財政「健全化」法 狂想曲① 基本編
破たんしたアメリカモデルの「新自由主義」「サプライサイド経済学」にのっとって、小泉、竹中ラインの置きみやげの一つが「財政『健全化』法」・・・ それでいろいろ騒いでいるが、国の責任を除外し、質の違う会計をごっちゃにした根拠のあいまいな「数字」が1人あるきしてるように思う。
高知の大学にゆかりのある平岡、田中先生らの共著「財政政健全化法は、自治体を再建するか」からの備忘録である。①基本編と②公営事業 ③公社、三セクなど個別編でまとめみた。
「財政政健全化法は、自治体を再建するか」
(1)「健全化法」と地方財政改革
07年度決算での算定。08年度決算から適用
実質赤字比率、実質連結赤字比率、実質公債費比率、将来負担比率
◆「健全化」 透明化は前進面だが、注意すべき点
①目的はなにか。「手段としての財政」の目的は住民の幸せが基本。「不名誉な黒字、名誉な赤字」
②判断を行う主体。数値のみで地理的事情、歴史的経過など個別の事情が考慮されない。
国が判断することで、地方自治の精神が弱まる
財政再生計画(災害復旧以外、起債できない)は総務大臣の同意が必要
→ 自主的な再建の道はない。国の強いコントロール
③原因は何か。国の経済対策、三位一体改革などが主因の場合が多い。住民の「自己責任論」には無理がある。
◆きっかけは竹中ビジョン 「21世紀地方分権ビジョン懇談会」06年7月
・基本認識 「行き過ぎた国の関与、地方の財政依存」「地方の累積債務の増大」「人口減少、持続性の劣化」などから、現行制度は、維持不可能。負担増で経済活力が失われる
・5原則 自由と責任、小さな政府、個性の競争、住民の統治、情報公開の徹底
・「再生型破綻法制の整備」~自治体も経営に失敗したら破綻する。その危機感が財政規律をつくる
市場原理主義であるが「債務調整」は当面見送られた
・目的 債務や赤字の縮小をはかり、地方財政の縮小をすすめる。 小さな政府論のツール
◆健全化法の基本的問題点
・自治体を 健全団体、早期健全化段階、再生段階の3つに、4指標で分ける。(
実質赤字比率は従来とほぼ変わらず。実質公債費比率は現行協議制度が厳しい。将来負担比率は「再生」の指標外。
・新たな統制 実質連結赤字比率が、厳しい統制となる。
普通会計、国保事業、介護保険事業、上下水道事業、観光事業、病院事業など公営事業会計を含む。
①財政再生基準に実質公債費比率を適用することの是非
公債費の比率のみに着目。その支出を賄えている、つまり財政の維持可能性という点ではキャッシュフローを確保していてアウトになる可能性。
*長野県王滝村 スキー場の累積赤字18億円、一時職員給与25%カットで乗り切ったが、返済のため公債費率高くなり、自主的な再建の障害となった(縁故債の繰上げ償還でしのいだ)
②連結実質赤字比率 全会計の統合の合理性
・医療、福祉など基礎的サービスと観光振興など選択的サービスを同一視。
→ 前者は、国の財政保障が不十分な場合に赤字に。後者は、経営上の失敗がある。
・施設整備でも、
公営企業は、独立採算を基礎、普通会計は、無償性を基礎
→ 統合することは財政基準の不明確さを生む。事業や会計の違いに基づいた個別の評価の方が合理性
・公営企業会計の実質赤字(資金不足)の評価
「計画赤字」の導入~ 地方債の元利償還金と減価償却費の差額、部分供用などにもとづくもの。
長期事業の投資に対しては、一定、合理的なものだが、個々の公営事業ごとが合理的
③早期是正制度 国による関与など新たな行政的統制 → 地方分権の流れに反する
④早期健全化指標として「将来負担比率」の導入
・全職員の退職金の算入など多岐にわたり複雑で裁量的要素の多い計算。実務上も大変。参考程度が適当
⑤公共サービスや社会資本整備を自治体会計の外部に押しやる
・例 公立病院 独立行政法人、民営化すると「連結実質赤字比率」から外れる
⑥民主的統制の強化になるか
夕張「最高の負担、最低のサービス」の再建ブラン、公立病院ガイドラインを見れば国の行政統制の強化が突出する可能性が高い。また⑤のようになれば、民主的統制が遠ざかる。
◆「健全化」判断基準の分母となる標準財政規模の問題
(基準財政収入額-各種譲与税―交通安全対策特別交付金)×100÷75
+各種譲与税+交通安全対策特別交付金+普通交付税
法人住民税が高く、財政力がある都市自治体では、景気動向で標準財政規模が変動する。
地方の都市では、交付税が大きく影響する。
◆公営企業の「資金不足比率」とは 資金不足額/事業の規模 20%以上で「経営健全化計画」策定の義務
法適用企業… 事業規模 営業収益の額 - 受託工事収益の額
非適用企業… 〃 営業収益に相当する収入額 - 受託工事収益に相当する収入の額
◆「計画赤字」とは
合理的根拠のあるものは「計画赤字」として「資金不足」から控除。
「計画赤字」~解消可能資金不足額 4つの方式で計算
①「累積償還・焼却差額算定方式」 ~ 広く各事業に適用
「計画赤字」額 = 過去の累積元利償還額 - 累積原価償却額
(ただし、企業債の元金償還金への一般会計などからの繰入相当額は除外される)
⇒ 実際の「計画赤字」がどの程度考慮されるかはっきりしない。毎年変動する
病院。病院事業債の償還期限は28年、据え置き5年
減価償却は建物39年(98年以降、定率か定額が選択)、附属施設17~29年、医療機器3~10年、
②減価償却前計上利益による負債解消可能額算定方式
路面電車、鉄道事業。地下鉄事業。下水道事業
~ 平均耐用年数が長期にわたり、償却期間か相当長い事業。長期にわたる事業運営で、支出を償う
・経常損益が赤字でも、減価償却前利益で一定の利益が出ていれば、計画的に赤字が解消できると判断する。
・流動負債額×(償却前経常利益×残余償却年数)÷負債総額(固定負債・借入資本金+流動負債)
③個別計画策定算定方式 下水道事業のみ
過去の施設の部分供与時の資金不足の残っている場合~ その不足額を施設の耐用年数内で解消できる場合。/個別計画期間は 15年
④基礎控除方式 下水道事業のみ
未使用施設に関わる利子相当額を「計画赤字」とするもの。控除できるのは供用開始から15年度目まで
・基礎控除額= 前年度までの各年度の未利用施設分の利子相当額の総計- 〃 利子平準化債発行額の総計
*:計画赤字は、一定の合理性がありつつも、実質赤字が生じていてもカウントしない。何のための連結か?
→ 連結よりも個々の事業の分析と計画の重要性を示すもの。
つまり企業会計による発生主義で、中長期的な経営判断が必要。現金主義会計にあわせた「資金不足」のみを見ること事態が一面的になる
◆地方公営企業、公営事業に与える影響
①地方公営企業 9317事業 数 下水道、水道、介護、病院、宅地造成、観光施設の順
決算規模では、下水道、病院、水道。
企業債発行額 下水道、水道、病院、交通。
職員数では病院、
累積赤字(欠損) 交通、病院 で全体の8割。
不良債務額(資金不足) 交通、病院、下水道で9割
*不良債務「1年以内に現金化できる資産と1年以内に返済しなければならない負債の差」
交通、下水道は、巨額の借入金による長期事業という性格から「計画赤字」がある。
②健全化法は、企業会計の「実質赤字」「公債費」「負債」が、一般会計に及ぶ影響を遮断する方向を推進
・独立採算制の強化 /総務省の公営企業の経営努力などの研究会の指摘
収入の強化(料金値上げ)、運営コスト削減(民間委託の推進)、基準による繰出の実施、事業規模の適正化
→ 繰出し 不十分だった自治体は、改善が求められる。事業計画のチェックも必要
・自治体会計からの追出し 病院、介護
*住民の生活権を守る観点から、一般財源からの繰出しの必要性は否定できない。 国保なども
◆公社、第三セクターに与える影響
債務保証、損失補償をつうじて、公社・第三セクターの債務が、自治体財政本体に影響を与える
・土地開発公社などの負債 ~ 将来負担比率に参入。買取など一財投入は、実質赤字比率を悪化させる。
・第三セクター 金融機関の借入について、自治体が損失補償契約をしている場合
将来負担比率に一定額が算入される
「破綻」した場合。 一財の投入で、実質赤字比率を悪化させる。借入した場合、実質公債費比率が悪化
◆自治体の反応と、国の「財政健全化」促進策
・6割の自治体が独自の給与カット、3割の自治体が、国保、下水道料、手数料の値上げを検討。307自治体が病院の見直し (朝日アンケート 07.12.12)
・補償金免除繰上げ償還と、その条件としての「財政健全化計画」/補償金を上回る計画の策定
07年から3年間で5兆円規模。
公立病院も、不良債務の長期債への転換を認める特例措置。改革プラン策定が条件
★自治体にもとめられているのは、住民と共同したとりくみ
・数字の1人歩きを警戒する
・財政情報を住民と共有する徹底した努力
地方財政状況調査表、公営企業会計の決算統計(繰出し基準と実質繰出し額の両方がわかる)も公開しなくてはならない。
将来負担比率では、将来の退職手当額、公社・第三セクターの関する普通会計の将来負担
公社・第三セクターの債務保証、損失補償のリスクと事業の公共性が議論できる材料
◆問われる自治、公共性と財政民主主義
・健全化法… 自治体の財政の背景にある社会経済的な歴史構造、国の政策の影響を軽視し、画一的な指標で統制。
とくに国による産業政策などによって作り出された共通の財政構造をもっており、国の責任を回避し、自治体のみに「自立」を強制する行政的統制の強化策である。
・指標の複雑さが住民、議会の民主的統制を弱め、官僚統制の強化、地方自治の「空洞化」を生み出しかねない。
⇒ 財政健全化でとわれるべきは「自治」「公共性」「民主主義」である。
(終章)財政健全化法を超えて
◆財政健全化に翻弄とれる自治体
・国による行政統制の強化、自治体への市場化への重圧 ←→ 住民の運動
・「独立採算」「追い出し」が促進される
料金引き上げなど受益者負担強化、徴税強化など独立採算。病院など経営形態の見直しなど「追い出し」
基礎的サービスは受益者負担、選択的サービスの整理
第三セクターなど公的役割を無視した、安易な整理
◆国策としてみた財政健全化法
①一般財源構造に耐えられる地方財政構造に
・公営企業、公社、三セク~ 普通会計の負担の遮断が第一の目的
国の地方財政構造改革にたえられる自治体をつくる。
・地方への財源移転の縮小 ~ 地方財政規模の縮小、自治体リストラ
・普通会計の事業のアウトソーシングの推進
⇒ 合併、道州制への連動
①国の責任が問われていない
エネルギー政策の転換、国有林事業、公共事業の景気対策、リゾート法、初回保障費抑制・医師不足と病院の赤字、
民活法による第三セクターの推進~ 過去の国の施策の影響を度外視して、自治体の財政について議論できない
さらに、三位一体改革
~ その延長としての「財政健全化法」 → そのつけを最終的に住民に押し付けることを肯定できない。
◆財政健全化法を乗り越えるために
①「小さすぎる福祉国家」を転換する
地方財政と地方の危機は、財政指標の強要だけの技術的改革だけでは克服できない。
少子高齢化での税収の伸び悩み、社会的費用の拡大
→ 新自由主義 「小さな政府」の追及。三位一体改革と財政健全化法も同じ目的
このゆきづまった路線の転換が必要
②租税国家の再構築 大企業、大資産家優遇の税制の転換、
先進国で異常に小さな公共部門。北欧の大きな政府が持つ成長力~ 謬論の打破を
③地域と自治体で取り組むこと
・住民・議会と行政の情報共有
財政悪化の原因、歴史的・政策的な背景を結びつけ正確に説明する
住民による学習の参加 ~ 維持可能な地域の理念、ビジョンの明確化
★変革のための3つのポイント
・自治を担う主体の形成 住民自治 栄村~ 社会教育運動の蓄積、実践的な自治の担い手
・地域経済の内発的発展を作り出す運動
しかも、食料、水、空気など日本国民の生命を守る使命の中で位置づけるべきもの
・自治体の連携による財政改革運動の展開
道路特定財源問題の本質~ 道路ではなく自治体の財政問題。一般財権の保障こそが本質
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