生態系を重視した農業の可能性
世界的な食糧危機、環境破壊に直面しているもとで、生態系を重視した農業の可能性について、2つの興味深い記事がある。
WorldWatch Newsの「有機農業と世界の食糧」
農業情報研究が紹介している「キューバ農民 農業生態系重視 伝統農法の回復で食料生産に大変革」
日本政府は、他国に「食料の輸出規制は問題だ」と的はずれな主張をしているが、「飢餓輸出」と言われる大量の食料輸入など抜本的に農業政策を見直す必要がある。
先の論考では「余剰食糧を分配し直せば、現在の有機農業の収量と従来農法の収量とのわずかな差は問題ではない」としながら「有機農法の原則を多用する低投入型農業…は、小規模農家の現在の生産量をすぐにでも二倍、あるいは三倍に増加させる。さらに、生産物一単位あたりのコストが少ないので、小規模農家にとって魅力的である」とし、国連食糧農業機関(FAO)の2002年の報告書には、「発展途上国での有機システムは、従来の生産性を2倍から3倍拡大できる」と紹介している。この低投入型農業は、「完璧な有機」の実践よりリスク、コストが低いことが特徴である。
こうした農業は、増産だけでなく、「高価な肥料などに頼らないため、飢餓に苦しむ国々の小規模農民に分がある」という点や、「土壌侵食、飲料水の化学物質汚染、野鳥などの野生生物の死といった外部に及ぼす影響は、従来の農法に比べわずか1/3である」と、その価値を述べている。
キューバの実践について農業情報研究は「機械化、化学肥料・農薬の増投、遺伝子組み換え技術の応用による品種改良など、米国流の大規模モノカルチャーの導入で収量や生産性の急上昇を勝ち取ろうというのではない。逆に、彼らは、研究機関と協同、自然(農業生態系)を重視した技術を利用するとともに、伝統的農法を取り戻すことで、食料生産に大変革をもたらしつつあるという。彼らの挑戦は、食料価格高騰による何時終わるともしれない食料危機に見舞われている多くの途上国の農業開発が目指すべき方向を指し示す。食料自給率向上のために、企業の参入を容易にすることで農業生産の大規模化と効率化を加速せよという声が高まりつつある日本にも重要な示唆を与える。」と冒頭述べて報告を紹介している。
品種改良の利益を誰もが利用できること、伝統的農法を大事にし、高価な肥料や除草剤を使わなくても高い収量が得られることから、収益が大きくなっていることを紹介している。農業生産の意欲が拡大しているようで、現在使われてない国有地を開放し、食料自給の達成を展望しているとのこと。
そうした流れのもとにあるのは、旧ソ連の崩壊による経済危機のもと有機農業、エコロジー路線で立ち直った経験があるように思う。「200万都市が有機農業で自給できるわけ」(吉田太郎著)に詳しいが、その中で、各種のハーブなど作物との組み合わせによる農薬をおさえる技術の普及の努力、研究陣の厚さとその研究者と農民との協同の場「都市農業全国会議」、農業を軸にした都市計画などが紹介されていたことを思い出す。
ここには一部の企業の利益・・・商品作物のモノカルチャー生産、農薬・肥料会社の利益、技術の独占などを乗り越えたときに、どんな可能性が開けるか示しているように思う。WorldWatch Newsの論考が、結びで、そうした方向への切り替えが進まないことに不安を持っているのと対照的である。
日本も、防衛費に5兆円もの税金を使うことをやめ、食料の確保、国土保全、地方で若者が暮らせる社会をつくるために一次産業に投資をすれば、よほど日本社会を「守る」ことになる。
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