公益法人制度改革 その問題点は
公益法人への統制とリストラ(公的サービスの低下)、一方で市場原理主義からこぼれるサービスの受け手の育成という2つの大きな狙いを持ってすすめられているのが「公益法人改革」だと注視はしていたが、なかなか分かりにくい分野だった。
自治労連全国弁護団が見解を出しており、勉強になる。
公益法人制度改革とその問題点
高知県でも移行にむけて会議が重ねられているが、昨年8月実施したアンケートでは、移行先がはっきりしているのは56%で2月の67%から低下、検討中が39%と12ポイント増加している。
公益認定申請する際の課題として、
主たる事業が公益目的事業38%、公益目的事業比率が1/2以上31%、経理的基礎や技術的能力18%などとなっており、ハードルの高さが影響しているようだ。
新公益法人制度に関するアンケート結果 08.8
知事部局所管の「特例民法法人・公益信託一覧表
行政から具体的な検討状況、課題、問題点を聞き取る必要がある。
【公益法人制度改革とその問題点】
200年12月25日 自治労連全国弁護団
はじめに
2008(平成20)年12月1日、公益法人制度改革三法、すなわち「一般社団法人及び一般財団に関する法律」(以下「法人法」)、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」(以下「認定法」)、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(以下「整備法」)が施行された。 この新たな制度は、法人の設立と公益性の認定を分離するものである。そして、一般的な非営利法人である一般社団・財団法人については、主務官庁の許可主義を廃して、準則主義により手軽に設立できるものとし、株式会社類似の運営方式に改める一方、税法上の特典の得られる公益認定には厳格な要件を課すものとしたものである。 この公益法人制度改革は、「民による新たな公益の増進」をキャッチフレーズにするものであるが、同時に、「小さな政府」をめざす政策の一つとして、2万5000ほどある従来の社団法人・財団法人のかなりの割合を占める国や地方公共団体の外郭団体を整理再編する目的を有している。 それは、既存の公益法人の部門閉鎖・統廃合・解散、あるいは株式会社への移行などをもたらす。そして、その職場で働く職員の労働条件の大幅な低下にとどまらず、働き続ける権利の侵害、雇用の剥奪を起こしかねず、公共サービスの低下や利用者に対する著しい不利益という深刻な影響を及ぼすものであり、看過できない。
第1 公益法人制度改革が既存の法人に与える影響
1 既存の旧公益法人の選択肢
新たな公益法人制度のもとでは、既存の旧公益法人は、新法施行後5年間は、特段の手続をとらなくても従来と同様の法人(特例民法法人)として存続することとなる(整備法40条)。そして、特例民法法人は、平成25年11月末の移行期間終了までの間に
①公益社団・財団法人への移行申請をし、認定を経て公益社団・財団法人となる(整備法44条)
②一般社団・財団法人への移行申請をし、認可を経て一般社団・財団法人となる(整備法45条)
③移行申請を行わず、または移行申請を行っても公益社団・財団法人の認定も一般社団・財団法人の認可も得られなければ、法人を解散する(整備法46条) という3つのいずれかの道を辿ることとなる。
2 公益認定
公益認定とは、「公益目的事業」を行う一般社団・財団法人について、行政庁が、基準に適合すると認めることであり、公益認定(認定法4条)を受けると公益社団・財団法人となる(認定法2条1号・2号)。ここで「公益目的事業」とは、「学術、技芸、慈善その他の公益に関する(認定法)別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう」と定義されている(認定法2条4号)。
公益認定の基準については認定法5条各号に掲げられており、そのうち主なものとしては、①公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであること(1号)、②公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものであること(2号)、③事業を行うにあたり、社員や理事などの法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであること(3号)、④その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入の額が、その事業に必要な適正な費用を償う額を超えないと見込まれること(収支相償)(6号)、⑤事業費(公益目的事業実施費用+収益等実施費用)及び管理費の合計額のうち、公益目的事業に要する費用が50%以上と見込まれること(8号)、⑥具体的な使途の定まっていない遊休財産額が制限を超えないと見込まれること(9号)などがある。
第2 「公益認定」制度の問題点
1 「公益目的事業」に該当するか否かの判断は困難
公益認定は、内閣府におかれる公益等認定委員会(認定法32条以下)又は都道府県の合議制の機関(認定法50条以下)が判断するとされているが、具体的にどのような事業が「公益目的事業」に該当するかの判断は現実には容易ではないと考えられる。認定法上は「公益目的事業」とは、「学術、技芸、慈善その他の公益に関する(認定法)別表各号に掲げる種類の事業」であって、「不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するものをいう」と定義されている(認定法2条4号)ので、これを形式的に解釈すると、受益者が特定の範囲に限られる事業については「公益目的事業」に該当しないことになりそうである。また、「寄与」には直接的寄与のみならず間接的な寄与も含むのか、どの程度の寄与を「寄与」と認定するのかについても多義的な解釈が考えられる。
このように、ある事業が「公益目的事業」に該当するか否かは個別具体的な実質的判断に拠らざるを得ず、結局、公益認定委員会(または都道府県の合議制の機関)の判断事例の集積を待たざるを得ないため、予断を許さないものである。
2 国家の公共性(公益性)の統制
そもそも「公益」とは相対的、多義的な概念である(例えば、営利活動を行う株式会社の事業も、性質によっては広く社会一般に貢献するものであり、何らの公益性も無いとはいえないであろう)。そのような本来多義的な「公益」性を、行政が判断して(公益認定委員会、都道府県の合議制の機関も、民主的な機関とはいえず、ただちに正当性が付与されるわけではない)特典を与えるという仕組みは、国家が考える公共性の方向に統制を進めるツールにもなりかねず、原理的に問題がある。
3 公益認定基準が難解で、認定のハードルが高すぎる
内閣府公益認定等委員会は「公益認定等ガイドライン」(平成20年4月11日)を発表したが、ここでも「公益目的事業」の意義が明確とはいえない。のみならず、公益認定のためには、財務面において細かく煩雑な事務が求められるなど、公益認定基準は総じてハードルが高すぎる。
特に、公益目的事業比率(認定法5条8号、15条)については、公益活動を行っていても、会費、寄附金、資産運用収入だけでは公益目的事業の費用を賄う事は困難なため、収益事業(物品販売業)からの利益に依存せざるを得ない法人が多く存在するという現状に照らすと、50%という比率は厳しすぎるものであり、多くの旧公益法人がこの基準をクリアーできなのではないかといわれている。
また、この基準をクリアーするために、管理費を削減するための賃金の切り下げやリストラを招くおそれがある。世界的な経済危機の中、雇用の維持が最重要課題となっている今日において、リストラ圧力となるような運用は厳に慎むべきである。
4 公益認定を取得できない法人は淘汰される危険性がある
既存の法人が公益認定を取得できない場合、以下に述べるような要因によって、淘汰され、統廃合・解散の危険性に晒されることになる。
(1)税制上の優遇措置を受けられない
旧公益法人に対する法人税は原則非課税だったが、一般社団・財団法人では(非営利性の徹底などの要件を満たさない限り)営利法人と同様に、全収入に対し同率で課税される。会員の会費収入についてまで課税されるおそれもあり、このような場合、会費収入を重要な財政基盤にしているような法人ではたちまち大きな財政上の困難に遭遇する。また、一般社団・財団法人には、寄附金優遇税制の適用が無いので、寄附金を期待することが今まで以上に困難になり、これも財政上の痛手となる。
(2)補助金等のカット
地方自治体は、対象事業に「公益上必要がある場合」には、寄附又は補助をすることができる(地方自治法232条の2)。しかし、補助対象事業を「公益目的事業」とするとの判断が国の公益認定等委員会または都道府県の合議制機関から否定されると、その事業に対する補助の妥当性(「公益上の必要」性)が疑問視されかねず、補助等がカットされてしまうおそれがある。
(3)財産使用料等の減免も受けられない
地方自治体は、条例又は議会の議決により、「公益の用」に供するときなどには、使用料の一部又は全部を免除して財産を貸し付けることができる(地方自治法237条2項参照)。しかし、公益法人が地方自治体から使用料等の減免を受けて貸付を受けていた財産があっても、その事業について公益認定を受けられない場合には、地方自治体から使用料等の減免を受けられなくなるおそれがあり、このような場合、当該事業の継続が困難となる。
(4)公益認定を受けない法人の社会的地位・信用の低下
法人法上は、一般社団・財団法人の目的について何の規定も無い。このため、公益・共益・私益法人が混在することとなり、「社団法人」「財団法人」という名称の従来のプラスイメージを悪用しようとする反社会的法人の登場も懸念される。
このようなことから、公益認定を受けない法人一般に対する社会的信頼が低下し、各種契約行為を円滑に締結しづらくなったり、省庁に対する要望が軽んじられるなど、社会活動上の様々な不利益が予想される。
第3 自治体の外郭団体に対する責任
このように、新たな公益法人制度のもとでは、自治体の外郭団体である既存の旧公益法人は存続の危機にさらされ、そこで働く職員の賃金をはじめとする重要な労働条件や雇用の継続も影響は免れない。しかしながら、安易な労働条件の切り下げや解雇・退職強要は労働法上許されないのは言うまでもないし、住民サービスの安易な切り下げも公共性維持の見地からは問題が多い。もともと、自治体の外郭団体は、本来は公共性の見地から自治体みずから実施すべきものを、機動性などを理由に、外郭団体を設立してこれにさせていたものが多い。このような場合、その外郭団体が実施してきた事業は、実質的には自治体の事務というべきものであるから、仮に、その外郭団体の存続や事業の継続が困難になるとすれば、そこで働く職員の雇用や労働条件もまた、自治体が実質的な使用者として、責任を負うべきものである。 したがって、自治体が外郭団体に実施させてきた事業を安易に市場原理に委ねることが許されないのはもちろんのこと、形式的に使用者でないからという理由で、これらの外郭団体の職員の雇用について無責任であることは許されない。 以上
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