「自治体の経営体化の現状と課題」 備忘録
7月26日、自治体学校・分科会「自治体の経営体化の現状と課題」-榊原秀訓(南山大学・法科大学院 行政法)氏の報告。イギリスの制度と状況に明るい氏の話は、NPMやPFI、行政評価制度などイギリスで生まれた背景と評価、批判をもとに、日本の現状について問題を提起された。
「日本で今、出ている懸念は、イギリスでほぼ批判されつくされている」とのべ、アカウンタビリティ、住民参加、民主的統制の強化という対抗軸とともに、あらためて、なぜ行政が必要なのか、憲法は人権保障を規定しているのか・・・その根元を考えさせられるものだった。以下は私の備忘録。
◆「行政改革」の全体像
・「地方行革」は1980年代半ばから実施しているが、この間、質的な変化があった。
行革推進側~ 山崎重孝(自治省で行革を推進)「行財政改革の新たな手法」の中で、
「(これまでの)アプローチは必ずしも充分ではなかった」「大胆な経営資源の再配分」と言っている。
・同時に量的に縮小も
公務員数~ 81年 人口1万人当たり274人で最高 07年232人 毎年最低を記録
都道府県職員 75年159万人 07年158万人と過去最低
一般管理 86.2%(75年を100として07年)
イギリスは、公務員をただ減らしているわけでもない。日本はただでさえ少ない。それをさらにイギリスの例を持ち出して、減らす根拠とするのはおかしい。
・公務員数の減少は仕事がなくなるのではない→ 他者、他のセクターに同じ仕事を継続している。
イギリスでもフルの公務員が減少、パートの公務員が増。民間に委ねるも出ているが・・・背景が違う。
日本では単純にお金の問題。イギリスはそうは言えない。フルもパートも同一労働同一賃金、パートを増やせばかえって管理費が増える。民間移行の場合の労働条件確保など保護法制がある。民間の場合もオーナーが変わっても労働条件の維持の法制度がある。労組もパート化を雇用機会の確保として評価している。
「官から民」の問題というが、よりひろくは労働運動、市民運動の問題。どんな社会を作るかの合意の問題。
◆NPM(ニューパブリックマネジメント)の2つの側面
①行政サービスの外部化、提供主体の多元化 NPO、民間
② 民間経営手法 民間の「行政評価」を導入 PDCAサイクルの要
①②も「民間がすばらしい」が前提だが ~
【行政評価】・・・イギリスのNPM(特に行政評価の)出発点は、自治体と住民との関係で、自治体が何をやっているかはっきりさせ、信頼を確保するための手段として、労働党政権下ではじまった。
職員の給与や昇進にリンクするものではない。
・住民との関係 民間はモノを買ってくれる人がいないと存続しない、その手法の導入・・・ 行政のサービスの満足度をあげる/「顧客主義」
しかし、政策決定へ参加は視野にない。いい商品をつくるための個々の声を一部反映させるだけ。
→ 憲法の規定からは、それだけではいいと言えない。民主主義の価値の重要な視点が抜けている。
例)イギリス 刑務所の民営化。顧客とは誰か…が問題に。顧客の意見を聞くとはおかしいのでは、と15年前にすでに疑問が出ている。日本は憲法があるのでそれでやればよい。
・予算と人事の権限委譲(細分化、より現場に近いところへ)にしたほうが効率的という「理由」
イギリス エージェンシー(独立行政法人)は公務員型。
日本 大学の独立行政法人~ 医学、工学などお金の持っている部は賛成、金のない人文系などは関係ない。日本は非公務員型の導入、交付金の毎年の削減など市場主義的。
・NPM 自由にさせるだけでない。コントロールの仕方が変わっただけ
イギリスの議論/事前の統制から事後の統制に変わっただけ。自由や自主性が高まったというのは言い過ぎ。
【外部化】…市場化。指定管理者制度、PFI、市場化テスト。なぜメリットがあると考えるか。民間のノウハウを使うというが、主目的は効率化、経費削減。それは人件費になる。
・PFIについて
イギリスでは、民間企業が自ら資金を調達して、行政にサービスを買ってもらう。民間の資金調達は高い、利益もある。だから民間が高くつくというのが常識。ではなぜ安くなるかというとリスク分担をするから。イギリスは契約社会だから、行政が採用しやすいリスク、民間が採用しやすいリスクがあるので、だからリスク分担するから安くなるという論理。日本人にはまったく理解できない。その文化はない。イギリスでも上手くいっておらず、弁護士の金儲けの手段としか思われてない。
日本では建物が安く作ることができると説明するが、公の出す数字は1つずつ積み上げたものではなく大雑把な計算。民間はある条件をクリアすれば自由に設計できる。だから民間の提案が安くなるのは当たり前。最初の数字を大きくすればVFMいくらでてもてでくる。だからイギリスではそういう計算はしてない。
ただ建設PFI…住宅ローンと同じ。一気に全部カネを出せないので、ローンを30年組んで出す、という考えで導入するなら問題はない。ただ「VFMが出る」といわなければ認められないので出しているだけ、大学の建替えなどはそう。
あとのサービスはどうか。不慣れなところに民間が入ってきて失敗している。特に医療関係はすべて失敗している。
責任の取り方、リスクのとり方が本来のPFIの売り。紹介のときはそういうが、実際に詰めてない。また、まるっきりPFIの責任だと割り切っている自治体があるが、それは自治体のリスク管理の意識がうすらいている。
銀行のチェックが入るのでダブルチェックとなるとの説明があるが、金融機関は、短期的利益の追求、自分が損をしないという立場でやっている。長期的な公的利益をどう確保するかという目で見てないので「ダブルチェック」は疑わしい。
・市場化テスト
規制がある分野で競争ができるように特別の法を作った。これまで民間委託してる分野は、これまでも官民の競争があった。市町村で条例つくり実施は全国二例。倉敷市、奥州市。それも2名以下の分野という小規模なもの。窓口の民間委託…全国でゼロ。国レベル。ハローワークは官の圧勝
*日本の経団連にあたるイギリスのCBI「市場化テスト反対」・・・いいサービスを提供しようとすると価格が上るのは当然であり競争になじまない。日本でも民間業者からも「結局は価格競争」と市場化テストに批判が出ている。
【キーワードの「競争」について】
「効率的、質のいいものが確保される」というが、PFI、指定管理者など入札以後は長期契約で競争が働かない。イギリスはモニタリングにカネをかけているが、日本はカネをかけてない。チェックを本気にするとコストがかかるので、こういう手法と取り入れる理由はない。
契約は、安さだけでなく、質の確保も含めで評価するとなっているが、質の評価は難しい。各委員が点数つけるが、誰が、何をどのような基準でどう評価してどんな点をつけたかわからない。総合点がでるだけ。あとから第三者がチェックできないような評価は評価にあたいしない。
・行政評価で低いところは外に出すというけれど・・・
第三者機関というが、人数は、基準が適切か、評価する人に専門性があるのか・・・という問題はある。1つの第三者機関が、すべての事業を評価するというのは、専門外のところを評価せよとなると簡単な基準でないとできない。安くなるとは・・・。それできちんとした評価をしたといえるのか。
イギリスでも極めて難しいと議論となった。また評価が低いとでた時にどうするかも議論となった。カネをかけてよくするのか、やめてしまうのか・・・なぜ低い評価になったのかの原因をつかむのは時間がかかる。それを分析して継ぎの政策判断するのと、評価の結果とは違うレベルの問題。
◆長のリーダーシップの公務員制度の変容
①長のリーダーシッフの強調 「自治体のマネジメント」
・マニフェスト~なにをしたいかはっきりさせる
「選挙の際にマニフェストに書いてあると批判を抑える役割」が少なくない~ 公約は1つだけでなく、複数のことが並び、相対的には賛成だが、すべてに賛成しているわけでない。だから重要なことは、住民投票で決めろという論もある。だからその後の説明説明とかが問題となる。
・トップマネジメントのサポート~ 副市長、経営会議、PTなど ~ 別の側面では仲良し集団になりがち。
・議会の役割は、多様な民意を代表する点で重要となるが・・・
しかし、山崎氏の本(前述)には「住民の代表である議会とパートナーシップを築くことが重要」としか議会の役割は出てきてない。マニフェストを示し、行政評価で声も聞いているので、トップマネジメントでやるだけ。議会の声を聞く必要はないというのがNPMの考え。
・予算、人事の権限委譲 → フラット化。それを財政課、人事課がチェックするという位置づけ。
②公務員制度の変容
・公務員は、憲法15条「「全体の奉仕者」、任用の「成績主義」、公務員法での身分保障されている。
・「行政改革」で、正規の公務員が携るサービスが限られるとなる。多様な行政サービスを非公務員が担う。
→ 二層の労働条件が出てくるのが問題に。イギリス、EUでは同一性の確保が進められた。
→ 日本。多様な非正規が行政サービスを担っている。3~4割の非正規職員、民間企業など。
公務員として、憲法15条「「全体の奉仕者」、任用の「成績主義」、公務員法での身分保障が担保されてない人が行政サービスに担う。
例えば「守秘義務」について… 政府は、みなし公務員として罰則を与えられるから民間でも行政を担当できるとしている。
だったら、なぜ公務員制度があるのか、という根本問題に本来はいきつくはず。それがなされてない。
・公務員の評価
長期的評価から短期的評価へ。組織全体から個人評価へ
「(かつては)評価の相場形成という形で多くの人が評価に関与してきた」「(今は)評価を短期に反映」(稲継「新しい公共経営と人材育成・人事評価」、村松岐夫篇)との批判がある。一部の者の評価が正確か?
◆行政サービスの現実と行政サービスの変容
① 行政評価の現実
田中啓「自治体評価の実像」 都道府県、市、特別区のアンケート/回答6割以上
・目的 事務事業の評価、住民へ説明責任、総合計画の管理
・質の確保 庁内の推進部門が中心。都道府県では29%、市で39%が一次評価者の判断のみ。
・成果 企画立案を「成果」の観点で検討する、有効性のない事業の廃止
成果が出てない分野・・・住民の理解の向上、全庁的な予算配分、人事配置の大きな変更
→ そもそもの目的と一致してない
・結論 都道府県6割、市の3/4が、評価制度の状態に満足してない。
「評価と切り離した事務事業の改廃、改善がなされている可能性が高い」と結論
→ ひとまわりすると一定程度が改善され行き詰まっている。イギリスは国民性がおおらかなので数値目標をキチッとすること意味あったが、日本では必要ない。
②サービスの変容
・公権力の外部化(刑務所、建築確認)がはじまっている /耐震偽装問題
・「マニュアル化ができ、回復可能なものは民間担当可能」というが本当か
→ 人の特別な事情、個別的な事情を判断するのは行政の判断が求められるのでないか。
◆アカウンタビリティ
①情報提供・公開
・透明性が改善されるというが・・・行政と民間の間の約束が公開され、行政評価されわかりやすくなるというが。
・住民にとってわかりやすくなっているだろうか?
なぜ特定の団体を選んだがわからない(特に総合評価方式)
民間のノウハウということで「企業秘密」ということで公開が後退する、ことも。
→ 公務の民営化といわれるが、「民間組織の公化」が求められる /公と民のイコールフッティング
行政のサービスを担う以上、情報公開(情報公開法、契約)、住民参加の仕組みを!
民間が一番理解できないのは、民主的統制の仕組み。行政は違うルールで動いている。
②住民参加
・NPM 顧客主義 ~ 参加の仕組みというが個別の苦情を商品の改善に反映
全体の政策決定に参加する仕組みはない
→ 日本では パブリックコメント、審議会の公募委員・公開などが行われている。
・パブリックコメント(国は行政手続き法)
バラバラで寄せられた意見を、行政の都合のいいものだけ取り入れる、という危険がある。どんな意見が誰からあったのかわからない。行政が勝手に要約しているなど・・・改善が必要
・さらに住民投票条例、審議会の改善(公開はもちろん、意見も言えるなど)の改善を。
・第三者機関・・・ 人選、運用のあり方が問題となる。以前の諮問会議と同じなところ多い。
総合評価方式の評定/どこが応募したか。何を議論したか、誰か何を評価したかがわかるように。
例えば、倉敷の議事概要「県外の業者が来て仕事とって低賃金で働かせている。それでいいのか」の議論が出ている。」と紹介されている。公開度を高める必要がある。
③議会統制
・行政評価では議会は軽視。長期契約では、契約時の議決はあるが契約中の内容には口を出せない。
高知医療PFIの実例…統制が難しい。
・パブリックコメント・・・透明性、公開性を高めれば、議会も使える。専門的知識を活用できる。
・審議会も同じ。例えば、裁判でも裁判員制度と住民参加。行政は…もっと求められるはず。欧米では素人だけの審議会もある。
→ こうした改善をしないと、行政評価をし、パブリックコメントしたといって形式的な「公開性」「科学性」を行政だけが独占することとなる。
◆おわりに
・行政サービスである以上アカウンタビリティの強化必要/NPMは古い。ハブリックバリューとか言われ出している。
・憲法的価値より効率化、という手段の目的化になっている。 そこで民主主義、アカウンタビリティの強化を。
・行政サービスの見直しは、本来、「主権があるから政策への参加当然だ」「人権があるので一定のサービスは権利だ」という憲法の見地で議論すればよいこと。
従来の自治体がサービスの受けての住民のことを後景においやってきたのでNPMが持ち込まれてきた。イギリスでは名文憲法がないので、住民と自治体の関係をどうするかでNPMが出てきた。
「顧客主義」と説明するのでサービス提供の側面だけ出てきている。通常の市場では、対価を払っているのでその限りで意見を言えるというだけ。憲法と無関係に議論している。住民は顧客ととらえるところに最大の問題。
自治体公務員の役割、行政の存在意義、憲法の政府つくる意義、人権保障を規定している意義を広めていかなくてはならない。
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