「地方財政制度と高知市の財政」を読む① 財政悪化の原因
高知市財政課「平成20年度版 地方財政制度と高知市の財政」(20年8月)という職員研修用の資料がある。全体に簡潔でわかりやすくできている。
そのなかでも、松尾市政からの大型事業の推進がいかに市政に負担をあたえているかが随所に読み取れる。一方、人件費比率は低いにも関わらず、そのことは強調されてない。少し検討してみたい。
「1.高知市の財政は本当にきびしいか」の章
実質単年度収支が、03年、04年、06年赤字となっており、厳しさを強調。借金は減少にむかっているが「高知市の額が多いか少ないかが問題」として、四国の県庁所在地で高いことを示している。
人口1人あたりの借金額を対比(高松市392万円、松山市360万円、徳島市357万、高知市823万円)し「今後も起債発行を抑え」る必要性を説いている。
ここでも借金=過去の大型プロジェクトが問題と読み取れる。だったら「総合あんしんセンター」「江の口コミュニティプラザ」の建設など新市まちづくり計画をどうするのか、が問われる。
これは「5.高知市の財政状況」の章で「07年度から、市債の元利償還金を上回る市債発行がなされ・・・プロジェクト事業の本格化で起債残高が膨らみ、市債制限比率も上昇」と書いてある。元利償還金が市債発行を上回るのはH15年、松尾市政の終焉とともにである。
四国4市の財政比較表が出ている。ここで高知市の経常収支比率や実質公債費比率が高く財政指標が悪いことが示されているが、表にある「歳出」と「人件費」の割合を計算していると
06年度 人件費(千円) 歳出 %
高松市 30.668.780 130.279.089 23.5
松山市 26.647.197 153.290.469 17.4
徳島市 21.564.308 86.769.139 24.9
高知市 22.507.374 130.922.142 17.2
となっている。
また、「経常収支比率」が高いというなら内容を示すべきだろう。
表には出てないが、非常勤職員の賃金、アウトソーシングの委託費は物件費にはいり、人件費とあわせ人的経費の合計の経常収支比率(05年度)は、行革先進地と言われる松山市と比較しても・・
・松山市36.6%、
・高知市32.6%
となっている。
ここでも、高知市の人件費の低さとハコモノ行政のつけが明らかになっている。
あと、分析の角度、説明の仕方で気になったところ・・・
「(3)高知市の財政を家計にたとえると…」
わかりやすさの努力はよい。
ただ、市税など「自主財源」と国県補助金の収入を「月給40万」にたとえ、ローンの返済(公債費)を除いても毎月46万円の出費があるとして、親からの仕送り(地方交付税)に依存している、としている。
地方交付税は地方の固有の財源であり「月給」にいれるべきお金である(税収が減れば交付税が増えるなど一体として基準財政需要額を支えるシステムとなっている)。行政用語として「依存財源」と呼ばれているが、それなら国県の負担金、支出金も入るわけで、いかにも「自立」できてないと描きだすための仕掛けのようで異論がある。
「2.地方財政制度」
コンパクトにまとまっている。ここでは地方交付税について「地方財源の保障機能をもつ」と正確に書いてある。
この章の中の「財政NOW 税源移譲と地域間格差」で、「国は税源移譲に消極的な姿勢が示されている」と書いてあるが、税源移譲には私は懐疑的だ。例えば国庫補助負担金3兆円=税源移譲3兆円と、その時点でパラレルであっても、税収が常に3兆円保てるかどうかもわからないし、地域間の偏在が生まれるかもしれない。自民党、財界を中心として道州制の議論の中でも、地域の税収、財源にみあったサービスという地域受益者負担主義の貫徹がいわれており、ナショナルミニマムを支える国の責任をはっきりさせないで議論すると「地域の自主財源の拡大」という主張は、落とし穴に落ちることになる。
一方、「財政NOW 不交付団体の増加は歓迎すべき?」では、基準財政需要額の縮小による不交付団体増加に否定的見地をのべ、上記の財界などが主張する交付税の財源保障機能の廃止(地域受益者負担主義)にきちんと警告をならしている。
「図書費などの流用費問題」について、自治体が予算を決める時期(3月)と交付税額が決まる時期(7月)によりずれているのであり、次年度で確保していると解説している。
ただ、交付税は、何にでも使える一般財源であり、標準的な算定として出されているのであり、それをどう使うかは最終的には、住民自治にまかされている。かつて財務省が「地方単独投資」分として算定された財源を、そのとおりに使ってないと「批判」したことがあったが、その通りしてたら地方の借金はさらに拡大していただろう。そうした本質論について、あとで「交付税の政策目的化」として簡単に触れているが、本当は大事な議論だ。
また、生活保護、就学援助など国が実際の費用に見合う算定をしてないので超過負担にあることはもっと厳しく指摘してよいと思う(就学援助は交付税算入額8千3百万円、実額4億円)。
「アンサーポイント」で交付税の政策目的化についての異論にも触れながら、「地方に実施をもとめるなら、その施策の実施が可能になるよう財源保障を確実に行っていただきたい」というのは、その通り。
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