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派遣労働規制へ大きな流れ 志位質問から11ヶ月

 派遣労働の規制をめぐり状況が急テンポで動いている。参院で雇用住宅確保決議が全会一致で決議された。舛添厚労大臣が製造業の派遣を見直す必要に言及し、民主党も方針を転換した。経団連会長は、時間外労働や所定労働時間を短くして、非正規労働者らの雇用を守ワークシェアリングに言及した。
雇用改善、財界も模索…背景にリストラ批判  読売1/7
ワークシェアで雇用維持、経団連会長「一つの選択肢」読売1/7
登録型派遣禁止が有力 民主、製造業規制に転換 1/8 共同/a>
製造業派遣 禁止に踏み切る時だ 中日1/7
一方で雇用の調整弁という現実を前にしても、「多様な働き方を選択できる」(日商会頭)「自ら派遣での就労を希望する人も増えている」(日経)との主張がある。
【主張】製造業派遣 規制強化は慎重な論議を 産経1/8
社説 雇用激震に備え短期・中長期の対策急げ 日経1/8
 そもそも派遣労働は「臨時的、一時的であり常用雇用の代替にしない」ことが大原則である。若者を使い捨てにしていいのか、ものづくりを支える人材育成の面でも大きな問題がある・・・ 昨年2月8日、国会で志位さんが追及して以来11ヶ月。若者が声をあげ、反貧困の運動など国民の声が変化を作り出している。

 まずは、官房長官も言及せざるを得なかった大企業に溜め込んだ内部留保の活用で、雇用を守る姿勢をとらさなくてはならない

 尚、派遣労働を「合理化」する論の1つである「国際競争力」については雑誌「経済」の元編集長の友寄氏の指摘が勉強になる。
経済時評「国際競争力」論の落とし穴 07/6/21
 その中で根津利三郎氏(富士通総研専務)の論文「十分ある賃上げ余地」(日経07/3/27)から「『厳しい国際競争に勝つためには、賃金は抑制すべきだ』という議論は誤りだ」とし、その根拠について、近隣のアジア諸国とくらべて日本の労働生産性はひじょうに高いことに加え、この四、五年で、さらに生産性が上昇しているために、「国際競争力を考えても、全体としては二%程度の賃上げの余地はある」と指摘し、早めに賃金を引き上げて内需主導型の成長に転換しないならば、日本経済は、急激な円高に見舞われるだろうと警告すていることを紹介している。

 また、別の民間研究所のこういう指摘もある。
 「日本はこれまで、米国を模範にやってきた」「しかしいま、お手本だった米国自体が変わろうとしている。日本も、米国に追随するだけの政策は変更を余儀なくされると思うが、まだギアチェンジができていない」。「欧州のように、公的部門が雇用や社会保障でそこそこ力を発揮するモデルに収斂していくような気がする」(武藤敏郎大和総研理事長・朝日11/7)


【雇用改善、財界も模索…背景にリストラ批判  読売1/7】
 日本経団連など経済3団体の新年祝賀パーティーが6日、開かれ、経営トップから深刻化する日本経済に対する懸念の声が相次いだ。
 個人消費や企業の設備投資は回復する兆しは見えず、雇用問題は深刻化している。このため、日本経団連の御手洗冨士夫会長が、仕事を何人かで分かち合うワークシェアリングの検討に言及するなど、企業経営者は未曽有の不況を乗り切るための方策を懸命に模索し始めている。
 ◆派遣規制を警戒◆
 御手洗会長は同日の記者会見で、経団連、経済同友会、日本商工会議所の経済3団体が協力して雇用問題に取り組む考えを示し、「新たな雇用を生み出すため、イノベーション(事業革新)により高付加価値の製品を生み出したり、新しいサービスを作りたい」と述べた。岡村正・日商会頭も記者会見で「環境関連の分野がポイント」と指摘した。
 厚生労働省の調査によると、3月までに失職する非正規労働者は約8万5000人に上り、リストラは正社員にも広がりつつある。御手洗発言は、深刻化する雇用問題に対する社会的な批判をかわすため、経済界として具体策に乗り出す必要があるとの認識を示したものと言える。
 さらに、企業経営者には、舛添厚労相らが製造業への人材派遣を見直す必要があると述べるなど、与野党双方に規制強化の動きが広がりつつあることへの警戒感も広がっている。
 岡村会頭は、「働き手にとって多様な働き方を選択でき、企業にとっては(生産が落ち込んだ)閑散期に(従業員の)調整ができる」と製造業への人材派遣の利点を強調している。企業経営者には、規制が強化されれば、需要に応じて、従業員を柔軟に増やしたり、減らすことが難しくなり、企業の国際競争力が弱まるとの懸念が根強い。また、海外に生産拠点を移すメーカーが増えて、かえって雇用環境を悪化させるとの意見も多い。今後、企業は、政府と連携して失業者の再就職を支援するなどの取り組みを強化する必要がある。
 ◆個人消費◆
 低迷する個人消費については、「半年以上は厳しい」(ローソンの新浪剛史社長)「08年度の携帯端末の販売台数は下方修正せざるを得ない」(NTTドコモの山田隆持社長)など悲観的な見方が相次いだ。
 JR東日本の大塚陸毅会長は「景気回復のきっかけが出てこないと、個人の財布のヒモは緩まない」と指摘した。全日本空輸の大橋洋治会長は「個人消費の低迷は、将来への不安が原因で、社会保障制度改革など、国を挙げた取り組みが必要」と政府に対して注文をつけた。
 ◆設備投資◆
 「設備投資が07年度の水準に戻るのは2010年以降だ」(東芝の西田厚聡社長)「環境や安全への投資は継続的に行うが、(在庫が増えているため)生産能力を増強する投資は控える」(日産自動車の志賀俊之最高執行責任者)と慎重だ。一方で、「企業のIT投資は競争力の維持に必要で09年度もそれほど悪化しない」(NECの矢野薫社長)「3年後には発展途上国を中心に鉄鋼需要が伸びる」(新日本製鉄の三村明夫会長)と中期的には回復に向かうとの楽観的な見方も出ていた。
 ◆株・為替◆
 株価や為替の見通しは、「オバマ米次期政権の景気対策の(市場の)評価が悪化すると、3~5月に円高・株安が進む」(第一生命保険の森田富治郎会長)「欧米の景気が回復し、(大規模な公共投資を決めた)中国の内需拡大が進めば、年末にかけて1万1000円ぐらいまで回復」(損害保険ジャパンの佐藤正敏社長)など、海外経済の動向次第で、国内株価や円相場が大きな影響を受けると見ている経営者が多かった。
 また、松井証券の松井道夫社長は、「株価(の水準を予測する)以前に(投資家の投資姿勢が慎重で)市場が(十分に)機能しておらず、当面、(日経平均株価は)5000円にもなるし、1万2000円にもなるだろう」と予測した。

【ワークシェアで雇用維持、経団連会長「一つの選択肢」読売1/7】  日本経団連の御手洗冨士夫会長(キヤノン会長)は6日の記者会見で、深刻化する雇用問題に対応するため、「ワークシェアリングも一つの選択肢で、そういう選択をする企業があってもいい」との考え方を示した。  御手洗会長は、同日の経済界の新年祝賀パーティーの冒頭あいさつでも「企業が、緊急的に時間外労働や所定労働時間を短くして、(非正規労働者らの)雇用を守るという選択肢を検討することもあり得る」と述べた。  ワークシェアリングは、2002年の不況期に、政府と日本経団連、連合が進めることで合意した。その後、景気が持ち直したため、企業で導入する動きは広がらなかった経緯がある。  また、経済同友会の桜井正光代表幹事(リコー会長)は同日の記者会見で、自民党などから企業の「派遣切り」を防ぐため、製造業への人材派遣の禁止を求める声が出ていることに、「行き過ぎ」と反発した。 (2009年1月7日02時04分 読売新聞)
【登録型派遣禁止が有力 民主、製造業規制に転換 1/8 共同】  民主党は7日、製造業への労働者派遣を禁止する方向で検討に入った。派遣労働の中でも特に不安定な、派遣会社に登録して仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ「登録型派遣」の禁止を同党の労働者派遣法改正案に盛り込む案が有力となっている。小沢一郎代表が野党共闘を優先し、従来の慎重姿勢を転換した。  河村建夫官房長官は同日の記者会見で「労働者の不利益になってはいけない」と禁止に慎重な考えを示したが、政府部内でも舛添要一厚生労働相が見直しの必要性に言及し、日本経団連の御手洗冨士夫会長も法改正の検討に応じる意向を表明している。民主党の方針転換は今後の法改正議論に影響を与えそうだ。  鳩山由紀夫幹事長は同日の「次の内閣」会合で「ほかの野党に理解してもらえる状況をつくってほしい」と述べ、共産、社民、国民新3党が主張する全面的な禁止を含めた検討を要請した。  ただ、派遣会社の正社員になり企業に派遣される「常用型」を含めた全面禁止には、党内でも大企業労組出身議員を中心に「かえって失業者が大量発生する」と慎重意見が強く、実現は難しい状況だ。  厚生労働省の調査では、2007年6月時点で国内製造業の派遣労働者は約46万人。このうち登録型は約17万人。  民主党の直嶋正行政調会長は記者会見で「派遣規制で雇用の現場を混乱させてはいけない」と強調。党内では(1)派遣禁止に踏み切る場合は一定の猶予期間を設ける(2)人件費増加が中小企業の経営を圧迫しないよう支援策を講じる-などの案が浮上している。  派遣法改正に併せ、非正規労働者の雇用安定や失業時に最低限の生活を確保する雇用保険制度見直しなどセーフティーネット拡充のための法案提出も検討する。
【製造業派遣 禁止に踏み切る時だ 中日1/7】  “使い捨て労働”と批判が強い労働者派遣制度で、製造業への派遣を禁止すべきだとの声が強まっている。最近の派遣切りは常軌を逸している。政府は禁止に向けた法改正に取り組むべきだ。  東京都内で六日開かれた経済三団体の合同新年会。あいさつに立った日本経団連の御手洗冨士夫会長は雇用問題に触れ「官民挙げて雇用の安定を図るべきだ」と淡々と語った。  その前日、首都東京のど真ん中の日比谷公園では年末に派遣切りされた労働者ら約五百人が集まり「年越し派遣村」の解散集会と、国会への請願行動が行われた。  解雇する側とされる側のギャップは大きい。雇用・福祉の安全網の再構築と中長期的に非正規労働者を減らす課題は残ったままだ。  自動車や電機産業などでの最近の派遣社員や期間従業員の解雇ラッシュは目に余るものがある。経費節減や役員報酬カットなど自助努力もしない段階から派遣切りでは、国民の理解は得られまい。  舛添要一厚生労働相が個人的意見としながらも「製造業にまで派遣労働を適用するのはいかがなものか」と語ったのは当然だ。  もともと労働者供給事業は職業安定法で原則禁止されてきたが、労働者派遣法が一九八五年に制定されると派遣は急拡大した。  二〇〇四年の改正では製造業への派遣も解禁された。労働者の働き方の多様化に対処するとのうたい文句だったが、実態は企業側の労働コスト削減と手軽な雇用調整手段という使い勝手の良い労働力提供システムとなってきた。  派遣労働者は労働力調査によると〇七年で約百三十三万人。厚労省調査では〇七年度に派遣労働者として働いた人は約三百八十四万人。そして製造業派遣は約五十万人とされる。禁止する場合には受け皿づくりが必要だろう。  今国会では継続審議となっていた労働者派遣法改正案が審議される予定だ。日雇い派遣の原則禁止などを盛り込んだものだが、この際、与野党間で協議して法案の修正を検討すべきである。  経済同友会などは製造業派遣の禁止に対して国際競争力の維持が困難になると強く反対する構えだ。禁止すれば海外移転が進み失業者は増えるとも指摘する。  大事なことは経営者の姿勢だ。ある大手電機首脳は「日本企業の強さは人材にある。経営者はぎりぎりまで雇用を守るべきだ」と安易な解雇を戒めている。
【主張 製造業派遣 規制強化は慎重な論議を 産経1/8】  製造業派遣の是非をめぐる議論が活発になっている。景気悪化に伴って製造業での派遣切りが相次ぐなど雇用情勢が急激に悪化したためだ。  しかし、製造業派遣は労使双方にとって都合がよい柔軟な雇用制度として始まったはずだ。政府、経済界、労働界は結論を急ぐことなく、慎重に議論してほしい。  製造業派遣見直しの議論は、舛添要一厚生労働相が記者会見で「製造業まで派遣労働を適用するのはいかがなものか」と発言したことで急浮上した。これに対し、公明党が賛意を示し、民主党など野党も製造業への派遣規制を検討し始めた。一方、麻生太郎首相や自民党は慎重な姿勢を示し、経済界も反発している。  製造業への派遣労働が解禁されたのは平成16年である。それまで労働者派遣法はプログラマーや通訳など専門的な業種に派遣を限定していた。規制緩和は、国際競争の激化でコスト削減を求められた企業側の事情が背景にある。企業は短い納期で多品種少量生産を要求されるようになった。ただ、これは労働者側にも雇用拡大という形でプラスになった。ここ数年の失業率は4%台と低い水準だ。  それなのに、非正規雇用者の失業が拡大したから、製造業派遣を禁止すべきだというのは乱暴すぎるだろう。派遣労働者を雇えなくなれば、企業は直接雇用に頼らざるを得なくなる。それは、人件費の増加を招くため、企業側はかえって雇用を減らす方向に動く可能性が懸念される。  また、柔軟な雇用調整ができなくなれば、日本企業は人件費の安い中国や東南アジアなどに生産をシフトすることも考えられる。それは、国内全体の雇用を減らし、失業率の上昇を招きかねない。  製造業をめぐる喫緊の課題は、雇用の維持である。それを労使双方が認識した上で、正社員と非正規社員が一緒に仕事を分かち合うワークシェアリングを含め、さまざまな工夫を凝らしてほしい。  今国会では日雇い派遣を原則禁止する労働者派遣法改正案が審議される。これに製造業派遣規制が加わるかどうかで労使が受ける影響は大きく変わってくる。  労働者に占める非正規比率が3分の1に拡大し、年金や社会保障とも密接にかかわる大きな社会問題であるのは確かだ。雇用をめぐるルール作りだからこそ、拙速になってはなるまい。
【社説 雇用激震に備え短期・中長期の対策急げ 日経1/8 】  景気失速の影響で、今年は雇用情勢の一段の悪化が避けられない情勢だ。昨年11月の完全失業率は3.9%と極めて深刻という状況には至っていない。だが鉱工業生産の急激な落ち込みなどから判断すると年央にかけ失業者が増える恐れは強い。  まさに雇用激震の年になる。それに備えて国や地方自治体、また経営者と労組団体は総力を挙げて対策を考え、実行しなければならない。

○派遣規制では解決せぬ
 昨秋以降に目立ってきた派遣など非正規社員の失業問題に対する短期の対応策と、新しい雇用慣行・制度を整える中長期の対応策を組み合わせて実効性を高めることが必要だ。
 景気の落ち込みの影響が強く出たのが電機、自動車など輸出型の製造業で働く派遣社員や期間工だ。雇用調整のしわ寄せが非正規社員に集中しているという見方が強まり派遣事業への規制強化が検討され始めた。
 年明け後、舛添要一厚生労働相が将来は製造業への派遣を制限する考えを表明した。民主党など野党4党も製造業派遣の規制を盛り込んだ法改正案を今国会に出すという。
 製造業への労働者の派遣事業が解禁された2004年以降、各地の製造現場では直接雇用の期間工などを派遣に置き換える動きが広がった。舛添氏の考え方、野党の案ともに細部は不明だが、04年以前の状態に戻すことを狙っているようだ。
 この規制強化は労働市場を不安定にする副作用がある。工場側にとって派遣社員は直接雇用の期間工を雇うのに比べ社会保険手続きなどを派遣会社に任せられる利点がある。働く側からみると派遣制度がないのと比べ雇われやすい。また、すぐに仕事に就けるなどの理由で自ら派遣での就労を希望する人も増えている。そうしたことを考えると多様な雇用形態を残しておくのが望ましい。
 日雇い派遣を原則禁止するために政府が国会に出し継続審議になった法改正案も問題が多い。派遣失業者にとって、今のようなときこそ1日単位で仕事を見付けられる日雇い派遣はありがたいものではないか。
 規制強化に走るのは賢いやり方ではない。国が真っ先に取り組むべきなのは、財政資金や雇用保険に積み立てたお金をうまく使い、緊急避難的に仕事を提供したり失業者が次の職場を遅滞なく見付けられるよう職業訓練をしたりすることだ。
 政府・与党は昨年末、3年間で総額2兆円規模の雇用対策を決めた。その裏付けとなる今年度の第2次補正予算案などを早く成立させなければならない。情勢を冷静に見極め必要なら追加対策も検討すべきだ。
 即効性が高いのは公共事業の前倒し執行だ。1990年代に失業対策事業として公共投資を大盤振る舞いしたのと違い、今は使えるお金が限られる。各地域の経済活性化につながる道路の整備などを厳選して事業化を急いでほしい。首都圏では羽田、成田空港への時間距離の短縮に役立つ交通網などが対象になる。
 厚労省は雇用保険の加入条件を、雇用見込み1年以上から半年以上に広げる法改正案を準備している。これも早く成立、施行させる必要があるが、非正規社員の安全網をより強固にするために、その条件をさらに緩和することも検討課題になろう。
 慢性的な人手不足に悩む高齢者介護や保育、また農業や森林管理などの分野に製造業から人を円滑に移すために、職業訓練を充実させる必要もある。雇用保険の積立金はそのためにあるが、「私のしごと館」で悪名が高まった雇用・能力開発機構に委ねるのは効率性や効果の観点から望ましくない。訓練の場は民間が主体であるべきだ。訓練を受ける人に直接、補助を出すバウチャー(利用券)制度も導入してほしい。

○ワークシェアも選択肢
 1人あたりの労働時間を縮めて仕事を分け合うワークシェアリングができる環境を政労使が整えることも課題だ。企業・業種によっては有効な選択肢になる。正規社員の待遇が悪くなっても、非正規社員を含めた雇用維持のためにはやむを得ない。
 中長期対策の柱は、流動性が高い真の労働市場を育てることだ。職業訓練の充実や学校教育の改革によって誰もが手に職を持つようになれば、一時的に仕事からあぶれても苦労せずに次の仕事に就く機会が広がる。そうした基盤を整えることで、望まないのに生涯を非正規社員として過ごす人を減らせるはずだ。
 雇用の流動性を高めるには正規、非正規社員の間の均等待遇の確立が求められる。企業が社員をどれだけ解雇しにくいかを経済協力開発機構が指数化したところ、日本は正規社員が手厚く守られている半面、非正規社員の保護の度合いは著しく低いという結果が出た。同一労働・同一賃金の原則とともに、この格差緩和も考えなければならない。どちらかといえば正規社員の既得権維持に熱心な連合に意識改革を望みたい。


【経済時評 「国際競争力」論の落とし穴  赤旗】
 日本の財界が好んで使うキーワードに「国際競争力」という用語があります。
 財界は、「国際競争力のために」ということを、いわば「錦の御旗」のようにかかげて、しゃにむに賃金を切り下げたり、法人実効税率の引き下げを要求したりしています。
 財界の言う「国際競争力」とは何か。その主張にはどんな理論的根拠があるのか。
○ファジーで定義されにくい「国際競争力」
 一般に、「国際競争力」といっても、国として、企業として、個別の製品としてなど、さまざまなレベルがあります。
 国レベルの場合、たとえばスイスの国際経営開発研究所(IMD)が、各国の国際競争力ランキングを発表しています。それによると、日本は九〇年代初頭まではトップでしたが、その後、〇二年に二十七位、〇六年に十六位、〇七年には二十四位に下がっています。
 いったいどのような方法で国の国際競争力をランク付けしているのか。IMDでは、各国の三百二十三項目の統計と聞き取り調査の結果を数値化し、それを集計して順位をつけるとしています。三百二十三項目のなかには、賃金や労働時間とともに、男女差別や環境汚染などの項目も含まれています。
 しかし、こうした質的に種々雑多な要素を単純に数値化して集計することには無理があります。個々の項目の選択、数値的評価、それらの集計など、すべての段階で、恣意(しい)的な判断が入ってくるからです。
 もともと「国際競争力」という用語自体、ファジー(あいまい)な概念です。「国際競争に打ち勝つ力」などと言い換えても、その“力”の内実が何なのか、簡単には定義されにくいからです。
○「国際競争力」強く賃金水準も高い
 財界が「国際競争力」という場合は、もっぱら個別の産業や企業、製品のレベルの競争力を指しています。しかも、賃金なら賃金だけ、法人税率なら法人税率だけをとりだして、単純に国際比較するという方法です。
 こうした財界流の「国際競争力」の議論は、単純な数値の国際比較になるため、いかにも客観的な根拠にもとづくように見えます。たとえば「中国やアジア諸国に比べると、日本の賃金水準は高すぎる。国際競争力のために、賃下げが必要だ」などという論法です。
 しかし、ある製品の競争力を計る場合、賃金はその重要な要素ですが、ほかにも製品の品質、労働生産性、為替レートなど、競争力を規定するさまざまな要素があります。
 たとえば、労働生産性が四倍だったら、賃金が二倍でも、単位あたりの労働コストは二分の一になります。さらに、労働生産性は、機械設備の技術的条件、労働者の熟練度、労働の強度など、さまざまな要素に規定されており、これらの要素すべてが「国際競争力」の内実を複合的に構成しています。
 「国際競争力」と労働生産性の関連については、日本経済新聞の経済教室欄に、注目すべき論文が掲載されました。根津利三郎氏(富士通総研専務)の論文「十分ある賃上げ余地」です(「日経」〇七年三月二十六日付)。
 根津氏は、「『厳しい国際競争に勝つためには、賃金は抑制すべきだ』という議論は誤りだ」と明快に主張します。その根拠は、近隣のアジア諸国とくらべて日本の労働生産性はひじょうに高いことに加え、この四、五年で、さらに生産性が上昇しているために、「国際競争力を考えても、全体としては二%程度の賃上げの余地はある」としています。そして、早めに賃金を引き上げて内需主導型の成長に転換しないならば、日本経済は、急激な円高に見舞われるだろうと警告しています。
 根津氏の賃金引き上げ論は、かねてより財界が主張してきた「生産性基準原理賃金」論の枠組みを前提としており、われわれの賃金論の立場とは異なります。しかし、異常な「国際競争力=賃金抑制」論は、財界自身の賃金論の立場からみても、理論的に成り立たないことを示しています。
○異常な賃金抑制は、「労働力の再生産」の危機
 財界の「国際競争力論」の特徴は、IMDの三百二十三項目集計方式とは正反対に、ある単一の項目(賃金など)だけをとりだして「国際競争力」を論ずるという方法そのものにあります。これは、「国際競争力」の内実が定義されにくいことを逆手にとった、きわめて意図的で、世論誘導的な方法です。
 現実の経済では、さまざまな要因が連関し、相互作用のなかで変動しています。「国際競争力」をかかげて賃金だけをとりだして切り下げ続けるならば、短期的には企業利潤を増大させる効果があったとしても、長期的にみれば、「労働力の再生産」の条件そのものを掘り崩して、将来の労働生産性の低下をもたらすことになるでしょう。
 現実に、日本では、労働者の賃金と雇用、国民の暮らしを犠牲にして、一握りの大企業だけが大もうけをするという異常な成長方式が続き、そのために、貧困と格差が拡大し、若者のワーキングプアや少子化問題など、「労働力の再生産」の危機が進行しつつあります。これは財界の「国際競争力」論にとって予期せざる落とし穴ともいうべき事態です。
 最賃制の改善、労働法制の是正、社会保障制度の拡充など、雇用と労働条件の底上げをおこない、高い価値をもった労働力の安定した再生産をめざすことこそ、労働生産性の上昇をもたらし、「国際競争力」も強めることができるはずです。(友寄英隆)

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