矛盾の反映 社会保障国民会議・中間報告
社会保障国民会議の中間報告がまとまった。元々「消費税増税」の打ち出すための会議といわれていたが、明記できなかった。経済財政諮問会議が「消費税増税」「規制緩和」「社会保障抑制」など相変わらずの主張だが、国民会議の方は、構造改革路線を継続したい意思と、国民の実態、この間の政治の流れとのせめぎあいの反映が見て取れる。首相のもとの諮問会議にしても、こんな内容になった。国民の声が反映したという点などをざっとひろってみると・・
【1 はじめに ~社会保障国民会議における議論の出発点】
◆「社会保障制度が信頼できるものでなければ、国民生活の安定はありえない。」 「社会保障制度の運営には、企業もその社会的責任にふさわしい応分の役割を果たすことが求められる」 ・・・社会保障の意義、企業責任に言及
また、「構造改革に伴い制度の持続可能性が高まった」とのべているところでは、骨子にあった「評価されるべきだ」との文言が削除されている。社会保障をズタズタにしたのが「構造改革」路線であり、分科会の議論などを見るかぎり、削除されて当然だろう。あとでみるように「構造改革」が結果として、社会保障の土台を脆弱にした点をふれざるを得ない。
【2 社会保障改革の基本的視点】
最初に改革の流れにふれ、直面する問題として、少子高齢化の進行に言及しつつ、
◆ 医療・介護サービス提供体制の劣化
「救急医療体制の弱体化、産科・小児科を中心とする医師不足、地域医療の崩壊、介護分野における恒常的人材確保難など、生活を支える医療や介護サービスの基盤が劣化している。 『医療崩壊』という言葉さえ使われるようになった。」
◆セイフティネット機能の低下
「労働市場の二極化・格差の固定化が進み、被用者保険から脱落する非正規労働者が増大するなど、社会保障制度の網の目(セイフティネット)からもれてしまう層が増大している、との批判がある。また、本来、労働市場改革(規制緩和)とセットで行うべきだった社会保障改革 (非正規労働者への社会保険適用拡大等)が行われなかったことが、労働市場の二極化、非正規労働者の増大を増幅した、との批判もある。」
・・・医療崩壊、非正規雇用の拡大・・・ともに「構造改革」の結果である。ただ「批判もある」という書き方は、財界係委員との論争の結果なのだろう。また、就職氷河期時代のフリーターや「ニート」に問題が矮小化させようという財政諮問会議の流れを分科会の中間報告からは感じる。
「3 今後の社会保障改革の基本方向~社会保障の機能強化~」で
「制度の持続可能性」を確保していくことは引き続き重要な課題であるが、同時に、今後は、社会経済構造の変化に対応し、必要なサービスを保障し、国民の安心と安全を確保するための『社会保障の機能強化』に重点を置いた改革を進めていくことが必要である。」・・・抑制路線の転換を求めている
つづいて【3 社会保障の機能強化のための改革】では
「1 社会保障の制度設計に際しての基本的な考え方 」
◆自立と共生・社会的公正の実現
「社会的な助け合い・連帯の仕組みである社会保障制度にあっては、給付はニーズに応じて行われ、他方で負担は経済的能力に応じて行われるのが原則である。」・・自立、共生をいいなかせらも、「受益者負担」ではなく応能負担原則を確認
「2 社会保障を支える基盤の充実」では・・
◆「国民生活が安定していることは経済社会の発展の前提であり、経済成長を支える基盤となる。例えば公的年金は高齢者の所得保障を通じて世代間・地域間の所得再配分に寄与しているし、地域経済の底支えにも貢献している」・・・社会保障の「コスト」論に組みせず、経済発展の基盤としての意義を明記
◆ 現役世代の活力の維持・強化
「社会保障の支え手である現役世代の活力を可能な限り維持し強化していくことが不可欠である」「、就職氷河期に正社員となれなかった年長フリーター等の正規雇用化促進など非正規労働者対策を通じた若年者の安定雇用の確保・処遇の改善」・・・社会保障の担い手として若者の安定雇用、処遇の改善。つまり財界の雇用の流動化、社会保険からの排除を暗に批判。
「3 高齢期の所得保障」では・・
◆無年金・低年金問題への対応
「無年金者・低年金者の発生を最小限に食い止めるため、未納対策の徹底とともに、単身高齢者女性等を念頭に置いた基礎年金の最低保障額の設定、弾力的な保険料追納等の措置を検討すべきである。さらに、最後のセイフティネットとしての生活保護制度の再評価等についても検討すべきである」・・・骨子にあった、最低保障年金という言葉が消えている。生活保護制度の再評価では、第一分科会の中間報告は「諸外国の例なども参考に、より柔軟に適用できるような対応を検討することも必要であろう。」とのべている。
「4 医療・介護・福祉サービスの改革」では・・・
◆医療・介護にかかる需要の増大
「将来の財源確保が大きな課題となることは不可避である。」としなからも、「現時点におけるわが国の医療・介護サービスにかかる給付費は国際的に見ても必ずしも高くない。」と指摘。これは報告の冒頭に、戦後日本が世界一の長寿国になったことを「大きな成果」としてことと合わせると、社会保障の抑制に理がないことが浮かび上がる。
「5 少子化・次世代育成支援対策」・・・
◆未来への投資としての少子化対策
「若い人々が就労による経済的自立が可能な社会を実現するとともに、出産・子育て期において父親も母親もともに育児に当たり、子どもと豊かな時間が持てる社会を実現することが必要である。」・・・ここでも若者の雇用の安定が問題となっている。
そして「少子化が進む中、企業には社会的責任を果たす立場からも仕事と生活の調和に取り組んでいくことが求められる。また、それは、長い目で見れば、企業の生産性の向上につながる、企業にとってもメリットの大きな取組みである。」と企業の社会的責任に言及。
◆ 少子化対策に対する思い切った財源投入と新たな制度体系の構築
「家族関係社会支出の対GDP比をみると、欧州諸国が2~3%であるのに対し、わが国は1%未満と著しく小さい」「国が責任を持って国・地方を通じた財源の確保を図った上で、大胆かつ効果的な財政投入を行い、サービスの質・量の抜本的な拡充を図るべきである。」
最後、【4 社会保障の機能強化のための財源】では・・・
「社会保障制度の機能を十全なものにし、将来の安心と安定を確保していくためには、制度の効率化への不断の努力を継続する一方で、速やかに負担についての国民合意を形成し、社会保障制度に対する国・地方を通じた必要な財源の確保を図るべきである」
・・・ 消費税増税とは書けなかった。この報告が「他方で負担は経済的能力に応じて行われるのが原則である。」としていることと消費税増税は矛盾する。
NHKの世論調査(6月6~8日)で、社会保障費の財源確保であっても消費税増税には、「反対」51%(「賛成」22%)の声が出ている。
福田首相は、消費税を「決断すべき時」と言ったが、いよいよ対決の時となった。しかし、こうした報告をとってみても、情勢やたたかいが反映している。どちらにでも取れる矛盾にみちたものとなっている。
各分科会の中間報告は、全体の報告との関連で、一部を見たにとどまってるので、また、ふれてみたい。
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