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平和と貧困の関係に焦点 8.15地方紙社説

 終戦の日に、今日の資本主義の暴走と貧困の拡大、そのこととアメリカでの貧困層に対する軍のリクルートや「戦争が希望」という赤木氏の告発などにふれ、地方紙の社説が、平和と貧困の問題をとりあげている。 
[終戦の日に]平和と平等を問い直す  沖縄タイムス
人間中心主義に帰れ 終戦記念日に考える 中日新聞
 
全国紙の社説にはそうした視点、深みはない。
終戦から63回目の夏―「嫌日」と「嫌中」を越えて 朝日
8月15日 静かな追悼の日としたい 読売
8月15日 日米の絆を確かめたい 産経
終戦記念日 日本独自の国際協力を 内向き志向から抜け出して 毎日
平和の尊さをだれが語り継ぐのか 日経

 全国紙の社説を感想的にまとめれば、読売は、「追悼施設の問題に一日も早く決着」と靖国神社参拝問題が主なテーマ。産経は「中国や北朝鮮などによる(日米)同盟への揺さぶりや、これを弱体化させる動きは封じていかなければならない」と日米同盟の強化が終戦の日の教訓と説いている。逆に、毎日は「対米追随では評価されず、日本の国際的地位も高まらないだろう」と独自外交にふれている。朝日は、日中若者の交流に期待を描き、日経は「高齢化と戦争体験の風化により次の世代へどう語り継ぐのか」と戦争の悲惨さを伝える取り組みにのみ焦点をあてている。 
 

【平和と平等を問い直す  沖縄タイムス】
 月刊誌『論座』(朝日新聞社刊)の二〇〇七年一月号でフリーターの赤木智弘さんはこう書いている。
 戦争は悲惨だ。しかし、その悲惨さは「持つ者が何かを失う」から悲惨なのであって、「何も持っていない」私からすれば、戦争は悲惨でも何でもなく、むしろチャンスとなる―と。
 自分がやりたい仕事に就けず、月給十万円のアルバイトを続ける心境を「希望は、戦争」という刺激的なテーマで書き、論争を巻き起こしたものだ。
 赤木さんはいまの日本に横たわる経済格差を軸に、働きたくても働く場さえない閉塞感を、もし戦争になれば「私たちにも(働く場を得ると同時に認められる)チャンスがある」と書いたのである。
 もちろん、彼が戦争を望んでいるわけではない。ましてや、このような理由で多くの若者が右傾化してきたというのでもない。
 だが、そう受け止めざるを得ないような社会にいまの日本はなっていないか。そう告発したのである。
 山口二郎北大大学院教授は「戦後レジームは融解しつつある。それを一言で言うなら、対外政策における平和と国内政策における平等の崩壊である」と『ポスト戦後政治への対抗軸』(岩波書店)で書いている。
 ありていに言えば、戦後社会がはぐくんできた「平和と平等」という価値観が大きく揺らいでいるのは間違いなく、そのことを私たちは注視する必要がある。
 悲惨な戦争を体験した日本の社会は、二度と戦争をせず、戦争に加担しないために二重、三重のたがをはめてきた。
 その最大の象徴が憲法九条であるのは言うまでもない。
 だが「福祉国家」の解体が進み、新自由主義思想が台頭するとともに、そのたがが外れてきたのではないか。
 もちろん、そのことが直接戦争につながるわけではない。が、それによって平和をめぐる受け止め方が変わり、社会的格差の進行とともに底辺部にいる若者の意識が変わってきたのは明らかだろう。
 一方で、〇一年九月十一日の米同時多発テロを機に国会はテロ対策特別措置法を制定。〇三年にはイラク復興支援特別措置法と武力攻撃事態対処法を成立させた。
 小泉純一郎元首相もまた、同年七月の参院外交防衛委員会で「今後、世界の中の日米同盟という視点が非常に重要ではないか」と述べている。
 日米安保条約は「世界の中の日米同盟」は想定していない。なのに、同条約の中で自ら制限した極東枠を、条約の変更もないままなし崩し的に飛び越えようとしている。
 これでは憲法前文や第九条の理念とは異なり、戦後長く目標にしてきた平和な国造りを米国の国益に引きずられて歪めてしまう恐れがあろう。
 二度と戦争をせず、戦争に加担しないためのたがをもう一度締め直すべきではないか。私たちは新聞社の使命として、これからもそのことを愚直に訴えていきたい。

【人間中心主義に帰れ 終戦記念日に考える 中日新聞】
 歴史は自らは語りません。歴史から学ぼうとする者に語りかけるようです。六十三回目の終戦記念日は辛(つら)い歴史と向き合うべき日でもあります。
 三百万人を超える戦死者と焦土を残して終わった昭和日本の破局は一九三一(昭和六)年の満州事変に始まったとされます。
 それまで軍縮と国際協調路線に賛同し、軍部の横暴を批判する良識を持っていた新聞を中心とした言論界も中国・柳条湖での南満州鉄道爆破で一変しました。
・資本主義の暴走と破局
 爆破が日本軍部の謀略であることは、現地に特派された記者がすぐに気づくほど軍の関与と宣伝が歴然としていましたが、「日本の正当防衛」「権益擁護は厳粛」で走りだした新聞は論調を変えることはありませんでした。
 言論も世論も事実に目をつぶり上海事変、日中戦争、太平洋戦争と進むにつれて神がかり。破滅に至る十五年戦争の熱狂はどこから来たのでしょうか。
 略奪や侵略が当たり前だった帝国主義の時代だったこともあるでしょう。欧米列強への恐怖と不安と長年の鬱積(うっせき)が一気に噴出したとの分析もあります。軍のマスコミ工作もあったでしょうが、この時代に垂れこめていたのは世界大恐慌の暗雲でした。
 一九二九年十月のウォール街の株暴落に端を発した大恐慌は、ドイツでナチス、イタリアでファシズムの政権を生み、日本では満州国建国の夢となりました。国家改造をめざした二・二六事件の青年将校決起には農山村の疲弊と貧困があったとされ、満州を経済圏にした日本は欧米に先駆けて国内総生産を恐慌前水準に戻します。第二次大戦のもう一つの側面が資本主義の暴走と破局でした。
・自由とヒューマニズム
 資本主義の暴走という点で、グローバル経済の行方が気がかりです。最も効率の良いものが勝ち残る地球規模の経済システムは、ひと握りの勝者と多くの敗者を生み、効率追求のあまり低賃金、過激労働、雇用不安を世界に広げ、多くの国で社会保障の削減となりました。石油などの資源争奪と食料まで投機対象とする貪欲(どんよく)と無節操は帝国主義時代さながらです。
 米国を舞台にジャーナリスト活動をする堤未果さんのベストセラー「貧困大国アメリカ」の衝撃は、貧困ゆえに教育や就職の機会を奪われ、軍にリクルートされる高校、短大、大学生たちの詳細リポートです。テロとの戦いの大義を問う前に、若者たちにとってイラク戦争が生活のための戦いであることが紹介されています。
 イラク戦争に参加した日本人青年が語っています。「人間らしく生きのびるための生存権を失った時、九条の精神より目の前のパンに手が伸びるのは人間として当たり前」。貧困と生活の脅(おび)えに平和の理念も吹き飛ぶ。日本のフリーター論客の「希望は戦争」がすでに現実の世界でした。
 資本主義暴走期の大正から昭和初期にかけ東洋経済新報の石橋湛山は「一切を棄(す)つるの覚悟」や「大日本主義の幻想」「鮮人暴動に対する理解」の社説で、人間の健全さを示しました。領土と植民地の解放、民族の独立自治、自由貿易体制こそ世界の進むべき道だと説いた時代を超えた論説です。
 湛山のこの自由主義とヒューマニズムこそ戦後日本の立脚点だったはずです。人間のための社会経済システムや社会保障体制が一刻も早く再構築されなければなりません。人間を雇用調整の部品や在庫調整の商品並みに扱ったのでは資本主義の敗北で、未来があるとも思えないのです。
 本紙のことしの終戦記念日特集は、映画「母べえ」の原作者野上照代さんと大宅賞受賞のフリーライター城戸久枝さんの対談で、戦争体験の風化もテーマです。
 城戸さんの受賞作「あの戦争から遠く離れて」は、取材に十年、執筆に一年半かけた力作。残留孤児だった父親の数奇な運命を訪ね歩く旅は、自分自身の存在の軌跡をたどる旅でした。
 父親が育った中国の寒村の川岸に立ったとき「父親の娘として生まれたかけがえのない人生の不思議」や「ここに存在するという奇跡的な偶然」などの感覚が頂点に達したと書かれています。
・かけがえなき人生だが…
 城戸さんの発見と感動はそのまま、われわれの一人一人が戦争と地続きの歴史のなかで、かけがえのない人生を生きていることも知らせてくれます。
 一人一人が人間として大切にされなければならないのは無論ですが、あの戦争では多くの若者が日本の未来を信じることで不条理の死の慰めとしました。他人と歴史に無関心で、それすら忘れてしまったら戦後の日本が不毛になってしまいます。

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