国会ハケン攻防―政党の姿 毎日新聞「風知草」
本日の毎日新聞にが「秋葉原と国会ハケン攻防」と言うコラム(「風知草」専門編集委員・山田孝男)が載っている。
秋葉原事件について「派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長の話に触れながら、派遣労働の日本共産党の追及、民主党の腰砕け。しかし、「関根の調査や志位の追及は世論を揺さぶった」と、野党共闘の空中分解をのりこえて進むたたかいを語っている。
コラムは、派遣労働を容認する主張に「憎むべきは非道、無情の雇用をおかしいと思わない乾いた世の中だ。」と批判。「蟹工船」が今年37万5千部に達しことにふれ「このブームと雇用不安をめぐるさまざまな逸話は、やはり同根だろう。」と結んでいる。
「秋葉原と国会ハケン攻防」 関根秀一郎(43)は派遣労働者支援組織「派遣ユニオン」の書記長である。秋葉原通り魔事件の報道で関根の注意を引いた逸話があった。容疑者が凶行の3日前、派遣先の職場のロッカーの中にあるべき自分のツナギが見当たらないことに逆上したという、あれだ。 数年前、新宿にあるユニオンの事務所を訪ねてきた男がいた。派遣先でトラブルを起こして解雇され、相談に来た。30代に見えた。ある朝、出勤すると自分のロッカーの扉が開かない。接着剤を使ったイタズラだ。男はロッカーを揺さぶって大暴れし、110番までした。それでクビになった--。 「相談で一番多いのは解雇に対する不安です。犯罪の原因がすべて雇用だとは言いませんが、仕事に追われていても、生きていて楽しい瞬間があるとか、来年には旅行に行けるというような、ささやかでも希望をもてれば、ああいう犯罪は抑制されると思うんです」 東京出身の関根は岩手大を中退して労働専門誌記者になった。学生運動の経験はない。政党とも無縁。91年、未組織労働者の支援組織「東京ユニオン」専従職員に転じ、05年、「派遣ユニオン」をつくった。 90年代末以降、経済再生の号令の下で労働者保護法制が崩れ、コスト削減の便法として非正規雇用が増えた。不安定な期限付き雇用の中でもピンハネされやすく、危険業務にさらされがちな究極が日雇いだ。 関根は自ら日雇い派遣大手のグッドウィル、フルキャストに登録して体験し、「粉じんの舞う解体現場で正社員には防じんマスクが支給され、派遣は自腹でコンビニのマスク」などと実態を暴いた。 関根からの聞き取りを踏まえた共産党委員長・志位和夫の国会質問が評判になったのが今年2月。国会終盤の今月初め、日雇い派遣禁止の法改正を探っていた民主、共産、社民、国民新の野党共闘が空中分解した。 民主党内がまとまらなかった。この党は積極規制派と、強力な慎重派に分裂している。慎重派はグッドウィルと関連企業など派遣会社28社の正社員4万人で構成するJSGU(人材サービス・ゼネラルユニオン)と結びついている。日雇い禁止は派遣会社の経営を直撃する。JSGUは産業別労働組合「UIゼンセン同盟」の一員で民主党の支持団体なのだ。 野党共闘は崩れたが、関根の調査や志位の追及は世論を揺さぶった。2月、政府の労働政策審議会に、労働者派遣制度の在り方を見直す研究会が設置された。5月、人材派遣業協会が日雇いの一部自粛を表明。 6月3日、警視庁が、ピンハネを生む二重派遣のほう助容疑でグッドウィルの課長を逮捕。6日の社会保障国民会議で首相が「派遣労働者を守る制度の空洞化は絶対に避けなければ」と発言。8日の秋葉原事件をはさみ、13日の記者会見で厚生労働相が日雇い派遣の原則禁止と秋の法改正を明言した。 日雇いは弱い立場の象徴であり、日雇い派遣自体を否定すれば困る人が多いという批判もある。憎むべきは非道、無情の雇用をおかしいと思わない乾いた世の中だ。 先週18日、新潮文庫は、奴隷労働を描いた小林多喜二「蟹工船」の105刷を決めた。例年5000部出る本が今年は数万と説明してきたが、今年の最新集計は35万7000部に達した。このブームと雇用不安をめぐるさまざまな逸話は、やはり同根だろう。(敬称略)(毎週月曜日掲載) 毎日新聞 2008年6月23日
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