国際学力調査 「楽しい、好きを増やそう」と各紙社説
小学4年と中学2年を対象にした07年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の結果について、各紙が一斉に社説を書いているが、めずらしくというか、かなり共通し課題認識となっている。
点数に一喜一憂するよりも、「勉強が楽しい」「日常生活に役立つ」という学び続ける力となる根幹の部分での低下に警鐘をならし、ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏の言葉が多数引用されている。
国際学力調査―魅力ある授業がかぎだ 朝日
国際学力テスト 理数をもっと好きにさせたい・読売社説
【主張】国際学力調査 まだ「トップ」と胸張れず 産経
国際学力比較 点や順位で一喜一憂やめよう 毎日
数学と理科 「楽しい」を増やそう 中日新聞
「本来みんなが持っている好奇心が選択式テストの受験体制ですさんでいる。教育汚染だ」(朝日)
「若者が科学に取り組む原動力は、偉大な科学者に対するあこがれや好奇心だ」(読売)
「若者が面白いと興味を持つ『種』を広くまくことが重要だ」(中日新聞)
また、小林誠さんの「子供は体験から知識を得ることが大切」との話を紹介している。
産経も益川氏にふれて、「父親から理科の知識や楽しさを教わったエピソードを披露した。幼いころから学問への興味や関心を育てる環境づくりを家庭でも考えたい」としている。
各紙とも授業改善をとりあげているが、授業の改善には、先進国ではありえない40人数学級とか、過労死ラインを超える教師の多忙化の解消が不可欠だ。教員定数の削減を義務づけている行革推進法を凍結、06年の骨太方針の撤回が求められる。
同時に、意欲や関心の低下は、先日の青少年白書が示したような長時間労働による家族、特に父親との関係の希薄さ、内定取り消しや派遣切りのような若者を使い捨てる社会の姿、そして子どもの貧困への無策など、子供たちのこの国に対する警告であると思う。
ちなみに国際学力調査にかかわって05年に発表された佐藤学氏、岩川直樹氏の論文の私の備忘録
「学力と競争-PISA報告 05.10」
「gakuryoku_to_kyouso.doc」をダウンロード
【国際学力調査―魅力ある授業がかぎだ 朝日】
各国の小学4年と中学2年を対象に昨年実施された国際数学・理科教育動向調査の結果が公表された。
いずれの科目も順位は前回、03年並みの3~5位。平均得点は、どの科目でも前回と同じかやや上回った。
03年の調査の結果は、それ以前より落ち込んだ。同じ年の経済協力開発機構(OECD)の調査でも低落傾向がみられたことから、日本の子どもの学力が低下したと騒がれた。
文部科学省は今回、「学力低下に歯止めがかかった」との見方を示した。たしかに数字は前回をやや上回っている。しかし、この直前に実施されたOECD調査では、科学的、数学的な応用力でいずれも順位を下げている。ほっとするのは早計だろう。
それに、順位や得点の多少の上下に一喜一憂するよりも、もっと気がかりなことがある。日本の子どもたちの勉強への意欲の乏しさである。特に中学生で「勉強は楽しい」と答えた割合が最低レベルだったのは深刻だ。
今年のノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏の言葉を思い起こしたい。
「本来みんなが持っている好奇心が選択式テストの受験体制ですさんでいる。教育汚染だ」
ではどうすればいいのか。
何よりも授業の改善だろう。OECD調査では、理科の授業で身近な疑問に応えるような教え方をしてもらっているという割合が最低レベルだった。
昔とは違って、テレビゲームや携帯電話など教室の外には興味をそそるものがあふれている。今の子どもの環境や生活に即して、いかに好奇心や疑問の芽を引き出して育てるか。「受けたい授業」を工夫しなければいけない。
だが今の先生は、事務や生活指導など授業以外のことでも忙しい。先生の尻をたたくだけでは解決しない。
国立教育政策研究所などが中学の理科教員を対象に今年実施した実態調査から、現場の悩みが浮かび上がっている。工夫をこらした授業は徐々に広がってはいる。ただ観察や実験のための時間が足りないという。優れた教材や指導法についての情報を求める声も、若い教員から強く上がっている。
そんな訴えに応えたい。教師の雑用を極力減らし、教材や指導法の研究に力を注げる体制を整える。優れた授業の情報を共有する。そうした条件整備には今すぐに取り組むべきだ。
さらに益川さんが指摘しているように、入試制度の改革も必要だ。知識はあるが、応用力が弱い。未知の問題に向き合った時の解決能力が乏しい。それが日本の子どもたちに対する評価である。その主な原因の一つが暗記中心の入試制度にあることは確かだろう。
文科省がしきりと口にする「生きる力」を育てるために、なすべきことは少なくない。
【国際学力テスト 理数をもっと好きにさせたい・読売社説】 学力を伸ばすには、まず意欲や関心を持たせることが大切だ。 国際教育到達度評価学会が、小学4年生と中学2年生を対象に行った2007年の国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の結果からは、そんな日本の教育課題が浮かぶ。 日本は、小4が算数、理科ともに参加36か国・地域中4位、中2では48か国・地域中、数学5位、理科3位だった。得点も含めて、前回の03年と同レベルで、上位を維持した。 近年、理数系の学力低下が指摘されてきたが、文部科学省は「歯止めがかかった」としている。 だが、果たしてそうなのか。 心配なのは、同時に実施された意識調査における学習意欲の問題だ。小学生は改善の兆しが見られたが、中学生は深刻である。 算数・数学と理科の勉強が「楽しい」と答えた子どもは、小4ではそれぞれ7割と9割だが、中2では4割、6割と、国際平均より約20~30ポイントも低い。 また、理数の学習が「日常生活に役立つ」と思う中2の割合はいずれも最下位レベルで、「希望する大学進学や就職に良い成績が必要」とする回答も少なかった。 こうした傾向が続けば、以前に比べて低下している大学や大学院の理工系学部・課程への進学率は、ますます下がりかねない。 小中学校の理数は、新学習指導要領が来年度から前倒し実施され、授業時間と内容が増える。 まずは、理数をもっと好きにさせることから取り組みたい。教科書の内容を補う教材をどう使ったらよいのかなど、教育現場の努力や工夫が重要になる。 文科省は07年度から、小学校の理科の授業に大学生や退職教師らが「支援員」として参加し、実験の準備をしたり児童の質問に答えたりする事業を始めている。 来年度からは、小中学校の理科授業の中核となる教師を、主に大学の理工系学部で養成する計画もある。豊富な知識に裏づけられた興味深い授業で、子どもの意欲と学力を高めたい。 今年は日本人が相次いでノーベル物理学賞と化学賞を受賞した。物理学賞の益川敏英・京都産業大教授は、「若者が科学に取り組む原動力は、偉大な科学者に対するあこがれや好奇心だ」と話す。 学問や研究を究めた格好のモデルが、日本にもある。資源の乏しい日本では、優れた科学技術が、国づくりに大きな役割を果たしていることも教えたい。
【主張】国際学力調査 まだ「トップ」と胸張れず 産経 小学4年と中学2年を対象にした「国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)」の結果が公表された。 各教科3~5位という成績に文部科学省は「学力低下に歯止めがかかった」とみているが、安心はできない。子供たちの学力に課題はなお多く、指導の工夫など一層の向上策が必要だ。 この調査は、オランダに本部を置く「国際教育到達度評価学会」が4年ごとに実施している。経済協力開発機構(OECD)が高校1年を対象に行う調査(PISA)が応用問題中心なのに対し、基礎的な問題を重視している。 前回の平成16年にこの2つの国際調査結果が相次いで公表され、当時の中山成彬文科相が学力低下を認めて「ゆとり教育の見直し」を表明するきっかけになった。 今回の成績について文科省は「国際的に上位を維持」としているが、実態は横ばいで「トップ」と胸は張れない。文章題や記述式問題の成績が相変わらず悪い。 昨年公表されたPISA調査では、文章や図表などから情報を読み取り、自分の考えを書く読解力問題が苦手で、情報発信や意見表明ができる国際的な人材育成に影を落としている。 シンガポールでは、理工系の人材育成に真剣に取り組んでいる。韓国では、PISA調査で日本が不振だった読解力でも好成績をあげている。 国際学力調査に参加していない中国も、国際数学オリンピックでは上位を独占している。アジアの「ライバル」たちに比べ、日本の勢いは感じられない。理科離れが懸念されているのが現状だ。 意識調査で「自分の成績がいい」と自信を持っている子供や「勉強が楽しい」という割合が中学生で低かったのも心配だ。 ゆとり教育の反省から新しい学習指導要領で授業時間を増やし、教科書の内容も充実させる。おもしろさを教え、意欲を引き出す授業の工夫も欠かせない。 ノーベル賞の記念講演で物理学賞の益川敏英氏は、父親から理科の知識や楽しさを教わったエピソードを披露した。幼いころから学問への興味や関心を育てる環境づくりを家庭でも考えたい。 政府の教育再生懇談会は公立校の学力アップなどを掲げ、再始動する。学力向上の取り組みは続けねばならない。実効性と魅力ある議論と提案を期待する。
【国際学力比較 点や順位で一喜一憂やめよう 毎日】 「学力の低下傾向に歯止めがかかったと考えています」と、文部科学相のコメントは久しぶりに安堵(あんど)感をにじませている。 確かに、小学4年、中学2年を対象にした07年国際数学・理科教育動向調査は、算数・数学、理科の平均得点がわずかながら前回(4年前)以上になり、いずれも参加国中の5位以内に入った。 だが、勉強を楽しんだり、将来の夢に結びつけるような意欲の高さについてはどうだろう。前よりよくなってはいるものの、中学では依然国際レベルに届かない。授業は大体理解はするけれど、あまり心が弾まない--。そんな教室の子供を思うと、点や順位よりこちらの問題がより深刻だ。 調査は、日本の子供たちが小学校から中学へ進むにつれ、勉強嫌いになる傾向を裏づける。「勉強が楽しい」という子供は小4の算数で70%(国際平均80%)だが、中2の数学では40%(同67%)にまで落ちる。 また、「希望の職業に就くために良い成績を取りたい」と思うのは、中2の数学で57%(同82%)、理科で45%(同72%)。数学は前回より10ポイント伸びて改善したが、海外と比べればなお隔たりは大きい。 学校外の時間の使い方を見ると、「宿題をする」「家の手伝いをする」時間は小中いずれも国際平均を下回り、逆に「テレビやビデオを見る」は上回った。 こうした差異の背景には社会の価値観や国情の違いもあるだろう。しかし、高校1年を対象にした06年の経済協力開発機構(OECD)の国際学力テストでも理科学習について「楽しさ」などを調べると参加国中最下位になった。年長になるにつれ意欲低下する傾向は変わらず、それは昨今の大学生の低学力問題にもつながっているはずだ。 学校の努力や取り組みで状況はある程度改まるには違いない。しかし、学習動機や意欲は家庭と社会環境にかかわり、将来の夢や希望が重要な起因となる。家庭や地域の役割と責任の大きさはいうまでもない。 昨年から始まった全国学力テストの市町村や学校の成績公開の是非をめぐり、各地で論議になっている。さまざまな選択があるだろうが、細心の注意と共通認識が必要なのは、数字だけを独り歩きさせる危険だ。 何年生を対象に、何の教科で、どんな内容のテストをし、何の力(学力)を確かめようとしたのか。そうしたことが広く理解されているとは言い難い。すると数字はただ順位をつける手段で、空疎な優劣を焼き付けるだけになりかねない。 子供たちそれぞれの学力については個別の指導が有用であり、テストは本来その補助になるものだ。数値を自己目的化させ、その上下に一喜一憂することはやめ、結果をどう一人一人の指導に結実させるか。そこに立ち戻るべきだ。
【数学と理科 「楽しい」を増やそう 中日新聞】 国際数学・理科教育動向調査で日本の児童生徒の成績は上位を保ったが「勉強が楽しい」という割合は中位以下だった。子供の意欲や探求心を高めていかないと科学立国としての将来は危うい。 この調査は四年に一度行われ、二〇〇七年三月の結果が出た。小学四年は三十六カ国・地域のうちで算数、理科ともに四位、中学二年は四十八カ国・地域のうちで数学は五位、理科は三位だった。 上位を維持しており、文部科学省は「前回調査で指摘された学力の低下傾向に歯止めがかかった」と安堵(あんど)している。 しかし、気がかりは理数学習への意欲や姿勢だ。希望の職業に就くため良い成績を取ろうと思う中学二年は国際的にみて少ない。 職種が細分化されて職業選択の幅が広い先進国では、理数学習への意欲低下がみられる。日本は理数系の仕事が厚遇されていないことも影響しているのだろう。 「勉強が楽しい」という子の割合も、小学四年の理科だけが国際平均を上回ったものの順位は中位どまり。算数や中学二年の数学、理科はいずれも下位だった。 理数の勉強が「楽しくない」ということは学習現場に問題があることを示し、知識詰め込みの教育と関係があるのではないか。 検定制度があるため教科書はどれも中身が似ている。授業でそんな教科書の内容を全部消化しようとして時間が足りなくなれば、実験や観察が削られていく。 入試も、採点作業の関係から知識を問う問題に偏りがちだ。 ゆとり教育の転換から理数の授業時間増がすでに決まった。学習指導要領の範囲を超えた「発展的学習」の教科書への記述は上限枠が廃止されようとしている。 理数は強化されるが、知識の詰め込み偏重のままでは「つまらない」と思う子が増えるだけだ。 十日は益川敏英さん、小林誠さん、下村脩(おさむ)さんが列席して今年のノーベル賞授賞式が行われる。 理科教育について物理学賞の益川さんは「若者が面白いと興味を持つ『種』を広くまくことが重要だ」と話し、小林さんは「子供は体験から知識を得ることが大切」と語っている。二人の言葉は課題を明確に指摘している。 どう、教科書に「種」をまき、授業に「体験」を取り入れるか。「楽しい」「面白い」がなければ、益川さんたちの後に続く研究者は出てこない。子供の探求心を育てる理数教育に転換し、科学技術力が誇れる国を目指したい。
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