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日弁連・反貧困決議 派遣法抜本改正を!

 日本弁護士連合会が3日、富山市で開かれた人権擁護大会で、「貧困の拡大は、パートや派遣といった非正規労働者の増加が原因」とする決議を満場一致で採択。
「貧困の拡大は非正規労働者の増加が原因」…日弁連が決議/読売
 全国の弁護士がワーキングプアの解決の道筋を確認した意義は大きい。
「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議」
 決議は、ワーキングプアの増加は、「労働分野の規制緩和が推進され、社会保障費の削減が進められたこと」が原因とし、正規雇用の原則・派遣労働の原則禁止、均等待遇(同一労働同一賃金)、最低賃金のアップ、監督体制の強化、社会保障費抑制路線の転換とワーキングプアを視野にいれた制度の充実、国・自治体・企業の社会的責任を提言している。

 派遣労働には働く側のニーズがあると財界などは主張するが、誰も好きこのんで派遣労働をえらんでいるのではない。
 また、同決議は、「1999年の派遣対象業務の自由化等の労働者派遣法の改正により、派遣労働者数は急速に増加」と指摘している。この時、国会で反対したのは日本共産党だけである。

【人権擁護大会宣言・決議集/貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議】  働いても人間らしい生活を営むに足る収入を得られないワーキングプアが急増している。年収200万円以下で働く民間企業の労働者は1000万人を超えた。  ワーキングプア拡大の主たる要因は、構造改革政策の下で、労働分野の規制緩和が推進され、加えて元々脆弱な社会保障制度の下で社会保障費の抑制が進められたことにある。  労働分野では、規制緩和が繰り返され、経費節減のため雇用の調整弁として非正規雇用への置換えが急激に進められた結果、非正規労働者は今や1890万人に及び全雇用労働者の35.5%と過去最高に達した。それとともに、偽装請負、残業代未払い等の違法状態が蔓延し、不安定就労と低賃金労働が広がり、若者を中心に、 特に教育訓練の機会のない労働者が貧困に固定化され、正規労働者においても賃金水準が低下し長時間労働が拡大するという構造が生まれている。人々の暮らしを支えるべき社会保障制度も、自己負担増と給付削減が続く中で十分に機能していない。そのため、いったん収入の低下や失業が生じると社会保障制度によっても救済されず、蓄え、家族、住まい、健康等を次々と喪失し、貧困が世代を超えて拡大再生産されるという「貧困の連鎖」の構造が作られている。  しかし、このような労働と貧困の現状は、本来人々が生まれながらにして享有している人権を侵害するものであり、もはや看過できる状況ではない。  そもそも、個人の尊厳原理に立脚し、幸福追求権について最大の尊重を求めている憲法13条、法の下の平等を定める憲法14条、勤労の権利を保障する憲法27条等に照らせば、すべての人に、公正かつ良好な労働条件を享受しつつ人間らしく働く権利が保障されているというべきであり、憲法25条が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利としての生存権を保障していることを合わせ考慮すれば、国及び地方自治体には、貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の人間らしく働き、かつ生活する権利を実現する責務がある。  そこで、当連合会は、人間らしい労働と生活を実現するため、国・地方自治体・使用者らに対し、以下の諸方策を実施するよう強く求めるものである。

   記
1.国は、非正規雇用の増大に歯止めをかけワーキングプアを解消するために、正規雇用が原則であり、有期雇用を含む非正規雇用は合理的理由がある例外的場合に限定されるべきであるとの観点に立って、労働法制と労働政策を抜本的に見直すべきである。
特に、労働者派遣については、日雇派遣の禁止と派遣料金のマージン率に上限規制を設けることが不可欠であり、派遣対象業務を専門的業務に限定することや登録型派遣の廃止を含む労働者派遣法制の抜本的改正を行うべきである。

2.国は、同一または同等の労働であるにもかかわらず雇用形態の違いによって、賃金等の労働条件に差異が生じないよう、労働契約法を改正して、すべての労働契約における労働条件の均等待遇を立法化し実効的な措置をとるべきである。

3国は、すべての人が人間らしい生活を営むことのできる水準に、最低賃金を大幅に引き上げるよう施策を講ずるべきである。

4国は、偽装請負、残業代未払いなどの違法行為の根絶を図るため、これらを摘発し監督する体制を強化し、使用者に現行労働法規を遵守させるための実効ある措置をとるべきである。

5国及び地方自治体は、社会保障費の抑制方針を改め、ワーキングプア等が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図るとともに、利用しやすく効果の高い職業教育・職業訓練制度を確立させるべきである。

6使用者は、労働関連諸法規を遵守するとともに、雇用するすべての労働者が人間らしく働き生活できるよう、雇用のあり方を見直し社会的責任を果たすべきである。
当連合会は、貧困の拡大に歯止めをかけるためには、労働問題と生活保護等の生活問題に対する一体的取り組みが不可欠であるとの認識に立ち、非正規労働者を始めとするすべての人が、人間らしく働き生活する権利を享受できるようにするため全力を尽くす決意である。
以上のとおり決議する。

2008年(平成20年)10月3日
日本弁護士連合会

提案理由
第1 はじめに
1 貧困の拡大
 日本社会において、貧困が急速に拡大している。
 貯蓄なし世帯は、1990年代後半から急増し、2人以上世帯では約2割、単身世帯では約3割に達した(金融広報中央委員会2007年家計の金融行動に関する世論調査)。国民健康保険の保険料滞納世帯は、2000年の370万世帯から2007年には474万世帯に増加し、1年以上滞納をしていたため、いったん医療費を全額負担することを求められる資格証明書を交付され、保険証を使えない「無保険者」は2000年の9万7000世帯から2007年には34万世帯となり3倍以上に増加した(厚生労働省2006年度国民健康保険(市町村)の財政状況について=速報=)。また、生活保護利用世帯は112万世帯、生活保護利用者は156万人と(厚生労働省福祉行政報告例2008年4月分)、10年間で46万世帯、61万人が増加している。
 貧困が拡大する中で、わが国の自殺者数は、1998年から10年連続で3万人を超え、2007年の約3万3000人のうち7300人が経済苦を理由としていることが明らかになっている(警察庁2008年6月発表)。

2 第49回人権擁護大会決議との連続性
 このように貧困の拡大が深刻化する中で、当連合会は、2006年10月、第49回人権擁護大会(釧路)において正面から貧困問題を取り上げ、生活保護問題を中心に検討し「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を採択したところであるが、今回は、貧困の連鎖を断ち切る次の一歩としてワーキングプアに焦点を当て、ワーキングプア増加の要因である労働法制の問題点及びそれに関連する社会保障制度の問題点につき検討し提言することとした。

第2 ワーキングプアの拡大
1 ワーキングプアとは
 ワーキングプア(働く貧困層)とは、働いても生活保護基準以下の収入しか得られない人を指すとされることが多いが、生活保護基準自体が人間らしい生活を営む水準たり得ているかという問題もあることから、本決議においては「働いているか、働く意思があるにもかかわらず、憲法25条が保障する健康で文化的な最低限度の生活水準を保てない世帯収入しかない人」を指す。

2 拡大するワーキングプア
 ワーキングプア問題は、新しい問題ではない。多くの女性労働者が、パート労働者として不安定かつ低賃金労働に従事してきており、特に、シングルマザーがパート労働によって家計を支える母子家庭のワーキングプア問題は従来から深刻な問題であった。このような従来からのワーキングプア層に加え、特に、1990年代後半以降、ネットカフェ難民の出現などに象徴されるように、新たにワーキングプアに落ち込む人々が急増した。

·(1)年収200万円以下の給与所得者の増加
 年収200万円以下で働く民間企業の労働者は、1995年には793万人であったが、2006年には1000万人を超え1023万人にまで増加した(国税庁2006年分民間給与実態統計調査)。

·(2)生活保護基準以下の勤労世帯の増加
 勤労世帯(就業中のほか、求職中の世帯を含む。)中、生活保護基準以下の生活を営んでいる貧困世帯の数及び割合は、1997年の458万世帯(12.8%)から2007年には675万世帯(19%)に増加している(総務省就業構造基本調査に基づく後藤道夫都留文科大学教授による分析)。その中でも、有業率の高い子育て世帯において、貧困世帯が増加している。

第3 ワーキングプア拡大の要因
 ワーキングプアに落ち込む人々が増大した主たる要因は、市場の障害物や成長を抑制するものを取り除くという「市場中心主義」のもとにおける「規制緩和」と政府活動の見直し(「小さな政府」、「官から民へ」)を進めた日本政府の「構造改革」政策にある。
すなわち、第1に、経済のグローバル化により資本や労働力の国境を越えた移動が活発化し、製造業においては産業空洞化の動きが現れ、日本企業が長期にわたる業績不振に陥る中で、国際競争に打ち勝つことを理由に、労働分野においては「規制緩和」が進められ労働基準が切り下げられた。また、第2に、「小さな政府」への政府活動の見直しにより、社会保障分野では、元々、勤労世帯を支えるセーフティネットが脆弱であったところに追い打ちをかけるように社会保障費の抑制と負担増が進められた。

1 労働規制の緩和と非正規雇用の急増によるワーキングプアの拡大
·(1)労働規制の緩和
 日経連は、1995年、「新時代の『日本的経営』」と題した報告書をまとめ、従来の日本型雇用システムを転換させ、終身雇用の正社員を基幹職に絞り込み、専門・一般職は昇給、退職金、年金がなく有期雇用の非正社員にシフトする雇用改革案を明らかにした。
これと連動するように、1999年、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)が改正され、派遣対象業務が原則自由化され、それまでの26業務に限定していたポジティブリスト方式から、港湾運送、建設、警備、医療関係、製造業務以外につき原則解禁となるネガティブリスト方式へと大きく変容し、さらに2003年改正により、製造業務にまで拡大され、業務によって派遣受入期間が延長された。また、労働基準法では、1年とされていた有期労働の契約期間の上限が、1998年改正に続く2003年改正により原則的上限が3年、特例の上限が5年に緩和された。
このような労働規制の緩和が進む中で、企業は、「必要な時に、必要な技能をもつ労働者を、必要な人数だけ動員できる体制」を構築し、これによって労働コストの削減と固定費の変動費化を目指して、大規模なリストラを断行して正規雇用を減らし、パート、アルバイト、契約社員、派遣・請負労働者といった多様な形態の非正規雇用への置換えを急激に進めていった。

·(2)非正規雇用の急増と低い賃金水準 
 その結果、非正規労働者は、1890万人に及び、全雇用労働者数に占める割合は、1992年の21.6%から今や35.5%と過去最高に達し、正規雇用から非正規雇用への代替は急激に進んだ。
2002年から2007年の5年間に初職に就いた者をみると、実に、43.8%が非正規労働の就業者である(総務省2007年就業構造基本調査)。
増大した非正規労働者の賃金水準は、正規労働者を大きく下回っており、平均現金給与月額で20万9800円と正規労働者の6割で、特別給与を考慮すると5割の水準にとどまる(厚生労働省2007年賃金構造基本統計調査)。

·(3)労働組合の後退
 日本の労働組合は、組合員数が12年連続で減少し、推定組織率も18.2%にまで低下しこの30年間で半減した(厚生労働省2006年労働組合基礎調査報告)。半日以上のストライキを伴う労働争議の件数は1974年の5200件をピークに急減し、2006年にはわずか46件と極端に少なく(厚生労働省2006年労働争議統計調査)、諸外国と比較しても際立っている。
このような労働組合の後退が進む中で、労働規制の緩和、正規雇用の非正規雇用への置換えが推進され、労働組合の存在が歯止めとならなかった。

2 脆弱な社会保障制度と構造改革による社会保障費の抑制
 第2の要因は、勤労世帯を支える制度として元々脆弱であった社会保障制度が、社会保障費の抑制によってなおさら機能不全に陥っていることにある。
すなわち、1970年代初頭以来、日本政府の社会保障理念は、一時的・恒久的な勤労不能世帯を社会保障の主たる対象としていた。高度経済成長が続く中、新卒定期一括正規採用、企業内での技能訓練、長期雇用、年功型賃金という従来の日本型雇用が社会保障機能の一部をいわば肩代わりしていたため、社会保障制度の脆弱さがそれほど顕在化しなかったが、勤労世帯を支える制度としては元々極めて不十分なものであった。
 その上に、構造改革政策は、日本型雇用の解体や規制緩和によって非正規雇用を増大させ、社会保障への需要を大きく増加させながら、他方で、社会保障そのものを大リストラの対象とし、骨太の方針を受けての雇用保険の給付削減、児童扶養手当の縮減等の給付削減や負担増による社会保障費の抑制を進めてきた。
そのため、社会保障の機能不全が一層進み、勤労収入の低下が生活の崩壊に直結するという構造が作られ、ワーキングプア拡大の要因となっている。

第4 ワーキングプアに関連する法制度の問題点
1 労働法制
·(1)有期労働契約の増大と雇用の不安定化
有期契約労働は、派遣労働、契約社員、パート労働などの形態で現れ、労働規制の緩和による非正規労働の拡大とともに増大している。
企業が有期契約労働者を雇用している最大の理由は「人件費の節約のため」である(厚生労働省2005年有期契約労働に関する実態調査結果)。
また、企業は、雇用調整を容易に行う手段として、有期契約労働を増やし、景気の変動等に応じてきわめて簡単に有期契約の更新拒絶(雇止め)を行う。
また、労働者派遣法の潜脱を意図して、請負や委託の形態をとりながら実際には発注者ないし委託者が労働者に指揮命令して働かせるいわゆる偽装請負の場合に、派遣労働者が救済を求めた結果、派遣先企業が短期の有期労働契約の形態をとって一時的に直接雇用し、その後に雇止めをして労働者を排除するという、いわば抜け道として利用される例もある。
このように、有期契約の労働者は常に雇止めの恐怖におびえ使用者に対して萎縮することを余儀なくされており、雇用の不安定の大きな要因となっている。

·(2)派遣労働の増大と雇用の不安定化
 1999年の派遣対象業務の自由化等の労働者派遣法の改正により、派遣労働者数は急速に増加し、1996年の72万人から2006年の321万人へと4.5倍に急増している。派遣会社の年間売上高は、2006年には5兆4189円に達し、1996年の約4.6倍に急成長している(厚生労働省・労働者派遣事業の平成18年度事業報告の集計結果、同平成8年度事業報告の集計結果)。
 その一方で、派遣労働者は、使用者が派遣先と派遣元に分化している間接雇用の構造のもとで、他の労働者と分断され、労働条件、雇用の安定の交渉、労働組合加入等が著しく困難な状況にある。特に、求職者が派遣会社に登録しておき、派遣会社からの条件明示があったときにのみ就業する登録型派遣は、間接雇用と有期雇用が結合しているために一層雇用は不安定であり、労働者は、常に失業の不安を抱える弱い立場におかれている。とりわけ、登録型派遣のうち、仕事がある度に日雇いで働く日雇い派遣は「細切れ雇用」の最たるものであって最も不安定な雇用形態である。
また、労働者派遣法には、手数料の規制が全くないため高額のマージンを取るところもあるほか、「データ装備費」に代表される違法なピンハネ、賃金不払い、長時間・低賃金労働、禁止業務への派遣、労働災害の頻発等、派遣労働者は極めて不安定な状況におかれている。

·(3)フルタイム型非正規労働の増加
 急増する非正規労働者の多くは、フルタイムで働いており、2005年には、非正規雇用全体の42.7%の679万人が週35時間働いている。25歳から34歳では、その比率は女性が50.7%、男性は74%である。仕事の内容も働く時間も正規労働者と同じであるにもかかわらず、低い賃金で働くことを余儀なくされている非正規労働者が多い。

·(4)生計費に基づかない最低賃金制度
 最低賃金は、労働者の生計費等を考慮して定めなければならないとされている(最低賃金法3条)。しかし、従来の日本型雇用のもとで、世帯に正規労働者が存在し、その収入が家計を支えるとみられていたため、最低賃金の算定も家計補助的パートタイム労働者の低賃金をもとに計算されて時給約700円程度とされ、生活保護基準を下回り、実際には生計費原則を充たす水準ではなかった。
しかし、日本型雇用が崩壊し、正規雇用から非正規雇用への置換えが進み、非正規労働の収入のみで家計を支えなければならない人々が増加したことによって、最低賃金制度は、あらためて脆弱さを露呈するに至っている。

·(5)違法行為の蔓延と極めて不十分な監督体制
 派遣業界最大手のグッドウィルが二重派遣行為により刑事処分を受け、本年7月に廃業に追い込まれたことに象徴されるように、労働者派遣法や職業安定法44条(労働者供給事業の禁止)に違反する偽装請負や二重・三重の派遣が横行し、社会問題となっている。経費削減のため社会保険を未加入の扱いのままにするという違法行為も横行し非正規労働者の不安定な状況に拍車をかけている。
全国の労働基準監督署が実施した事業場への臨検監督の結果をみても、労働基準法、労働安全衛生法など関係諸法令の違反率が2000年までは50%台であったが、2006年には67.4%まで増加している(2008年度厚生労働白書)。特に東京労働局管内における違反率は、1998年の53.1%から2007年には74.3%にまで増加し、労働時間、割増賃金、安全基準等の違反が横行し、賃金不払、労働条件の明示に関する違反行為が急激に増加している(東京労働局2007年に実施した定期監督等の実施結果)。
これだけの違法状態が認知されているにもかかわらず、全国の労働基準監督署が適用事業場のうち臨検監督を実施した事業場数を示す監督実施率は低下の一途を辿り、1970年には10.8%だったものが、2001年以降はわずか3%台にとどまっている(2008年度厚生労働白書)。

·(6)正規労働者の賃金低下、長時間労働と健康障害~「もう一つのワーキングプア」
 非正規労働者の増加、特に、低賃金で働くフルタイム型非正規労働者の増加は、正規労働者の賃金水準を低下させ、また、正規労働者の働き方に過大な負担を及ぼしている。週60時間以上の労働をする正規労働者の割合は15.6%にまで増加し(総務省2007年就業構造基本調査結果)、長時間の過重労働等によるストレスが増大した結果、精神疾患や過労死等事案の労災補償請求件数が増加している。
このように、正規労働者の間にも、たとえ収入はあっても、健康を維持しつつ家族や自分のためにどの程度自由に時間を使えるのかという観点からみたとき、「豊かな生活」が保障されているとはいえない、いわば「もう一つのワーキングプア」が広がっており、非正規労働者だけの問題ではない。

2 社会保障制度
·(1)社会保険からの排除
 構造改革や失業者の急増を背景に、2000年以降、雇用保険の給付条件や給付期間が絞り込まれた上、非正規雇用が急増したことによって、雇用保険に加入していない労働者が増加し、現在、失業給付は、失業者中のわずか5人に1人しか受けていない(2007年版厚生労働白書、総務省労働力調査から推計)。また、失業給付を受給できたとしても、低賃金労働が蔓延している上、稼働時の賃金を大きく下回る給付額であるため、健康で文化的な最低限の生活を維持できない場合が少なくない。
また、国民の4割が加入している国民健康保険には、もともと傷病手当と出産手当がない。非正規労働者の相当数は、国民健康保険に加入しており、長期の病気になった場合にも、医療保険による傷病手当がなく、生活が破綻する可能性が高い。

·(2)若年非正規労働者の増大と職業訓練システムの未形成
 15歳から24歳で非在学の若者のうち、非正規雇用・失業・非休職無業の比率は、1994年の約25%から、2007年には約50%に倍増し、少なくとも、約半数もの若者がきちんとした技能訓練を受けていないという状況にあり、貧困の固定化と将来のワーキングプアの増大の要因となっている。

·(3)生活保護制度の機能不全~勤労世帯の排除
生活保護制度は、勤労世帯も無差別平等に利用できるはずであるが、現在の運用は、稼働年齢層であることのみをもって申請をさせないという違法な運用が横行している。
生活保護利用者のうち、1970年に33.6%だった稼働世帯の割合は年々減っていき、1985年には21.3%、2006年は12.7%となっている(2008年版生活保護の動向)。また稼働年齢層の利用者の割合も年々減っている。また自動車保有などの資産保有要件が厳しいなど、勤労世帯には利用しにくく、就労自立しにくい制度となっている。

·(4)ワーキングプアと子どもの貧困
 子育てワーキングプア世帯の増大は、貧困の中で育つ子どもの比率の増大を意味する。日本の子どもの貧困率(その国の平均的世帯所得の半分以下の所得しかない家庭のもとで暮らしている子どもの割合)は14.3%であり、ひとり親家庭では57.9%と高い水準にある(2000年。OECD Social,Employment and Migration Working Papers 51)。母子世帯の場合、シングルマザーの84.5%が稼働しており、うち半数近くが1年未満の短期雇用か派遣社員であり、平均年収は213万円と低く全世帯平均の37.8%の水準でしかない(厚労省2006年度全国母子世帯等調査結果)。子育て世帯を支える社会保障が脆弱であるために、貧困が子どもにまで拡大している。

第5 すべての人が人間らしく働き生活する権利の保障
 このように、雇用のあり方が大きく変わり、賃金コストの切詰めが進み大企業を中心に大幅に利益を拡大する一方で、低賃金・不安定就労が広がり真面目に努力してもワーキングプアに落ち込んでしまう人が増えている今日、あらためて、人間らしく働き、生活することの意義と、その権利としての重要性が確認されなければならない。

1 ILOフィラデルフィア宣言
 国際労働機関の目的に関する宣言(1944年。いわゆるILOフィラデルフィア宣言)は、「労働は商品ではない」ことを根本原則として確認している。労働の担い手は人間であり、労働力は生身の人間に宿り、肉体や人格と切り離すことはできないものである。労働は、市場経済によって生産・再生産され、景気変動などに対応して調整できる商品ではない。労働は、商品のように、使い捨てられ、買い叩かれ、摩滅させられてよいものではない。

2 ディーセントワーク
 ILOは、グローバル化の中で失業、貧困、格差の拡大などが世界的な問題となっていることを背景に、1999年、ディーセントワークの確保を21世紀の最重要目標とした。ディーセントワークとは、人間らしい労働のことである。権利が保障され、十分な収入を得ることができ、適切な社会的保護のある生産的な仕事のことである。また、働く人々と家族が健康で安全な生活を送ることができ、子どもたちが学校に行き、安心した老後を送れる仕事であるとも説明される。わが国においても、ディーセントワークを確保することによって、ワーキングプアをなくすことが緊急の最重要課題である。

3 人間らしく働き生活する権利
 憲法13条は、一人ひとりの人間が人格の担い手として国政のあらゆる場において最大限尊重されなければならないという個人の尊厳原理に立脚し、幸福追求権について最大の尊重を求めている。また、憲法25条が、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障し、この生存権の保障を基本理念として、憲法27条の勤労の権利及び28条の労働基本権は、勤労者に対して人間に値する生存を保障すべきものとする見地に立ち、勤労の権利及び勤労条件を保障し、経済上劣位に立つ勤労者に対して実質的な自由と平等とを確保するための手段として労働基本権を保障している。そして、憲法14条が法の下の平等を定めていること等に照らせば、憲法は、すべての人に、公正かつ良好な労働条件を享受しつつ人間らしく働く権利を保障しているというべきであり、人間に値する生活を保障する憲法25条と相まって、すべての人の人間らしく働き、かつ生活する権利を保障しているというべきである。
 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約も、「すべての者が公正かつ良好な労働条件を享受する権利」(7条)と、「適切な生活水準の権利」(11条)を保障し、日本は同規約を批准しているのであるから、これを実現する法的義務を負っているのである。

第6 当連合会のこれまでの取り組み
 当連合会は、1998年5月22日第49回定期総会において「労働法制の規制緩和に反対し、人間らしく働ける労働条件の整備を求める決議」を採択したのを始めとして、従前から、不安定雇用を促進するものとして、労働法制の規制緩和に反対してきた。
労働者派遣法については、間接雇用を認めて従来の労働法上認められてきた労働者の権利を根底から変更し、常用雇用労働者との代替を促進して、雇用全体が不安定になることから、これに反対し、その後の適用業務の拡大、派遣期間の延長等に際しても、派遣労働者への置換えを急速に進行させ、派遣労働者の無権利状態をさらに拡大するものとして、強く反対し、登録型派遣についても雇用機会が非常に不安定で最も問題が多い形態であることを指摘し、今後派遣労働者の著しい増加が予想され、その結果、いつ仕事を失うかわからない不安定雇用、派遣先社員との賃金・労働条件格差、社会保険等の無権利が進行していると警告してきたところである(1985年3月「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律案」に対する意見、1998年11月20日「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する意見書」、2003年3月14日「職業安定法及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律の一部を改正する法律案」に対する意見書、など)。
 また、パートタイム労働については、雇用の安定化のため、有期雇用は合理的な理由がある場合以外は許されないこと及び均等待遇原則を法律に明記すべきことを求めてきたところである(1989年9月16日「パートタイム労働者の権利保障に関する決議」、2007年3月2日「短時間労働者の雇用管理の改善に関する法律の一部を改正する法律案」についての意見書など)。

第7 提言
 以上を踏まえ、当連合会は、国、地方自治体及び使用者らに対し、以下の施策を実施するよう強く求める。

1 正規雇用を原則とする労働政策及び労働法制の確立
·(1)正規雇用が原則であるべきこと
 国は、正規雇用が原則であり、有期雇用を含む非正規雇用は合理的理由がある例外的場合に限定されるべきであるとの観点に立って、労働法制と労働政策を抜本的に見直すべきである。
労働契約は期間の定めのない契約が原則であるべきであり、有期労働契約は、代替的、短期的(一時的)、季節的な特別な業務の場合など、当該業務の性質上契約期間を定めるにつき、合理的な理由がある場合にしか締結できないことを労働契約法に定めるべきである。

·(2)労働者派遣法制の抜本的改正
ア 日雇い派遣を直ちに禁止すること
 日雇い派遣は、有期雇用と間接雇用が結合し、なおかつ短時間労働である場合も多いことから、極めて不安定な雇用形態である。違法行為も横行しており、特に倉庫、運送、建設など重労働が多く、危険で過酷な労働を強いられることから、健康で頑強な体力ある若い労働者しか耐えられない。また、日雇い派遣労働者の多くが年収200万円以下の低賃金であり、将来に展望をもてないまま貧困を脱せずにいる。
このような日雇い派遣は禁止すべきであり、仮に派遣先に真実一日単位でしかニーズのない仕事が存在するというのであれば、常用型派遣にした上で派遣会社の雇用責任を明確にするか、派遣を禁止して職業紹介(紹介先企業との直接雇用契約)に切り替えるべきである。
日雇い派遣の禁止により職を失い、生活基盤の脆弱ゆえ当座の生活に困窮する人々に対しては、生活保障施策、就労支援を整備し、それを実効的にするための相談事業を構築する必要がある。

イ 派遣料金のマージン率に上限規制を設けること
 派遣事業の場合には教育訓練等独自の労務費を含むという理由で手数料の規制が全くなく、公開の義務もなかったため、派遣会社の中には4~7割ものマージン率をとるところもある。このような不当なピンハネは許されるものではなく、派遣料金と労働者に支払う賃金を派遣労働者に明示させるとともに、マージン率の上限規制を設けるべきである。

ウ 派遣対象業務を専門的業務に限定するポジティブリストに戻すこと
 職業安定法は、事業主が雇用する労働者を他人の指揮命令下で就労させる労働者供給形態を禁止して直接雇用形態こそが原則であることを示しており、また、労働者派遣制度は、臨時的・一時的な労働力の需給調整に関する対策であって、本来、例外的なものであるから、派遣対象業務を専門的業務に限定するポジティブリストに戻すべきである。

エ 登録型派遣の廃止
 登録型派遣は、労働者が予め派遣会社に派遣スタッフとして登録しておき、派遣先からの仕事があるときだけ派遣元会社に雇用されて一定の派遣期間のみ派遣先企業で働くという雇用形態であって、きわめて雇用が不安定であり、安定した賃金収入が得られる見込みもないことから、登録型派遣の廃止を含む労働者派遣法の抜本的改正を行うべきである。

2 均等待遇原則の確立
 憲法14条は、すべての国民が法の下に平等であって、合理性のない差別は許されないことを宣言している。これを受けて、労働基準法3条は、社会的身分等を理由とする賃金その他の差別的取扱いの禁止を定め、同法4条は特に男女同一賃金の原則を定めている。
ILO同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約や、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約7条、ILO民間職業仲介事業所に関する条約においても、同一価値労働についての同一報酬の原則が規定されており、いずれも日本政府は批准している。
 日本においても、国は、同一または同等の労働であるにもかかわらず雇用形態の違いによって、賃金等の労働条件に差異が生じないよう、労働契約法を改正して、すべての労働契約における労働条件の均等待遇を立法化し実効的な措置をとるべきである。

3 最低賃金の大幅な引上げ
 2007年最低賃金法改正により考慮事項として「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護にかかる施策との整合性に配慮するものとする」(同法9条3項)とされた。
主要先進国中でも最低のレベルにある我が国の最低賃金である全国平均687円(2007年)では、月間176時間労働では約12万円にしかならず、就労控除及び税・社会保険料を考慮すれば、単身者の生活保護基準すら大きく下回り、大幅な引上げがなければ現行水準のままでは労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができない。
よって、国は、すべての人が人間らしい生活を営むことのできる水準に、最低賃金を大幅に引き上げるよう施策を講ずるべきである。

4 違法行為の根絶に向けた監督体制の抜本的強化
 わが国の職場では、労働契約法や労働基準法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法や育児介護休業法などの最低限労働者の労働条件や生活権を保護するための法律すら守られない状態が蔓延し拡大しており、労働者の権利侵害は深刻である。よって、国は、違法行為に対する罰則を強化し、労働基準監督署の指導監督のための組織・人員体制を強化するなど、違法行為の摘発し監督する体制を強化し、使用者に現行労働法規を遵守させるためのあらゆる実効ある措置をとるべきである。
また、非正規労働者が違法に国民健康保険に加入させられないように、国民健康保険の窓口で被用者が保険加入手続をとりにきたときに、事情を聴取して適用事業所に該当するか否かを把握して、社会保険事務所と連携して適用事業所に対して違法を許さないという対応をすべきである。

5 社会保障費の抑制方針の見直し、社会保障制度の抜本的改善等
·(1)社会保障費の抑制を止め、ワーキングプアを正面からその対象とするよう社会保障制度の抜本的な改善を図ること
 ワーキングプアが増大する中で、本来、社会保障施策に注力すべきところ、現行の政策はそれに全く逆行し、憲法の保障する健康で文化的な生活の保障を脅かすものであるから、社会保障費の抑制を止めるべきである。
その上で、稼働層をその対象から排除してきた社会保障の理念を大きく転換させ、雇用保険の給付期間・給付額等の大幅改善、国民健康保険における傷病手当制度の創設等の社会保険制度の見直しや生活保護制度を利用しやすくすることなどを含め、抜本的なワーキングプア対策を図るべきである。また、シングルマザーを始め子育て世帯を支える社会保障の脆弱さゆえに、貧困が子どもに拡大していくことのないよう、児童手当の大幅増額、公的保育の維持と保育料減免の拡大、公営低家賃住宅の大量供給等、子育てワーキングプア世帯を支えうる社会保障制度の整備が検討されるべきである。

·(2)利用しやすく効果的な職業訓練・職業教育制度を確立すること
 貧困の固定化等を防止するため、企業外に、利用しやすく効果的な多様な職業訓練・職業教育機関を整備・拡充し、かつ、あわせて訓練・教育中の生活保障制度を整備することが不可欠である。

·(3)以上のとおりであり、国及び地方自治体は、社会保障費の抑制方針を改め、ワーキングプアが社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図るとともに、利用しやすく効果の高い職業教育・職業訓練制度を確立させるべきである。

6 使用者の社会的責任
 国や地方自治体を含むすべての使用者は、労働関連諸法規を遵守して違法行為を行わないのは当然のこととして、安定した雇用の実現、教育訓練の実施、福利厚生の充実など、雇用するすべての労働者が人間らしく生活できるよう、雇用のあり方を見直し社会的責任を果たすべきである。

第8 弁護士及び弁護士会の今後のワーキングプア問題への取組み
 すべての人の人間らしく働き生活する権利を確立することは、人権擁護をその使命とする弁護士に課せられた責務である。しかし、ワーキングプアの問題は、従前から、女性労働者、特に母子家庭に典型的に現れていたにもかかわらず、これまで弁護士及び弁護士会の取り組みは不十分であったといわざるを得ない。
ワーキングプアが増大し貧困が拡大する現状に歯止めをかけるためには、労働問題と生活保護等の生活問題に対する一体的取り組みが不可欠であり、相談や継続的・組織的な援助活動、労働法制・社会保障制に関する教育活動の充実、諸団体との連携等が重要である。そこで、当連合会は、非正規労働者を始めとするすべての人が、人間らしく働き生活する権利を享受できるよう、相談窓口の充実、上記権利の実現を目指す諸団体との協力関係の構築などの取り組みを進めつつ、継続的に、研究・提言・相談・教育支援活動を行い、より多くの弁護士がこの問題に携わることになるよう実践を積み重ね、釧路大会から取組みに引き続き、生活困窮者支援に向けて全力を尽くす決意である。

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