせた子どもに食事を与えたり、学校に行かせたりする」。人質になったアイルランド船員の話だ。実際は海賊の蛮行で死者も出ており、決して許されるものではない ▼ただ、最貧国のソマリアは内戦続きで、難民が人口の一割を超す。海賊ビジネスはそんな破綻(はたん)国家にはびこり、地元に金を落とし、それにあこがれる若者までいるのも現実だ ▼日本政府はさしたる議論もないまま、所轄の海上保安庁を差し置き、自衛隊を派遣するという。すでに十カ国以上の軍艦などが出動している。海賊取り締まりが戦争に格上げされたかの様相だ。でも、陸の政情安定なしに抜本解決はない。海賊が義賊視される内情にも目配りが必要だ。
憲法問題との関連では、弁護士会が声明を出している。
自衛隊のソマリア沖への派遣に反対する会長声明 日本弁護士連合会3/4
政府は、本年1月28日、ソマリア沖海賊対策のために自衛隊法82条に基づく海上警備行動として、海上自衛隊をソマリア沖に派遣する方針を決定した。これを受けて、同日、浜田防衛大臣は派遣準備指示を出し、派遣に向けた準備が行われている。
しかし、自衛隊の活動は、憲法9条の趣旨に沿って「自衛のため」の範囲内に止められるべきことが大原則である。しかるに、今回の海上警備行動は、領海の公共秩序を維持する目的の範囲(自衛隊法3条1項、同法82条)、すなわち「自衛のため」の範囲を遙かに超えてソマリア沖まで海上自衛隊を派遣するものであり、その点において憲法9条に抵触するおそれがある。
また、海賊行為等は、本来警察権により対処されるべきものであり、自衛隊による対処にはそもそも疑問がある上、海賊対策に協力する国家に武力行使を含む「必要なあらゆる措置を講じること」(国連安全保障理事会1851号決議)が認められる海域に自衛隊が派遣されれば、自衛隊が武力による威嚇、さらには武力行使に至る危険性があり、この点においても武力行使を禁止した憲法9条に反することとなるおそれがある。
ソマリア沖の海賊行為等は、深刻な国際問題であり、国連安保理決議がなされているなど、問題解決のために、国際協力が重要であることは明らかである。しかし、わが国が今、国際社会の中でソマリア沖海賊対策としてなすべきことは、日本国憲法が宣言する恒久平和主義の精神にのっとり、問題の根源的な解決に寄与すべく、関係国のニーズに配慮しながら人道・経済支援や沿岸諸国の警備力向上のための援助などの非軍事アプローチを行うことである。
よって、当連合会は、ソマリア沖に自衛隊を派遣する海上警備行動の発令に反対する。
会長 宮﨑 誠
海自派遣の実効性についての指摘もある。
海賊被害が急拡大するソマリア沖、海自派遣は焼け石に水 東洋経済オンライン 1/29
「長さ約1000Km、最大湾幅約400Kmと広大なアデン湾を航行する年間2万隻もの船の護衛が26隻では到底足りない。『過半の船は、今もなお護衛なしの丸腰で航行している』(大手海運幹部)。海上自衛隊は3月にもアデン湾での護衛活動を開始するが、現在予定している1~2隻の軍艦投入では焼け石に水。」と・・・
こうしたことを含めたまともな議論もないまま、「海外派兵の実績づくり」のために若者の命を危険にさらしてよいのか・・・・
11日、東京都内で開かれたアフリカ問題のシンポジウムで、アフリカ連合のムグミヤ平和・安全保障局長は「ソマリア沖で起きている現状は、内陸で起こっていることの反映だ。われわれはソマリアの問題を何とかしてほしいと国際社会に訴えてきたが、支援を得られなかった。内陸の解決がなければ海の問題も解決しない」と発言したと報道されている(3/14赤旗)
ソマリアの内戦終結に向けた民生支援を行う国際的枠組みの中での努力、周辺国が共同して行っている取り組みに技術、資金援助をすること・・・その本道がとりくみが見えてこない。
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