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全国紙次々と「蟹工船」を特集

全国紙があいついで「蟹工船」ブームについて触れている(夕刊のない高知では紙面にのってない)。
 資本家に虐げられて徹底的に搾取される労働者の姿が、現代のフリーターに状況が似ているからこその現象だろう。 日経だけは、販売側の仕掛けを強調しているが・・・。 
毎日新聞「プロレタリア文学:名作『蟹工船』異例の売れ行き」
産経新聞 「小林多喜二「蟹工船」突然のブーム ワーキングプアの“連帯感”」
朝日新聞 「今、若者にウケる「蟹工船」 貧困に負けぬ強さが魅力?」
読売新聞「『蟹工船』再脚光…格差嘆き若者共感、増刷で売り上げ5倍」
また、日経新聞も「ベストセラーの裏側 小林多喜二「蟹工船」平積み・店頭広告 仕掛ける」(ウェブ版なし)

 戦前の日本共産党員作家の作品が共感を得る。90年代、資本主義万歳論、階級闘争消滅論などが言われたこともあったが、「資本の魂」は変わってない証左だ。そして現在も派遣法の成立・改悪にただ一つ反対した政党として、キャノンの派遣労働の告発、サービス残業の一掃などに取り組んできたが、その闘いが大きくひろがってきている。特に、独立系の労働組合など若者が立ち上がっているのが頼もしい。
 それにしても、わたしの「マンガ蟹工船」が貸したきり、いろんなとこをまわっているようで、返ってくる気配がない。
  
 ブームに火をつけたという雨宮氏と高橋氏の毎日新聞の対談を載せておきます。

「格差社会:08年の希望を問う 高橋源一郎さん・雨宮処凛さん対談」
毎日新聞 2008年1月9日 

 「格差社会」なる言葉が、すっかり定着した現代の日本。学者が現状を打破しようと「希望学」を提唱しても、フリーターは「希望は、戦争」と反発する。学生運動や肉体労働を経てデビューした高橋源一郎さんと、今やフリーターら若年貧困層の代弁者となった雨宮処凛さん。08年年頭、2人の作家が、希望のありかを探った。【構成・鈴木英生、写真・三浦博之】

 ◇プロレタリア文学が現実に--雨宮さん/暗さにユーモアを対置する--高橋さん
 高橋 今の時代は、明治に社会が戻った気がします。石川啄木は1910年に「時代閉塞(へいそく)の現状」で当時の若者について「彼等の事業は、実に、父兄の財産を食ひ減(へら)す事と無駄話をする事だけである」と書いている。内容が、07年に話題になったフリーター、赤木智弘さんの論文「31歳フリーター。希望は、戦争。」とまるで同じなんですね。
 雨宮 昭和初期の作品ですが、たまたま昨日、『蟹工船(かにこうせん)』を読んで、今のフリーターと状況が似ていると思いました。
 高橋 偶然ですが、僕が教えている大学のゼミでも最近読みました。そして意外なことに、学生の感想は「よく分かる」だった。僕は以前、「昔はプロレタリアというものがいたんだ」と、この小説を歴史として読んだけれど、今の子は「これ、自分と同じだよ」となるんですね。
 雨宮 プロレタリア文学が今や等身大の文学になっている。蟹工船は法律の網をくぐった船で、そこで命が捨てられる。
 高橋 そう、よく読むと、今で言う偽装請負なんだよね、あの船は。
 雨宮 蟹工船がリアルに感じられるほど、今の若い人の労働条件はひどい。派遣で働いて即ネットカフェ難民になる例もある。今の貧困層には、いつどん底に落ちるかわからない不安があります。アパートも敷金礼金ゼロの安い物件だと、家賃滞納があればすぐ追い出され、ホームレスになってしまう。こないだも、仕事を辞めてそのままホームレスになった元正社員に会いました。バイト先もなく、親がいないから帰る場所もなくて2週間飲まず食わず。ミックスナッツだけで10日間暮らした人もいます。友達も貧乏で、友達の家に転がり込んだら二人で一気にホームレスになったり。
 高橋 僕を含めた上の世代の多くは、日本にこんな貧困層がいると実感できないのかもしれません。当事者の声を聞いても、「大げさだ。そこまで貧乏になるはずがない」との思いこみで否定してしまう。僕だって最初は、雨宮さんの話をプロパガンダの一種ではないかと思っていたんです。プロパガンダは、1を「10だ!」と主張する。そのつもりで読んでいたら、実は「1が1」の話だった。相当多数の人間が「絶対的貧困」に陥っていたんですね。
 雨宮 高橋さんは、その「大げさだ」という発想からどうやって抜け出たんですか?
 高橋 僕自身1970年ごろから約10年間、肉体労働者をしていました。特に70~72年には自動車工場の季節労働者でした。夜勤は20時から翌朝8時で、帰っても疲れて何もできない。そういう労働者に「なぜスキルアップをして抜け出ないんだ」と言っても、無理でしょう。でも、その後建設現場で働いた最後のころの給料は日に8000円。1万円を超えた時期もあったと思います。
 雨宮 今の倍近い!
 高橋 なのに物価は上がった。僕自身の経験に照らせば、派遣の境遇もよく理解できる。
 当時の自動車工場では、正社員の方がむしろ絶望していたような気がします。「お前たち季節工は辞められてうらやましい」ってよく言われました。71年ごろ、正社員の一人に「将来の希望は何ですか」って聞いたら、10秒くらい考えて「退職だな」って返事が戻ってきた。希望は定年で退職金をもらうことで、それまでは何も考えないで過ごしていこうということだったんですね。
 雨宮 今は逆で、季節労働者が派遣労働者に「直接雇用だから」とうらやましがられる。退職が正社員の希望だった職場で、直接雇用が派遣社員の希望になっている。そういう職場で年収500万がほしいと。
 高橋 ところで、今のある種の反貧困論は一つだけ問題があって、楽しくないんですよね(笑い)。
 雨宮 確かに……。
 高橋 息苦しい世の中と対決するのに背筋をびしっとしたい気持ちは分かるけど、思想には余裕がないとダメではないでしょうか。たとえばマルクスの書いたものだって、戦闘的だったり論理的なものばかりじゃない。ユーモアがあるものだって随分ある。
 雨宮 今、正規・終身雇用にみんなは落ち着けない状態を前提にして、もっと明るくやる方法もあると思うんです。東京・高円寺では貧乏な若者が「家賃をタダにしろデモ」をやってます。そういう突き抜けた取り組みがある一方、多くの人が開き直れなくてどんよりしている。
 高橋 実際、経済的にも、これからの社会を考えても暗い。けれど、社会によって暗く思わされている側面もある。それに負けてしまうのは、戦略的に見てもよくないでしょう。もちろん、格差を許していいという話ではない。でもネガティブな情勢の正確な認識と、前向きな気持ちは両立します。なにせ、プロレタリアートには失うものがないはずなんですからね。
 ◇リアリズムが帰ってきた--高橋さん/モデルがないという「自由」--雨宮さん 高橋 ほかにも、希望はあります。最近小説が面白くて、特に中心は雨宮さんと同世代の作家たちです。みんな貧乏くさいし、愚痴が多い。でもリアリズムを貫いている。彼らは厳しい状態に放り出されていて、その中で自分を確立させているから甘えがない。
 雨宮 経済成長の時代は作家で挫折しても社会に戻れたけど、今はホームレスになるしかないので、覚悟が決まってるのかもしれませんね。
 高橋 戦闘的だけどやみくもではなく、豊かではないけれど誰も恨んでいない。彼ら自身は直接、希望を語らないが、世界に立ち向かっている。その構えが他者に向かう場合もあるだろうし、自分だけの仕事になることもある。いずれにせよ、堂々としていると思います。
 雨宮 今の20代に聞くと、中学時代、「これからは10人中2人しか幸せになれない」と教えられたと言うんです。その2人に入ろうとする人もいるけれど、全員が幸せになれないことをおかしいと思う人も増えている。これは希望ですね。ワーキングプアの現場は文学的で、人の生死をかけた言葉に出合ったり、バカみたいな優しさに直面したり。この1年くらい、「こんなに現実が面白いんだ」と打ちのめされてきました。
 高橋 「現実が面白い」はすごいキーワードだね。もちろん、今の現実は厳しく耐え難いものなのかもしれない。でも一方で、これまでは逆に社会全体が現実離れしていたとも言えるのではないでしょうか。戦後すぐの小説にはリアルな苦しみがあったけど、高度成長期以降、抽象的な物語や絵に描いたような恋愛ばかりになった。小説だけでなく全体的に「現実」から遠ざかっていたんです。
 「現実」が貧困と共にUターンしてきた。僕の30代ごろはリアリズムが古ぼけていたけれど、今はそれが面白い。リアルな人間には、境遇が悲惨でもそれをカバーする面白さがある。それが、希望かもしれません。我々は生きている以上、何かリアルなものに触れたいんです。それがネガティブなものであっても。
 雨宮 90年代の日本は、まだ豊かな中流社会と思われていた。私は、その退屈すぎてうだるような平和に窒息しそうだった。当時、私は貧乏だけど、自分が貧乏だと気付くことすらできなかった。それが一番、きつかったんです。今は貧しい人が「自分は貧乏だ」と言いやすい。同じ境遇の人が多いですから。その意味で、90年代より今は「すき間」があるのかもしれない。それに00年代、「どうしたら幸せに生きられるのか」本当にわからなくなりました。それはある意味ものすごい「自由」でもある。それもまた、希望なのだと思います。

 ◆対談を聞いて
 年金問題や食品など、偽装にまみれた昨年のキーワードは、「不安」だった気がする。社会に広がった不安の底流にある安全への希求が、貧困層など「弱者」の社会的排除につながるとの主張に、それなりの説得力を感じた。逆に、貧困層の中心として表象される若年労働者の希望を考えれば、社会全体に必要な希望も指し示せるかもしれない。そんな発想から、今回の対談を企画した。
 そして行き着いたのは、「リアル」と「すき間」に希望を見いだすとの結論である。楽観的過ぎると思う方もいるだろう。だが、この楽観こそ、高橋さんの言う「戦略的な正しさ」ではないか。ここから、今年の議論を始めてみようと思っている。【鈴木英生】

 ◇非正規雇用の増加と賃金低下
 高橋さんが肉体労働者だったころと比べて、今は身分の不安定な非正規雇用労働者が増えた。84年に労働者全体の15.3%だったのが06年は33%。原因の一つに、労働者派遣法(85年制定)による派遣労働者の増加がある。日雇派遣は元々、東京・山谷などの「寄せ場」で事実上認められていたが、同法は段階的に適用範囲を広げて原則自由化した。こうして、派遣労働者の数は86年度の14万人から255万人(05年度)に増えた。また、日雇労働者の日給は一時期1万数千円まで上がったが、今の派遣では6000円程度の人も少なくないという。ちなみに、消費者物価は00年を100とすると、高橋さんが肉体労働をしていた末期の79年は約70だった。

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 ■人物略歴
 ◇たかはし・げんいちろう
 作家、明治学院大国際学部教授。1951年生まれ。81年『さようなら、ギャングたち』でデビュー。著書に『優雅で感傷的な日本野球』(三島由紀夫賞)『日本文学盛衰史』(伊藤整文学賞)『ニッポンの小説-百年の孤独』など。
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 ■人物略歴
 ◇あまみや・かりん
 作家。1975年生まれ。右翼活動家、パンクロック歌手などを経験。著書に『生き地獄天国』『自殺のコスト』『悪の枢軸を訪ねて』『すごい生き方』『バンギャルアゴーゴー』『生きさせろ!』『プレカリアート』など。

毎日新聞 2008年1月9日 東京朝刊


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