WTO交渉決裂 貧困拡大と食料危機の現実
7年間の交渉の末の大枠合意を目前に、決裂した。WTOについては、ボリビアのモラレス大統領が「先進国の自国の大企業のために途上国の市場を開かせるための争いの場」と批判している。国連人権理事会の「食料に対する権利関する特別報告書」は、自由化が進む一方で「かつてなく多くの人が今日、恐るべき恒久的な栄養不足に苦しんでいる」とし、WTOおよびIMF・世銀を名指しして、これら機関の政策が「食料を得る権利の擁護を掘り崩している」指摘している。「自由貿易」のもと、貧富の格差が拡大し、食料不足・食料危機が拡大したという現実がある。
こうしたことに各紙の社説はほとんどふれていない。
「WTO決裂―合意へ、出直しを急げ」朝日
「WTO決裂 交渉の早期再開に全力を」毎日
「WTO交渉決裂 農政改革の緩みは許されぬ」読売社説
「WTO交渉決裂 早期再開に知恵をしぼれ」産経・主張
「誰が世界を保護主義から守るのか」日経・社説
また、決裂は、アメリカが自国の農業保護を行いながら、他国に自由化を押しつける(この理不尽さの指摘もほとんどない)・・・そういう米主導の国際ルールが通用しなくなった証拠でもある。
ただでさえ低い日本の関税率をさらに引き下げ農業を破綻に追い込もうとした日本政府。いっそうの自由化を迫る各紙の社説・・・マスコミのスポンサーである財界の主張そのもので、破綻している「規模拡大」路線の「農業改革」に固執し、金さえだせば食料が買える時代がおわりをつげたもと、食料危機にどう対応するのかという視点があまりにも希薄だ。
各紙の主張を少し拾ってみると・・・
◆「WTO決裂―合意へ、出直しを急げ」朝日
「米国が同時多発テロに襲われた01年に始まった。テロの温床となる貧困をなくし、貧しい国々にもグローバル化の恩恵が及ぶよう、新たな貿易ルールづくりをめざしてきた」「ラウンド再開に備え農業改革に取り組むべき時だ。世界的な食糧高騰で内外価格差が縮小している。農業が脱皮して国際競争力をもつには、またとない好機なのだ。」
◆「社説:WTO決裂 交渉の早期再開に全力を」毎日
「7年近い交渉は、関税や国内生産者への補助金の大幅削減などを通じて、貿易や国境を超えたサービスを活発化させようというものだった。日本では、農産物の市場開放を強いられる損な交渉といった印象があったかもしれないが、それは正しくない。」
「農業分野についていえば、どのみち必要な国内農業の競争力強化を促す好機となり得たはずだし、何より食糧価格が高騰する中で、消費者が安く購入できる輸入産品の選択肢が広がる可能性があった。」
◆「WTO交渉決裂 農政改革の緩みは許されぬ」読売社説
「153か国・地域が参加する新ラウンドは、農産品や鉱工業品などの関税を削減し、世界経済を活性化させることが目的だ。合意できなければ、失う利益は大きい。早期に事態を打開すべきだ。」「この中で、存在感を示せなかったのが、農業分野の市場開放に抵抗した日本だ。」
◆「WTO交渉決裂 早期再開に知恵をしぼれ」産経・主張
「途上国に認められる農産物の輸入セーフガード(緊急時の輸入制限措置)をめぐり、インドが途上国を代表する形で発動条件のさらなる緩和を求めたため、米国が反発、激しく対立した」「国内の農業改革はもはや待ったなしだ。」
◆社説 誰が世界を保護主義から守るのか(7/31)
「米欧などの先進国が国際ルールづくりを主導し、途上国が従う時代は終わった。今回のWTO交渉の挫折は、その世界秩序の力学が変化した冷徹な事実を語っている。」「日本農業の行く末を真剣に案ずるのであれば、進むべき道は市場閉鎖ではない。耕地規模を拡大する改革と、高率関税に頼らずに農家を支援する方策を考える必要がある。」
« マンション建設 ゆきづまり深める | Main | 「マルクスの亡霊」に怯える資本主義 »
「経済・政治・国際」カテゴリの記事
- 2502地方議員学習交流会資料 新年度予算案の特徴(2025.02.24)
- 高額療養費制度改悪 がん患者・障碍者団体が声明。知事からも「国家的殺人未遂」と批判の声(2025.02.18)
- システム照準化 運用コスト爆上がり! 「3割削減」の想定を上回る分は国が責任を 中核市市長会 (2025.02.18)
- 「高額療養費」の改悪 国民負担増で、国・企業の負担減(2025.01.08)
- 基礎控除引上げ、消費税減税…絶対額でなく負担比率の変化で見る (2024.12.09)
「環境・農林漁業」カテゴリの記事
- 高額療養費、年金、高等教育、中山間地直接支払、周産期医療、学校給食 意見書案 2412(2024.12.08)
- 「原発」固執は、脱炭素の障害 再エネ普及の足かせに (2024.08.08)
- 農薬使用による食物のPFA汚染 規制に立ち遅れる日本 (2024.03.06)
- COP28総括 :不十分な「脱化石燃料」〜気候正義のさらなる連帯を FoE Japan(2024.01.16)
- 気候正義 残余カーボンバジェット あと数年? (2024.01.15)
Comments
TrackBack
Listed below are links to weblogs that reference WTO交渉決裂 貧困拡大と食料危機の現実:
» 食料危機のこと [人気ワードの口コミ情報]
日本人が知らない中国「魔性国家」の正体¥ 1,785(2008-01-19 発売)オススメ度:★★★★ ブログから検索 食料危機最近、食料危機について考えることが多くなりました。 自分ちで食べる分くらいは、家族で賄わないと…とか、電力は自然エネルギーから調達しないと…とか。 ...... [Read More]
初めてコメントを書き込ませて頂きます。私、現在、学生をしている者です。
今回のWTO交渉について、私は、アメリカとEUの過剰な国内農業保護による過剰農産物の輸出を有利にするための議論としての面が拭えない、と考えていました。「自由貿易のメリットが失われ、損失が大きい。中・印はけしからん。」と強調する一部テレビの報道に違和感を抱き、各新聞の社説を見比べてみましたが、どの新聞も、どうも「自由貿易」という金科玉条に触れてはならない、という雰囲気のように思えました(朝日新聞と東京新聞は、他紙に比べてやや曖昧な論調ですね。「農業改革」の中味にも全く触れていませんし。両新聞は、正直なところ、今回のWTO交渉決裂をどう評価すべきか迷っているのだと思います。)
ブログなどではどんな評価がされているのだろう?と疑問に思い、検索してみたところ、このブログに辿り付きました。残念ながら私はブログはやっておらず、mixiにたまに日記を書いている程度なのですが、「土佐のまつりごと」さんの記事が非常に重要なポイントを突いておられたので、私の日記で紹介させて頂きたいと思い、コメントを書き込ませて頂きました。
私自身も、農産物に関しては、とりわけ、発展途上国における食糧確保の問題、また、日本でも食糧自給率の問題を合わせて考えるべきと思っております。
Posted by: Y.N. | July 31, 2008 03:13 PM