自由民権記念館 民間委託の愚
高知市の誇る自由民権記念館… 県外からお客さんが来た時には、必ずお勧めする「高知らしさ」を発信する施設である。それを市は、学芸部門は直営は継続しながらも、館の維持管理・会場の貸し出し業界を民間委託する方向を打ち出し、昨日、説明会が開かれた。地元紙によると「博物館機能が損なわれかねない」と懸念や反対意見が出されたとのこと。
学芸部門と長期的な資料の収集、管理。内部スタッフの専門性の育成などは一体のものだ。また、指定管理部門は、契約上は「請負」になるので、指揮命令はできない。学芸部門との共同作業もありえない。
社会教育施設への指定管理者制度の導入は、国会、大臣も懸念を表明せざるを得ないという流れに逆行た愚かな提案である。
自治労連のレポートで知ったが、6月4日、「社会教育法等の一部を改正する法律」が成立した際に、法案審議の中で、社会教育施設の機能と役割に、指定管理者制度が悪影響を及ぼしていることが取り上げられ、衆議院文部科学委員会と参議院文教科学委員会で全会一致で附帯決議があがっている。
「附帯決議」には
「国民の生涯にわたる学習活動を支援し、学習需要の増加に応えていくため、公民館、図書館及び博物館等の社会教育施設における人材確保及びその在り方について検討するとともに、社会教育施設の利便性向上を図るため、指定管理者制度の導入による弊害についても十分配慮して、適切な管理運営体制の構築を目指すこと。」
「社会教育主事、司書及び学芸員については、多様化、高度化する国民の学習ニーズ等に十分対応できるよう、今後とも、それぞれの分野における専門的能力・知識等の習得について十分配慮すること。また、各資格取得者の能力が生涯学習・社会教育の分野において、最大限有効に活用されるよう、資格取得のための教育システムの改善、有資格者の雇用確保、労働環境の整備、研修機会の提供など、有資格者の活用方策について検討を進めること。」
また、6月3日の参議院委員会で、公立図書館の指定管理者制度による弊害について認識を問う質問に対し、「『なじまない』ということで1.8%と受け止めていると答弁している。答弁の全文は以下参照。
○国務大臣(渡海紀三朗君) 指定管理者制度の導入の経緯というのは委員よく多分御存じなんだろうと思います。その上に立って、今、十七年度、少し古くなりますが、この社会教育調査によりますと、公立図書館への指定管理者制度の導入率というのはまだ一・八%なんですね。その最大の理由は、やっぱり今御指摘がございました、大体指定期間が短期であるために、五年ぐらいと聞いておりますが、長期的視野に立った運営というものが図書館ということになじまないというか難しいということ、また職員の研修機会の確保や後継者の育成等の機会が難しくなる、こういう問題が指摘されておるわけでございます。やっぱりなじまないということで一・八%なのかなというふうに私は受け止めております。
そういった点からすれば、今懸念されているような問題、こういうものがやっぱりちゃんと払拭をされて指定管理者制度が導入されるなら導入されるべきであろうと。
指定管理者制度を導入するかしないかというのは、これもさっきの意味とは違った意味で、一義的にはやっぱり地方自治体が判断をすることでありますから、しろとかするなとかこれは国が言うことは本来の指定管理者制度の趣旨にそぐわないわけでありますから、やっていただくということであろうとは思いますけれども、先ほど言ったような図書館に指定管理者制度を導入されるということであれば、先ほど言いましたような点について、しっかりとそういった懸念が起こらないようにしていただいた上で導入をしていただくということが大事なのではないかなというふうに考えております。
だいたい営利を目的としない施設に、指定管理者を導入するのは、ワーキングプアをつくり、公的な専門性を劣化させることでしかない。高知の歴史を学び、子供たちに高知で生まれたことを誇りに思う。そういう自己肯定観を育む施設でもある。観光の面でも、いま、全国に7000を越える九条の会があるが、現憲法のルールが高知にあり、本物の歴史、文化を発信する・・・ 目先の経費削減でなく、もっと本格的な活用こそ考えるべきである。
日本学術会議、日本図書館協会の指定管理者制度への懸念、批判の声明も紹介しておきたい。
同和地域にしかない市民会館、児童館は、職員配置を強化している。削るところは別にある。
【声明「博物館の危機をのりこえるために」 日本学術会議(07年5月24日)】
国及び地方自治体の財政赤字拡大に端を発する一連の改革には、経費節減の方針とサービス向上にむけた民間活力の導入が企図されている。
日本学術会議は、博物館(美術館、科学館等を含む、以下同)をとりまくこうした状況において、学術・芸術・文化の蓄積・普及装置としての国公立の博物館が、その機能充実を目的とした改革ではなく、財政および経済効率を優先する改革に影響されて、社会的役割と機能を十分に発揮できない状況に陥る可能性があることを憂慮するものである。本会議は、国公立の博物館が社会の制度的変化に臨んで、これに自律的・建設的に対応することが不可欠であると判断し、そのために有効な提言を行い、かつより充実した博物館活動を実現するための試案を示す必要があると認識する。・・・・
指定管理者による運営において、地域社会や市民への開放、運営の効率化、収蔵作品等の有効利用などの点で一部に改善が認められ、短期的な効果の上がっている組織のあることは確かである。しかし、一方で以下に示すような深刻な事態も招いている。
その1.指定管理者への期間を限った業務委託は、博物館の運営に不可欠な長期的展望の構築を困難にし、その基礎的役割を担う学芸員の確保と人材育成が危ぶまれる状況を招いている。また経済効率を優先するあまり来館者数や利用料金収入が過度に重視され、博物館本来の基盤業務である資料の収集、保管、調査に支障の及ぶ状況が生まれている。
その2.博物館サービスの基本は、実物資料の保存、継承と公開にあり、そのために長期を見据えた質の高い作業が要求される。こうした作業においても経済効率が追求されることはいうまでもなく、質の保持と経済性の間には一定のバランスが保たれている。経済的な効率へのさらなる圧力は、このバランスを脅かす危険性を含んでいる。
日本学術会議は、学術・芸術・文化の蓄積・普及装置としての国公立の博物館が、その機能充実を目的とした改革ではなく、財政および経済効率を優先する改革に影響されて、社会的役割と機能を十分に発揮できない状況に陥る可能性があることを憂慮するものである。
【 社団法人日本図書館協会の見解(05年8月4日)】
公の施設の管理に対して指定管理者制度を適用するかどうかは、その施設の目的を効果的に達成するために必要か、また住民サービスの向上に資するかどうかがまず検討されなければならない。・・・・
住民の視点で考えると、図書館事業の有効な達成にとって、事業の継続性と発展性を確保することがとりわけ重要である。資料の収集ひとつをとっても、それは不断の継続と蓄積を不可欠とし、うまくいかなかったからといって、やり直しのきくことではない。
図書館活動を発展的に重ねるノウハウを、サービスの現場で働く人、管理運営の組織の内に蓄積できることが重要であり、しかも無料原則を図書館サービス充実の原理と考えれば、いわゆる『民間の活力』を経済的収益に活かすにも自ずと限度がある。この制度導入のメリットは乏しく、むしろ事業の効果を損なう面が強いというほかない。・・・
指定管理者制度の創設には、収益を目的とする民間企業体にも公共サービスを開放することを目的として挙げられている。しかし、図書館サービスは無料の原則があることもあり、収益をうむ公共サービスからは遠い。このことから、公立図書館に指定管理者制度を適用することには制度的な矛盾があると考えられる
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