リーマン・ショック
各紙が「リーマンショック」に社説を立てている。「公的資金投入を」の合唱だが、630兆円という住宅債権担保証券に対して、双子の赤字を抱える米国がどこからから資金調達するのか。米国債の乱発か。「米住宅公社へ公的資金投入 新たな崩壊の始まり」で書いたが、それを誰が買い支えるのか、という根本問題がある。
いつかは崩壊する住宅価格の上昇を前提に、焦げ付きの危険が高いローンを「金融工学」で組み込み、「ハイリターン」を確保し、関連の格付け会社が安全を「保証」して「ローリスク」を演出する・・・そうした本当の価値がわからない金融証券を世界中に売りさばいて利益を得る。リスクを分散し他に押し付けようとしたわけだが、結果は社会全体のリスクを拡大し、自らに跳ね返ってきたということではないないか。カジノ資本主義の腐りきった姿をしめしたものだ。日本は米国追随の金融自由化、輸出頼みでない経済への転換が求められていると思う。
米金融不安 公的資金をためらったツケ 読売
リーマンの破綻―危機の連鎖をまず止めよ 朝日
リーマン破綻 米国は危機の連鎖断て 公的資金投入で政治決断を 産経
リーマン破綻 危機の連鎖、米は全力で防げ 毎日 「米国発金融恐慌」防止へ果断な措置を 日経
【米金融不安 公的資金をためらったツケ読売社説】 世界経済の最大の波乱要因だったサブプライムローン問題が、ついに、米国の大手証券の破綻に発展した。 この影響でドルは急落し、株価もニューヨーク市場はじめ、世界各地で暴落した。 これ以上の危機の連鎖を防ぐには、米国と各国の金融・通貨当局の協調が欠かせまい。市場への資金供給や緊急利下げなど、あらゆる政策を動員して、この非常時に対処する必要があろう。 ◆リーマン破綻の衝撃◆ 破綻に追い込まれたのは米証券4位のリーマン・ブラザーズだ。負債総額は6130億ドル(約64兆円)という、米国で過去最大の倒産である。 創業160年近い老舗証券で、なんとか救済策がまとまると思われていただけに、突然の破綻に衝撃が走ったのは当然だ。 サブプライムローン問題で巨額な損失を抱えていることが表面化し、株価が急落していた。官民の協議で救済を模索していたが、結局、身売り先が見つからず、行き詰まった。 米国政府はこの3月、経営危機に陥った米証券5位のベア・スターンズの救済に公的資金を投入した。今月7日には、政府系住宅金融公社への巨額の公的資金投入を決めた。 しかし、今回は、公的資金の投入を拒んだ。安易な救済による財政負担を回避し、金融機関のモラルハザード(企業倫理の欠如)を警戒したとされる。 だが、財政支援がなければ、リーマンを救済する金融機関が現れないことは自明だったろう。 米国政府に、他の選択肢がなかったのか。金融危機の拡大を防ぐには、公的資金の投入をためらうべきではなかった、との指摘もある。今後の政策対応に教訓を残したと言えよう。 一方で、米銀行2位のバンク・オブ・アメリカは、米証券3位のメリルリンチを救済合併すると発表した。当初は、リーマン・ブラザーズの救済に乗り出すと見られていたが、方向転換した。 メリルリンチは、市場で次に危ない証券会社とうわさされており、大手銀行の傘の下に、なりふり構わず逃げ込んだ格好だ。 この結果、世界を牽引した米証券トップ5社のうち、3社が市場から淘汰されたり、買収されるという異常事態につながった。 ◆市場の不安払拭がカギ◆ 問題は、サブプライムローン問題が一向に収束せず、市場に疑心暗鬼が広がっていることだ。米保険最大手AIGの経営不安説まで流れている。 株式市場は大荒れだ。15日のニューヨーク株価は先週末比で500ドル超も値下がりした。東京市場でもパニック的に売りが加速し、下げ幅は600円を超えた。 これを受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)は、欧州中央銀行(ECB)や日銀と連携し、短期金融市場に一斉に資金供給を行った。FRBが16日に利下げに踏み切るとの観測も急浮上した。 世界同時株安に、なんとか歯止めをかけたいと考えてのことだろう。だが、米国の住宅価格の下落に歯止めがかからない限り、金融不安の払拭は難しいのが現実だ。政策の手詰まり感は否めない。 ◆日本にとっても大津波◆ 金融不安が、米国の実体経済を冷え込ませ、景気後退を招く悪循環が現実になりつつある。それが日本を含む世界経済を減速させる恐れも高まっている。 リーマン・ショックは、日本にとって対岸の火事どころか、最大級の津波といえよう。ただでさえ悪化しつつある景気が底割れしないよう、政策運営に細心の注意を払わねばならない。 4~6月期の実質国内総生産(GDP)は、年率換算の成長率が速報のマイナス2・4%からマイナス3・0%に下方修正された。金融市場の混乱で米国をはじめ海外経済が一段と冷え込めば、日本経済への逆風はさらに強まることになる。 こうした状態で、最優先で取り組むべきは、金融市場の不安の沈静化である。 一部の金融機関が資金調達を急いだことで、東京市場で短期金利が上昇した。それに対応して日銀が追加の資金供給に踏み切った。企業経営にとって大敵の金融収縮を防ぐため、日銀は機動的に資金供給を続ける必要があろう。 国内の金融機関が保有するリーマン向け債権は計4000億円に達する。これら債権がどうなるのか、関連損失も含めた影響の把握を急がねばならない。 世界経済の先行き不安から、原油は大幅に値下がりしたが、円高・ドル安の進行で、日本の輸出産業への打撃が懸念される。 中小企業に対する貸し渋りの防止や、雇用確保のための支援など、ショックの痛みを和らげる施策を早急に検討すべきだ。
【リーマンの破綻―危機の連鎖をまず止めよ 朝日】 昨年8月に米国で始まった金融危機は、最も厳しい局面を迎えた。下手をすれば、金融恐慌へのがけっぷちに立ちかねない状況だ。 米国4位の大手証券リーマン・ブラザーズが破綻(はたん)した。同時に3位のメリルリンチが、大手銀行バンク・オブ・アメリカに救済合併されることになった。さらに、経営不振の保険最大手AIGが「次の破綻先」と見られて株が売り込まれており、米国市場は疑心暗鬼に覆われている。 米国の株価急落は世界へ波及した。東京市場を始めアジアや欧州でも大幅安となり、不安が広がった。 こうした動揺が連鎖的にふくらむ事態を防ぐため、まず震源地である米国の金融当局は断固たる措置を取らなければならない。16日には金融政策を決める委員会が開かれるが、金利を引き下げれば市場の不安感を和らげる効果が期待できるだろう。 また、金融市場へ潤沢に資金を供給する必要がある。貸し倒れ不安から金融機関同士の資金取引が滞れば、破綻の将棋倒しの恐れがあるからだ。 とくにリーマンは複雑な証券化商品を大量に扱っているため、どんなルートを通じて不安の連鎖が生じるか予測しにくい。当局には万全の情報収集と素早い対応が求められる。 ■各国の当局は連携を 対応が必要なのは米国にとどまらない。米国での証券化商品の値下がりにより、それに投資していた欧州を始めとする世界の金融機関も傷を負っている。各国の当局と連携を密にしていかなければならない。 日本の金融機関のリーマンに対する融資額はさほどではなく、影響は限定的だとされるが、当局は十二分の態勢で臨んでもらいたい。 当面の不安心理の連鎖を防げたとしても、問題は米国の金融危機がこれで終わるかどうかである。 金融危機の発端は、米国での住宅バブルがはじけ、住宅価格が値下がりして住宅ローンの焦げ付きが大量に発生したことにある。残念ながら市況が下げ止まる気配はまだ見えない。 金融危機はすでに米国の景気を悪化させている。消費が減り、たとえば自動車産業の苦境が深まった。体力の落ちた銀行が貸し渋りを強めて、住宅市況の下落や景気の悪化を進め、それが金融機関の傷を深める……。こうした悪循環が懸念される。 米政府には、再度の減税といった需要刺激策などにより、悪循環を最小限にとどめることが求められる。 ■公的資金ためらうな 米国の金融危機は、10年余り前の日本と似ている。97年11月、リーマンと同じ証券4位の山一証券が自主廃業に追い込まれたときのことである。山一の後には何年もの間、大手銀行の破綻や救済合併が続いた。 この経験を米国へ単純に当てはめることはできないが、証券会社の破綻が銀行へも広がることを、いちばん警戒していかなければならない。 その点で、財務長官がリーマンの公的救済を「一度も考えなかった」と説明したのは気がかりだ。政府系の住宅金融機関2社を最大20兆円もの公的資金で救済すると直前に決めただけに、証券会社の救済へも税金を使うのは許されないと判断したのかもしれない。折悪く大統領選挙の真っ最中で、末期のブッシュ政権は大胆な対策をとりにくい環境にある。 しかし、危機が大手の銀行へも及び、金融システムがマヒしかねない状況に直面した場合には、公的資金を大規模に投入して最悪の状態を防がねばならない。米国には、いまから準備を進めておく責任がある。 世界にとって最大の心配は、金融危機がドル不安へ発展することだ。いまのところそこまでの兆候は見られないが、各国当局は警戒を強め、万が一の場合に備えてほしい。 ■マネー経済は限界に 振り返れば89年の冷戦終結後、世界経済では米国の一強が続いてきた。 初めはIT(情報技術)など力強い技術革新にリードされての成長だったが、しだいにマネーの拡大に依存した経済へ傾いていった。今回の住宅バブルは欧州などへも広がっており、バブルが崩壊した時の傷の深さを改めて見せつけている。 マネー経済が異常に膨張したのは、冷戦終結により始まったグローバル経済の負の部分である。折しも原油市場では、投機マネーが縮小して1バレル100ドル以下へ下がってきた。バブル崩壊を教訓に、マネー依存の経済が終息へ向かうことを期待したい。 他方で、経済のグローバル化にはプラスの面も大きい。途上国や旧東側諸国への投資が拡大して、新興国の急速な経済成長をもたらし、世界経済の柱の一つにまでなった。 21世紀に入って順調に続いてきた世界経済の拡大基調は、いったん終わるだろう。しかし過度の悲観に陥ることなく、光の部分にも着目しつつ、世界経済の安定策を考えたい。 日本にとっても、米国の景気が一段と冷え込めば打撃だ。とはいえ、超低金利と財政赤字のため景気対策の出動余地はきわめて限られている。鍵を握るのは民間の自助努力だが、これを引き出すためにも、来るべき総選挙で政治が明確なビジョンと行動力を回復することが、いよいよ重要になる。
【リーマン破綻 米国は危機の連鎖断て 公的資金投入で政治決断を 産経】 津波のように押し寄せる金融不安は、大手民間金融機関の破綻(はたん)と再編を伴う新しい段階に入ったようだ。金融市場の混乱と経済への打撃を最小限に抑えるため、米政府は破綻の連鎖を止める責任を十分に認識してほしい。 昨夏に始まった米サブプライム問題は、沈静化するどころか一段と深刻化している。 経営難に陥っていた米証券第4位のリーマン・ブラザーズが連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を裁判所に申請し、実質的に破綻した。米欧の大手金融機関との間で身売りや出資受け入れなどの交渉が不調に終わった。同じく経営悪化が表面化していた米第3位のメリルリンチも、米大手銀行バンク・オブ・アメリカによる買収が決まった。 また、米保険最大手のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)は増資と部門売却に向けた再建策について、米政府と米連邦準備制度理事会(FRB)、大手金融機関との間で協議を重ねている。 金融危機の深化は、米政府がリーマンに対する公的資金投入を拒否したことが背景にある。 今年3月に米証券第5位のベアー・スターンズが実質破綻した際には、FRBが最大300億ドル(約3兆1000億円)の特別融資を行った。今月初めの住宅金融最大手2社の経営危機では、世界中の政府や金融機関が、2社の社債を大量に保有していることから、巨額の公的資金を使って救済に出ている。 ≪放置は恐慌の引き金に≫ その違いについて、ポールソン米財務長官は記者会見で、ベアー・スターンズ支援に乗り出したときの状況とは異なっており、リーマンに対する公的救済は「一度も考えなかった」と強調した。 サブプライム問題が収束する気配が見えない中で、常に政府が巨額な公的資金を投入して救済を続ければ、金融機関の経営に対するモラル低下を助長すると懸念したようだ。 米国の他の大手金融機関の中にも資産が劣化して巨額の損失を抱えているところが多い。破綻の連鎖によって米国の金融システムが機能不全に陥れば、米国経済は崩壊し、世界的な恐慌の引き金を引きかねない。 米政府が今回、リーマンの破綻とメリルリンチの救済買収を同時発表したのも、それにより破綻の連鎖は断ち切れると踏んだからかもしれない。 しかし、金融情勢はそれほど甘くはない。リーマン破綻後の世界の金融市場は、ドルと株価の急落で応じた。米財務省やFRB、証券取引委員会(SEC)などが総出でかかわったリーマン支援の協議が不調に終われば、市場が米当局の危機管理の姿勢に疑問を抱くのは当然である。 金融危機の背景には、サブプライム問題の根本原因である住宅価格の下落がある。金融機関は、保有しているサブプライムローンを加工した証券の価値が時間の経過とともに下がって、損失処理とともに資本増強をせまられる悪循環に陥っている。 ポールソン財務長官が、「米国の金融機関は安全かつ健全だ」といくら強調しても、世界中の金融機関や投資家は信用はしまい。疑心暗鬼が広がっているのが実態なのだ。 ≪日欧の対応策にも限界≫ さらに、この問題を厄介なものにしているのは、株価下落やドル安などの市場の反応を招くだけでなく、損失を抱えた銀行が融資を渋り、米国だけでなく世界の実体経済を悪化させる要因になっていることだ。 日本や欧州各国は、今年の成長率見通しを下方修正し、世界経済を支えてきた中国やインド、ブラジルなどの新興国も成長に陰りが出始めた。 米国の金融危機に際して、日欧がやれることは限られている。日本の金融機関は計16億7000万ドル(約1700億円)をリーマンに融資しているが、すでに引当金を積んでいる分もあって、破綻の影響はそれほど大きくない。日銀も金融機関同士の資金の貸借を円滑にするため、大量の資金を市場に供給し、対応している。 これに対して米国の政策はあいまいで後ろ向きだ。市場を安心させる抜本策は金融機関の資本増強にある。米政府には公的資金投入の果敢な政治決断を求めたい。
【リーマン破綻 危機の連鎖、米は全力で防げ 毎日】 米国の住宅バブル崩壊は、ついに老舗の大手証券、リーマン・ブラザーズを倒産に追いやった。同じ大手証券のメリルリンチも、破綻(はたん)こそ免れたが、事実上の身売りを選ばざるを得なかった。米国が世界に誇ってきた金融業の中枢が、崩れ始めたことを象徴する一連の出来事に、米国内だけでなく世界の証券・金融市場が大きく揺さぶられた。 週明けに始まった動揺なので、「メルトダウン・マンデー」などと呼ばれている。しかし、原子力施設の炉心溶解(メルトダウン)のように破綻の連鎖が止まらなくなる事態が起きてしまっては手遅れだ。邦銀もリーマンに計約1700億円を融資しており、今後、日本への直接、間接の影響が心配される。複雑な金融商品を介して、多数の金融機関や投資家、複数の市場が関連し合っているため、予想もしなかったところに大きな打撃が及ぶ恐れもある。金融メルトダウン、世界的大不況へと発展しないよう、米当局にはあらゆる対策を取ってもらいたい。 政府系住宅金融会社、ファニーメイとフレディマックに計20兆円超の公的資金投入枠を用意し、救済に乗り出した米政府が、リーマンには支援の手を差し伸べなかったことには、やむを得ない部分もある。ファニー、フレディは、米政府の保証付きという暗黙の了解のもとで海外の金融機関などから巨額の資金を借りていた。破綻を許せば、信頼を失ったドルの暴落など世界的な大混乱が予想された。住宅市場に与える影響も、甚大過ぎると思われた。 リーマンは米4位の証券会社とはいえ、ファニー、フレディの規模には及ばない。取引相手は金融機関やプロの投資家だ。リスク管理の甘さからきた経営の失敗を、税金で穴埋めすれば将来に重大な禍根を残すとの判断だろう。リーマンを救えば、他の金融機関や、さらには大手自動車メーカーなど一般企業まで次々と救済しなければならなくなる恐れもあった。 しかしながら、今後、連鎖的な破綻や、市場にパニックが広がる恐れが生じれば、自己責任の原則を唱えてばかりもいられない。日本の不良債権問題が深刻化したとき米政府は、「日本発の金融危機を引き起こすな」と政策の総動員を求めた。今の米国は、まさに同じことが求められている。 今回の金融危機では、個別金融機関の経営問題の次元を超え、米国の資本主義がよりどころとしてきた証券ビジネスの根幹、金融業の姿そのものが、崩れ落ちてしまった。金融技術の高度化と世界的な金余りの中で、自信過剰に陥り、リスクの評価という基本中の基本を軽視した結末である。 その代償はバブルに踊った当事国で払うのが筋というものだ。世界経済まで道連れにされるようでは、たまらない。
【「米国発金融恐慌」防止へ果断な措置を 日経】 グリーンスパン前・米連邦準備理事会(FRB)議長が言うように、まさに「50年以上か、100年に1度の事態」が米国で起きつつある。日本が3連休の間に、米国の大手4大証券会社のうち1つが破綻、1つが買収され、米最大の保険会社が経営不安に陥った。 米国の金融危機が止めどなく続けば、世界経済には計り知れないほどの悪影響が及ぶ。米国の金融当局は問題が噴出するごとに応急措置を取るのではなく、大胆な公的資金の活用も含む果断な措置を検討すべきではないか。 救済期待の拡大を防ぐ 経営不安に陥っていた米証券4位のリーマン・ブラザーズが破綻したのは、米政府が救済を拒絶したためだ。今年に入って表面化した米証券、ベアー・スターンズや米住宅公社2社の経営危機で、政府が事実上の救済措置を取ったのとは対照的な判断だ。今回も救済に動けば、「規模が大きい金融機関なら失敗しても救ってもらえる」という甘えがまん延するとの懸念が、米政府の決断の背景にある。 ベアーの経営危機が起きた3月時点と比べると、金融機関が資金繰り難で急につぶれる懸念は薄らいでいる。FRBが証券会社に直接資金を供給する制度を設けたためだ。今回はこの仕組みを強化し、株式など高リスクの有価証券も資金供給の際の担保として受け入れることにした。 こうした手当てをしたうえでの破綻容認だが、リーマンの債権者や取引相手の中には大きな打撃を受けるところが出てくる可能性もある。証券3位のメリルリンチは米銀大手のバンク・オブ・アメリカに救済合併されたが、金融不安の高まりから、ほかの証券会社や銀行の経営不安が新たに表面化する恐れもある。 当面の最大の焦点はすでに経営不安に陥っている米大手保険会社のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の資金確保がどう進むかだ。米国だけでなく、世界中に多くの個人顧客を抱えたAIGが破綻した場合の影響は甚大だ。 今回の米国の金融危機は三洋証券と北海道拓殖銀行の破綻、山一証券の自主廃業が1カ月の間に相次いで起きた1997年11月ごろの日本の金融界の惨状を思い起こさせる。 当時日本は、米国をはじめとした海外諸国から「日本発の世界金融恐慌を起こしかねない」と批判を浴びたが、結局不良債権問題の解決までさらに5、6年を費やしてしまった。米国の金融危機が長引いた場合の世界経済への影響は、当時の日本をはるかに上回る。「米国発の世界金融恐慌」を起こさないよう、米国の金融当局は全力を挙げて危機の解決に取り組むべきだ。 問題の根は、米当局が危機が近づくまで積極的な措置をちゅうちょしてきたことにある。 米財務省は、問題含みの銀行や証券会社に対して増資を促すなど、金融機関に自主的な取り組みを求めてきた。ただ、リーマンの場合は、迅速な対応を怠ったあげく、最後は自力で資本を確保できなくなってしまった。同じような例が相次ぐ可能性もある。 今回の救済拒絶が「最後は政府が助けてくれる」という金融機関の甘えをぬぐう面はあるかもしれないが、民間任せは限界に来ているようにも見える。不良債権の買い取り機関の創設など、問題の処理を先送りせず、政府が前面に出た仕組みづくりも考えるべきだ。 対岸の火事と言えず 日本も対岸の火事と安心してはいられない。 リーマンの大口債権者には日本の金融機関が名を連ねている。金融派生商品(デリバティブ)の取引相手になっている金融機関もたくさんある。同社の破綻が日本の金融市場に混乱をもたらすことがないよう、金融当局は細心の注意を払うべきだ。 また、経営不安が表面化しているAIGは日本子会社を通じて、がん保険などの保険商品を積極的に販売している。同社は経営立て直しへ向けて、民間金融機関から資金を調達しようとしており、米金融当局と連携しつつ、必要ならば側面支援も検討すべきだろう。 個別の金融機関の問題以上に心配なのは、米国の金融危機がもたらす世界経済への悪影響だ。米国では住宅の不振に加え、生産や雇用も悪化しており、米国向けの輸出がさらに打撃を受ける公算が大きい。 日本では、すでに米国発の金融危機の波が金融や不動産業界に及んでいるが、輸出メーカーなどに今後幅広く悪影響が広がる心配もある。 もちろん、心臓部が直撃を受けた米国と異なり、日本経済そのものには短期的に調整が求められる問題があるわけではない。だが、米国発の金融危機が生み出す津波がどんな形で日本経済に及んでくるのかはきめ細かく見ていく必要がある。
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