「08版ものづくり白書」目先のコスト削減に警鐘
10日、閣議決定された「ものづくり白書」は、多発するリコールの背景にコスト削減があること、また、国内の中小企業・下請け企業、雇用の安定をまもることが、ものづくりの力を将来にわたって支えるカギであることなどを示しており、なかなか興味深い内容となっている。
異常なコスト削減、規制緩和などに警鐘をならしている。
◆コスト削減が、リコール多発の背景
「ものづくりへの信頼の回復」の節がある。リコールが194件と2000年の4倍と増加している。「白書」は、… 近年製品事故の件数が増加している背景について、企業に対するアンケートによれば、製品事故増加の背景として
「製造スキルの低下」45.2%
「コスト低下圧力による検査、品質管理体制の弱体化・省略化」が42.8%
「製品ライフサイクルの短期化」が32.6%
「製造プロセスの高度化・複雑化」25.2%
とし
「特に安全面を犠牲にしてコスト削減を実施した場合、製品事故が発生しない状況では見た目の収益はコスト削減分だけ改善する。しかしながら、一度製品事故が発生すると、製品回収や信用回復のために多額の人的・金銭的なコストが発生する(図131-6)」と指摘し、「品質管理体制の強化も含め設計・開発段階からの取組の抜本的強化など経営層が主体的な対応策を講じることが不可欠であると考えられる。」としている
図表では、325万本を回収したエアゾール、78万台の電気衣服乾燥機、50万台回収した電気ころん、エアコンなど20種類の例をあげている。
◆下請けと取引の適正化が、大企業の競争力を維持する力
日本とアジア地域の競合が増している中で、国内ものづくり基盤産業に求められる役割は何か、とのアンケートに7 0.3%が「ハイスペックな技術のみならず、ロースペックな技術についても国内に必要」としている。
にその理由として、
55.3%の企業が「国内需要に迅速に対応するため」、
28.7%の企業が「新製品開発等で必要になるため」を挙げている。
… これは、付加価値の低いものはアジアでという「常識」に警鐘をあたえたものであろう。
そして、「下請けいじめ」を警告している
・「より良い製品を生産するためには、それを構成する部品の高付加価値化が必要であり、川下メーカーが川上のものづくり基盤産業に過度なコストダウンを要請していくことは、これら産業の経営基盤を弱め、部品及び製品の品質や性能などに支障を来すことにもつながり、最終的には川下メーカーの競争力低下を招く懸念もある。こうした観点から、下請適正取引を推進し、ものづくり基盤産業が適正な利益を確保できる環境を整備することが重要である。」
トヨタの看板方式などは、在庫管理の負担などを下請けに押し付ける典型である。
◆非正規雇用の拡大は、製品の質の低下を招く/人材育成
「白書」は、「我が国のものづくり産業を支える強みとなっているのが、高度の熟練技能、組織力を基盤とする『現場力』といわれるものである。と述べている。」
とのべ、団塊世代の大量退職にともなう「2007年問題」対応とともに、雇用が多様化する中で非正規雇用、派遣、請負の労働者の能力が製品の質を左右すると指摘している。
そして、非正規雇用の安易な拡大は、製品の質の低下など経営上の基本的課題に直接影響する、ともに「格差の拡大」に繋がることに懸念を表明している。
・「製造業において、非正社員、外部労働者といった正社員以外の労働者はごく短期間の経験で対応できる仕事だけでなく検査・試験・技能取得に数年以上を要する仕事等、専門性・変化への対応を要し、製品の質を左右する分野にも従事している」
・「製造業事業所において、非正規労働者の活用が安易に拡大した場合、技能継承に支障が生じること等に伴う品質・安全への影響も懸念されている。」「正社員以外の労働者は、総じて能力蓄積やキャリア形成の機会が正社員に比べ少ないとされており、製造業においても、このことが将来の処遇、雇用の安定等に係る格差に繋がることも懸念される。」
そして、労働者を大切することが「経営基盤の強化にむすびつく」として
「逆にいえば、これらの労働者の能力開発やキャリア形成を図っていくことは、労働者自身にとって有益なだけではなく、企業にとっても、人的資源の計画的開発・有効活用、ひいては生産性の向上、経営基盤の強化にも結びつく、重要な課題といえる。」と述べている。
・・・こうしたことを実現するには、白書」が言うような自主的とりくみでは限界がある。若者をもの扱いする働かせ方、過酷な下請けいじめなどに対する「社会的規制」が必要だろう。「それが、将来的な日本の持続的な発展をささえていくこととなる。
短期的な利益のために「規制緩和」を言い、若者をもの扱いする働かせ方、過酷な下請けいじめを実行している大企業が、日本社会の将来に責任を持ってないことがはっきりした「白書」だとも言える。
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