「国民生活滅びて、健全財政が残る」 元財務官僚
療養病床削減計画づくりを担当した元財務官僚の村上正泰氏が、中央公論3月号に、医療費適正化対策を担当し計画「療養病床23万床削減の舞台裏~このままでは医療・介護難民が発生する」との文章を寄せている。
「今振り返れば、私自身、『本当に15万床で大丈夫だろうか』と心配になる」とし、その理由として、削減の根拠は、医療区分のデータしかない。しかもサンプル調査で、このデータが実態を反映していなければ、見通し事態がおかしくなるが「医療費を削減しなければならない中にあっては、とにかく進めざるを得なかった」とのべ、「社会保障費削減が政策の至上命題となる中で、政策全体の整合性が考慮されないまま、拙速な形でこれだけの大改革が決められた」「国民生活滅びて、健全財政が残る」と告発している。
その経過として
・診療報酬のマイナス改定幅が先にきめられた。それを達成するために医療区分1の診療報酬が経営がなりたたないほどの大幅に引き下げがおこなわれた。
・入院日数短縮という目標の実施するための作業していた部局で、その実施を確実にするため、だったら「医療区分1」のベットを削減しようとなった。患者の受け入れ先として介護の分野を想定していた。
・その一方で、厚労省内部で、前年の介護保険制度の改定時には、議論にもなってなかった介護型療養病床の廃止の方針が、老健局から、医療サイドの十分な話し合いもなく出された。
・介護保険事業計画で、20年度までの施設数の枠が定められており、医療機関からの転換は「そもそも枠が決まっているので転換できない」事態がうまれた。
・さらに、15万床から20万床程度に見直す方向がだされ、「何を信じていいのか現場は混乱する」事態を生んだ。
などが暴露されている。
こんなことで、国民の命と健康、くらしの問題が決められたというのは、本当にはらだたしい。
村上氏は「『国民生活滅びて、健全財政が残る』ということになりかねない」と述べているが、そのとおりだろう。
また、氏は、経済財政諮問会議についても「何か責任をとるということはない」「言いたい放題の議論になっており、その対応に汲々としていては、まともな政策など考えることはできない」と告発している。そして、それは「霞ヶ関全体の共通問題」としている。
とにかく本当に最近の制度は粗雑である。障害者「自立支援」法、改定介護保険法、後期高齢者医療制度など「受益者負担」「自己責任」という大枠で、法の骨格だけきまり、あとは省令で、具体化される。その場しのぎのように次々と省令や通知が出され、全体像がはっきりしない。「自立支援法」では、3月の当初予算議会にまにあわず、市町村は、見込み、想定でアバウトな予算を組まざるを得なかった。
療養病床削減計画を受けて、患者がどこで、どのようにサービスを受けて生活をすればよいのか相談にのり、介護施設や在宅サービスなどのコーディネーターとなるのが地域包括支援センターであるが、改定介護保険法により、ケアマネージャの受け持ち数の制限と、軽度の方のケアプラン作成の報酬が引き下げられたことから、軽度の方のケアプラン作成が、自治体が運営している地域包括支援センターに集中し、とても本来の相談活動ができる状況になっていない。
このように、社会保障費の削減という財界要求にそって、まともな制度設計上もされず悪法が粗製濫造されている。
自治体の「事業仕分け」もそうだ。数名の外部委員が1つの事業について20分くらいで、「行政が実施する必要があるのかどうか」仕分けするものであるが、ある自治体では、中学校給食について「まだ、箸の持ち方を教える必要があるのか。両親は朝早くから裏山にでもでかけているのか」など粗雑な議論で結論が出されている。住民の生活、こどもの実態、教育としての役割などの議論はいっさいないし、そんなことに見識をもってない人物が、財政効率の点だけですべての住民サービスを切り捨てるのである。その結果についてそれらの委員が責任を負うわけではない。
国も地方自治体も「官から民」「自助努力」の大流行だが、まさに「国民生活滅びて、健全財政が残る」となりかねない。
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