「高福祉高負担」論と消費税議論
社会保障国民会議が年金財源の試算を出したことで、「全額税方式はむつかしい」のではと読売、毎日、中日新聞などが報じているが、「医療・介護のサービスや給付は充実させて、そのために必要な負担もいとわないという立場をとるのか、社会保障費の伸びを抑えるために給付を抑えることに重点を置くのか。肝心な点の方向性がまだ分からない」(朝日新聞)とか、20日の経済財政諮問会議では民間委員が「膨張する社会保障費の安定財源確保のために消費税引き上げを含めた税制の抜本改革を」と述べているなど、「負担増」か「サービス切捨て」かのような議論、また財源で言えば、消費税だけが焦点になっているのに違和感がある。
そこで、①「修正国民純負担」こそが問題 ②日本の消費税率は低くない ③社会保障の充実は経済を活性化させる
という点で考えてみたい。
①「修正国民純負担」こそが問題
高負担高福祉」というが、税・社会保障の負担とその給付を差し引いた「修正国民純負担」こそが問題である。
「国民負担率問題を考える」研究会の卯辰昇氏によれば、
純負担率の国際比較
税・社会保障負担率(A) 社会保障給付率(B) 「純負担率」(C)=(A)-(B) の順番で
日本 29.2 11.4 17.8
ドイツ 39.0 24.0 15.0
フランス 43.7 26.4 17.3
スウェーデン 51.0 37.8 13.2
イギリス 35.1 20.6 14.5
米国 26.7 14.5 12.2
であり「純負担率の国際比較を行うと、日本は最も純負担率の高い国であることがみえてくる」と述べている。
・藤井威氏(財務省出身、元スウェーデン大使)は、
「社会保障給付費や公財政支出教育費を差し引いた修正国民純負担率は、日本の14.0%に対しスウェーデンは11.9%で、逆に日本の方が大きくなり、骨太方針で語られていることはずいぶん違うことが分かる。」と述べている。
(第18回 ESRI-経済政策フォーラムなどより)
②日本の消費税率は実は高い
消費税収が国の歳入全体に占める比率は
日 本 消費税 5% 22・7%
イギリス 付加価値税率17・5% 22・3%
イタリア 消費税率20% 22・3%
スウエーデン 消費税率25% 22・1%
(全保団連等資料から各国2002年、日本2003年データ)
税率が5倍のスウェーデンと日本で、消費税が国の歳入に占める割合はほぼ同じである。ヨーロッパは、生計費非課税が当たり前であり食料品、教育費などが非課税だからである。イギリスでは、食料品はほとんどゼロ税率、15歳までは、衣服・文具・遊具など何でも非課税。日常生活はではほとんど付加価値税は関係ない。日本の税率は、特に庶民にとっては世界の中でもダントツに高い。これをさらに引き上げようなどと、数字のトリックを利用した詐欺的行為だ。
③社会保障の充実は経済を活性化させる
先日のサンデープロジェクトでコメンティターが「ルールある資本主義、たとえば北欧などが経済成長率が強い」と述べていたが、
「マネージン」で「格差社会が進む日本の教科書となるか 消費税25%でも国民生活が快適で高成長をとげる北欧モデル」という記事が配信されていた。
その中で「国際競争力を保ちつつ経済成長をして、そのうえ社会福祉の面でも充実しているのだ。これこそ日本の目指す理想国家ではないか。政府による所得の再分配機能が大きな役割を果たすわけだ。それによって、所得分配の平等性を高めるだけでなく、失業や健康上の問題が生じたときには、セーフティネットが作用する仕組みになっている。実際に市場が生み出した分配状況を見ると、スウェーデンやデンマークは、所得下位層が占める可処分所得が高いが、日本は北欧諸国よりも低くなっている。つまり北欧諸国では、再分配機能が効率的に作用していて、反対に日本では効率が低いと見ることができる。」
「週刊東洋経済」1月12日号が、「北欧はここまでやる!格差なき成長は可能だ!」と特集をくみ、所得税がまず市町村に納められ、それが8割は福祉に回り、そこで公的サービスが維持され、雇用が増える、そして出生率も高い、というサイクルになっていることが紹介されている。
これに関し先の藤井威氏はフォーラムの中で公的部分を拡大している就業構造にふれ
「スウェーデンにおける就業構造の変化ということで見ていますが、全就業者での割合で見てみますと、民間サービス業はこの間43から47、それから製造業が30から19、農林水産業は12から2というふうに減少いたしました。
その減少分を、全部公共部門が埋めております。
公共部門の雇用はかつて15%だったものが現在では、32%が雇われている。この32の内訳は、国が5、ランスティング―これは県ですが6、コミューンが21というふうになっています。これは、百分率で示していますけれども、全就業者ベースでいいますと、1965年から2000年までの間に民間部門で30万人減って、公共部門で70万人ふえて、この間、高福祉高負担政策を遂行することによって、40万人の雇用増加を実現しています。労働力化率は74から77に上がりまして、特に女性の労働力化率は55から75というふうに、ほぼ男性に匹敵するところまで上がってまいりました。
このコミューン21%の雇用のうち、高齢者ケア、ヘルスケアと児童福祉で51%働いています。教育22%、合計で73%がこの3分野に投入されています。
このコミューンにおける雇用者の全体の4分の3は、女性であります。つまり、女性の労働力を使わないと、高福祉高負担は実現できない。逆に言いますと、育児の社会化がなければ、全体体系が成り立たないんです。」と述べている。
これなど「官から民」「自治体リストラ」に汲々とし、公的サービスを切り捨て、官製ワーキングプアを生み出し、社会の基盤を危うくしている日本の構造改革とま逆の話である。
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