「子どもの最貧国・日本」 山野良一 備忘録
この9月に出版された日本、アメリカでのソーシャルワーカーの経験をもつ児童福祉司の山野良一氏の著書「子どもの最貧国・日本 学力・心身・社会におよぶ諸影響」は、生活保護の「水際作戦」の最大の被害者は子どもであり、子どもの貧困を社会がネグレクトしてきたことに対し、私たちの視点を問うている。
以前、浅井春夫氏らの「子どもの貧困」の備忘録も書いたが、児童養護施設と生活保護の関わり、社会的コストの問題賭して各国の取り組みなど教えられるところは多い。最後の「対策」部分について備忘録を作った。
Ⅲ 対策
6章 生活保護と児童養護施設は今?
・世界的には、所得再配分政策で、貧困を抜け出すことが出来いる。日本ではまったく機能してない。
生活保護がなぜ機能してないか。なぜ児童養護施設には、貧困を理由に家族が離れて暮らす例が多いのか
◆児童福祉司と福祉事務所の認識の違い
例 生活保護制での「水際作戦」
母子家庭の申請時に「子供を施設に入れて働いたら」と働きかけも・・・
・福祉事務所~ 不正防止
適切と不適切の境があいまい。稼動能力の活用が言われるが、申請は可能 → 窓口の対応で大きく変わる。
・児童福祉司なら、親子が離れ離れになった影響を考慮。子ども第一に考える
◆米大学教授の見た日本の児童養護施設 /「日本の児童養護――児童養護学への招待」
90年代初め、日本で生活し、研究したオックスフォード大・社会人類学 グッドマン教授の指摘
・子どもの保護の施設の運営が、日本では集団生活が基本 /現在500施設、3万人が生活
小グループの運営でも、10~20人がやっとの状況。家庭とはあまりに違う状況
・1909年のアメリカ・脱施設宣言
欧米では、集団生活を基本とする施設はほとんど存在しない。 米 7-8割が里親、他はグループホーム
かつては「孤児院」が存在。ルーズベルト大統領、「家庭生活も最も大切、緊急やむをえない場合以外だけ」
→ 「できるだけ家庭的な場で生活をすることが必要」と結論
・家庭の貧困という理由だけで、家庭から引き離されるべきでない。
02年12月 社会的養護施設の報告書 家庭的養護の拡充が謳われる。
・職員数の極端な少なさ 76年以降、変わってない。例 6人に1人の職員配置だが、休日など計算すると朝 夕は、10~13人に1人の配置がぎりぎり
精神的に傷ついた子どもが多数、しかも長期にわたる生活。個別の要求に応えるのは困難
→ 同教授は、職員のボランティアによる対応が「燃え尽き問題」を起こしていると指摘。
アメリカでは一対一が当たり前
◆別離のトラウマ
親と離れることで生じる心の傷 表面的に落ち着くのは「絶望的な擬態」/米 ボウルビィ
→ 施設の子は、他者との愛着の問題を持ちやすく、人間関係を築きにくくなっている。
子どもにとっての時間 児童心理分析学者 アンナ・フロイト
幼児たちは、情緒的なニーズが満たされるかどうかで時間を計っている。客観的な時間の観念ではない
大人にとって数日でも、幼児にとっては数年に思えることもありうる。
・深刻に児童虐待などは、強制的に保護が必要・・・ だが、日本のように家庭の経済的理由だけで、児童養護施設に入所しなければならない子どもがまだまだ当たり前のように存在している。
◆児童養護施設のいま
・03年 厚生労働省調査 入所理由
虐待、放任・棄児・養育拒否が4分の1以上。離婚、親の入院、行方不明、親の就労、破産などが4割
「喰うためには働かなくてはならない」と長時間労働から・・・ 特に90年代以降増加
また、虐待の場合も、貧困との関係が強い
→ 児童養護施設では、社会的経済的に低い状態にある家族がほとんどと言える
◆生活保護制度 ~ 水際作戦の最大の被害者は誰か
・最低生活保障~ アメリカ人に理想と映る制度 ~しかし、運用上の問題から子どもの貧困の防ぐことになってない。
・80年代「日本型福祉社会」論 家庭と地域の福祉的役割の重視
児童養護施設の職員が増えなくなった。生活保護でも「123号通知」
・生活保護の「適正化」 ~ 排除されたのは0―19歳の子ども、子どもの親年齢の20-39歳が顕著に減少
注) 1983年 不正受給 780件 0.1%、副田義也氏
・母子家庭の生活保護の利用 85年22.5%、05年13.1%(H19年版生活保護の動向)
~ 母子家庭の貧困率は50%を越え、80年代半ばから母子家庭を含む全体の子どもの貧困率が上昇
★生活保護 制度改革に子どもたちの貧困の視点を
◆児童養護施設と生活保護制度
・生活保護の積極的利用は、児童養護施設にもポジィティブな効果
経済的理由で入所する児童を減らすことができる。
都会では、養護施設は満床状態。全国的にも増加 → 施設の増加で対応か?
・経済的コスト比較 ~ 生活保護が効率的
大都市部の児童養護施設 子ども1人あたり最低月20万円 /現在の職員数で
生活保護 母子2人なら子1人月9万円。しかも世界的に見て高就業率。収入があれば支給額はさらに小さい
・当然、金銭的援助だけでなく、保育、ヘルパー制度、無料のカウンセリングなど総合的サポートが必要
7章 各国の貧困対策を学ぶ
・EU 貧困ラインを60%とし、「社会的排除」の指標を明確にし、数値目標で削減を追求
・イギリス ブレア首相の「子どもの貧困根絶宣言」(山野の命名)
「社会的排除によってムダに使われている子どもの豊かな才能は、子ども自身のムダではなく、国家のムダなのだ。そうしたムダに使われている子どもの才能を社会のなかに解放し国家のために使おう」
「私たちは、貧困な子ども達が社会的な略奪や排除にさらされ続けるという、社会的不平等の連鎖を打ち破らなければならない。ゆえに、子どもたちに社会的に投資することが重要なのだ」
◆貧困な子ども達への社会的投資
・子どもの不平等、貧困を減らすことが、社会全体にしってもその損失(コスト)を削減し、社会全体の富や豊かさに繋がる。
・その原理 子どもの発達と家庭の所得との相関曲線 ~ 傾斜は豊かな層では小さく、貧困な層で大きい
アメリカの幾多の調査、日本のPISAのテスト結果(他要因はコントロールされてないが)
→ 豊かな家庭の所得を再配分して貧困な家庭に移転すると全体として発達の水準が高くなる
・「相対的所得仮定」 平均寿命と所得の関係の応用。社会疫学研究者 イチロー・カワチ
各国の平均寿命と経済的豊かさの関係の調査
途上国では経済が豊かになると平均寿命が延びる
先進国ではそうならない → 先進国ではジニ係数など相対的な所得格差 /アメリカ 寿命が短い
(当ブログ/先進国では、一般的な健康、発達に必要な資材の購入費が高いからではないか)
相対的貧困状態による心理的ストレスの増大
格差の拡大は、犯罪、殺人の発生率が高い、意欲の違いが生まれることに帰着する
→ 結局、高いコストを払わせられる。社会全体の生産性の低下。
*新自由主義政策への強烈な批判!
◆子どもたちの貧困の社会的コスト
ノーベル経済学賞 ソロー チルドレンディフェンス財団が、94年に、コスト計算
~ 貧困が、成人後の賃金をどれだけ減額するか、ひいては労働生産性、市場経済にどれほど損失を与えるか(為替レートは92年)
・子ども時代に一年間貧困 → 生涯賃金で年152万円減額、貧困な子ども1400万人で年22兆円が減額
子ども1人あたり2800ドルあれば貧困ラインから救える。合計約5兆円でできる。
→ 貧困を放置することで、多くのお金をムダつかいしている。
*思っていたより少ない費用で子どもの貧困をなくすことができる
・「収入維持実験」 アメリカで60-70年代、90年代に行われた社会実験調査
通常サービスと、より高いサービスを提供したグループの比較調査での差異
・ミルウォーキー「ニューポープ」プログラム 3年間。終了後も就業率、働く時間、賃金がアップ
子どもの積極的影響が持続。プログラム中の家庭へのサポートによる孤立の排除
◆日本では・・・
・子どもへの支出を抑え、家庭だけに頼る製作が、貧困を増加させた
・最も重要なこと ⇒ 子どもの貧困という厳しい現実を隠し続け、問題にしなかった政府の態度/社会的な無視
・子どもの貧困の撲滅 家庭の所得を増加させる ⇒ 社会的コストを抑え、社会発展の力となる。
「勝ち組」と言われる人も勝ち続けることへの意味のない心理的ストレスとムダな経済的な負担
~ 貧困は「彼ら」の問題でなく「私たち」の問題だ
アメリカ児童保護局のソーシャルワーカー 粟津美穂氏
「格差が改善せず、弱者を置き去りにすることから、いつの時代も、虐待や暴力は始まる。人々が平等で、社会資源や支援の十分あるところで子どもが虐待されることは稀だ」(ディープブルー 虐待を受けた子どもたちの成長と困難の記録)
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